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ガン=カタ皇子、夜に踊る――無気力な第十二皇子は影で悪と戦っています――  作者: 2626


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第五話 影武者生活×車椅子人生

 ――翌朝。

オレ達は粗末な平民の格好に着替えて、帝国城へ徒歩で向かった。

門番達に頭をペコペコと下げながら帝国城の大門ではなくその側の小門を通り、牛舎から牛二頭を引き出すと牛車に繋いで【黒葉宮】近くの後宮の裏門に寄せる。

牛に集ろうとするハエを適当に追い払いながら待っていると裏門が開いて、ユルルアちゃんが押す車椅子に乗ったゲイブンがテオの真似をして俯いたままやって来た。

オレ達は帽子を取って一礼すると、ゲイブンを車椅子から抱き上げて牛車に乗せた。

「いやー、『シャドウの兄貴』、話は聞きましたですぜ!何てこったですぜ……」

牛車に乗るなり、ゲイブンは目をぱちくりさせながらそう言った。

「ゲイブン、積もる話は後だ。先に着替えよう」

「ハイですぜ!」

オレ達は素早くお互いの服を交換すると、今度はゲイブンが牛車の外に降りた。

続いてユルルアちゃんが通学鞄を持って乗ってくる。


 ――ややあって牛車がゆっくりと動き出し、今度は大門から出て行く。

門番達が敬礼して見送るが、牛車が通り過ぎた直後には退屈そうに欠伸をしていた。




 幾ら割り振られている予算(生活費)が少ないとは言え、一応は皇族のテオは数頭仕立ての馬車に乗るのが普通だ。

だが、一度死ぬまで背中を鞭打たれた後遺症で下半身不随となり、車椅子が手放せなくなってしまったテオにとって――馬車は移動速度こそ早いのだけれど、振動が腰にモロに響くのだ。


 そのため、ノロノロ運転の牛車で毎日のように通学しているのである。


 【精霊】となったオレが体を同じくしているから、戦う時は自由に体を動かせているけれど――激戦があった後なんて、痛くてたまらずに何日か寝込む事だってあるくらいだ。




 「【精霊】が出てきたなんて、何度聞いてもビックリなんですぜ、『シャドウの兄貴』!」

ゲイブンはオレ達が事情を説明すると、重苦しい顔をした。

年上なのはゲイブンの方なのだが、何故かオレ達を『兄貴』と呼んでくれる。

「おいら、何にも出来ないのが悔しいんですぜー……」

いや、それは違う。

「馬鹿を言うな。ゲイブンが僕の影武者をやってくれているから、僕達はここまで来られたんだ。大事な僕達の仲間だ、ゲイブンは」

「そうよ」とユルルアちゃんも微笑む。「ゲイブンも、ちゃんとテオ様の役に立ってくれているわ」

「てへーっ!」

一気にご機嫌になったゲイブンは牛を引きながら道を行く。

この単純だけれど愛嬌がある所がゲイブンの憎めないところでもある。


 朝の通勤の時間帯とあって帝都の道は混雑していたが、この牛車にはガルヴァリナ帝国の皇室御印が掲げられているので、あおり運転をしてくる馬鹿はいない。

ただ。

本当だったら皇族のテオは、護衛となる近衛兵を幾人か率いてから城外には行くべきなのだけれど、予算を『シャドウ』の方につぎ込んでいるから……。




*******************

 壮麗な館や庭園が競い合っている貴族街を抜けてからもしばらく行くと、【帝国第一学院インペリアル・スクール】がある。

テオやユルルアちゃんも通っている、歴史の長い『学校』である。


 この『学校』には皇太子以外の皇族、貴族や富裕層の子弟、後は優秀な平民が特待生として通う事が許されている。

貴族や富裕層は馬車で、平民は付属の寮から徒歩で通学する事が多い。


 校門脇には馬車の乗り降りする区画があって、一番の最寄りにゲイブンは牛車を停める。

オレ達はゲイブンに担がれて牛車から降り、そのまま乗せて貰った車椅子を押して貰いながら校門へと進んだ。

今の【帝国第一学院】には数名の皇族が通っているので、皇族の警備を担う近衛兵が門番として配属されている。

彼らがテオに向けて敬礼したのに頷いて通り過ぎ、ゲイブンに担がれて階段を上って二階の講義室に到着した時――オレ達は違和感を覚えた。


 「うん?」

始業ギリギリに到着したのに、講義室ががら空きだったのだ。

数人の平民の特待生だけがオロオロとしていた。

おかしい。

今日の最初の講義は間違いなくこの講義室で行われるはずだ。

嫌な予感がしたが、オレ達がやって来た途端に特待生達は走ってきて土下座する。

「どうか、どうかお助け下さい、第十二皇子殿下!」

オレ達は、事情を察した。

「またアルドリックか……!」


 第十一皇子アルドリック・ニテロドス・ガルヴァリーノスはオレ達の異母兄の一人である。

が、テオもオレもコイツの存在を心底から嫌っている。

ヤツは性格と頭が母親アーリヤカ譲りの極悪っぷりで、よくこうやって平民の特待生相手に諍いを吹っかけるのだ。

本来ならば停学なり退学なり、相応の処分を下すべきなのに、コイツの実家のニテロド一族がなまじ勢力がある所為でそれも出来ないのだ。


 普段は無気力を演じているテオだが、流石にこれは見過ごせなかったらしい。


 「場所は何処だ」

「ご案内いたします!」

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