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【第一章完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る――無気力な第十二皇子は影で悪と戦っています――【リメイク版】  作者: 2626


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第三十九話 魂の改変×魂の解析

 「【神の血】の構造の解析に伴う改良が完了したよ。私の想定通りに、中の液体とその注入方法が問題だった。

液体に凝縮されている――人体と魂が保有できる魔力量を遙かに超えた魔力を瞬時に人体に注入するから、人体がその変化に対応できずに――所謂『バケモノ』へと変質してしまうのだ。

その問題の改良についての詳細な報告だが。

液体の最たる特徴である【固有魔法】を更に一つ追加する所は修正せず、先述した箇所だけを改良するべく、【魔法付与】にも使われている術式を私の【分解】を用いて大幅に解体・再構築した上で付記する事によって――」

「……!」

専門用語を並べて得意そうに説明するソーレの鼻持ちならない態度に、【V】が明らかに苛立っている事を察知したサティジャは困ったように微笑んで言った。

「ソーレおじ様、ごめんなさい。私、難しい言葉が良く分からなくって……」

「ああ、済まなかったね、つい」

ソーレは軽く謝ると、改良済みの【神の血】をサティジャに返しながら、

「なるべく専門用語を外して説明すると――【虚魂獣】となっても人間の外見が残る様に、【神の血】本体へ――私の【固有魔法】の【分解】を【魔法付与】したのだよ」

「まあ!」

受け取った【神の血】をまじまじと見つめて、サティジャは感嘆の顔をする。

「流石ですわ、ソーレおじ様!――もうコレを打ち込んでも、私達は美しいままでいられますの?」

「そうだ。魂がある限り、半永久的に維持できるとも」

嬉しそうにソーレは頷いて見せてから、首をかしげる。

「しかし『人の魂を捕食する』様になる性質と『命令系統の付与』の性質は――本当に修正しなくて良いのかな?やろうと思えば理論的にも構造的にも可能だが――」


 「ヤラナクテイイ」


 【V】が低い声で遮った。

「ソレヨリ、コレノゾウサンハドウスルンダ?」

「それが……現状で最大の難題なのだよ」

ソーレは腕を組んで考え込んだ。

「【神の血】の中の液体を変質させずに保持する事が可能な『素材』は――散々試したが――【固有魔法】が発現した人体の生きている神経系から抽出した髄液だけらしい……」

「チッ」

舌打ちした【V】が呟いた。

「トロレトガウバワレタノガ、イタカッタナ……」

思わずソーレは訊ねてしまっていた。

「トロレトと言うと、あのトロレト村かね?【帝国治安省】が軍隊に協力を頼んで一斉に摘発したと言う――」




 ――帝国城が大騒ぎになったので、当然ながらソーレも知っている。

元々は帝国の辺境に位置する、牧畜業で暮らしていた田舎の村であったらしい。

特に最高級の軍馬の産地として密かに有名で、辺境にありながらとても豊かな村だった。

領主が作った村人の子供のための学校まであったらしいと聞いて、ソーレも驚いたのを覚えている。


 そのトロレト村が、ある日いきなりハウロット率いる犯罪組織によって襲われた。

襲撃の目的が、金や物品の強奪や女子供への暴行等の――悍ましいが、ありふれた欲望を満たすためだけだったらどれ程良かっただろうか。


 成人している村人全員――【神の血】を生産するため培養される事となり、子供は犯罪組織の玩具にされて――平和だったトロレト村は、数ヶ月で壊滅したそうだ。


 【神の血】の存在を知り、密かに調査していた【帝国治安省】がトロレト村の事態を知った時は何もかも手遅れだった。

摘発後、村の大人達全員が医師達の判断によって安楽死を迎えた事までソーレは噂で聞いていた。


 確かに【神の血】の生産のためには【固有魔法】を持つ人体を生かしたまま脳髄から体液を採り続ける必要があるから、きっと彼らの不要な手足や臓器は切除・摘出された上に薬物を投与され、二度と人間として生きていく事が出来ない様に――『原材料』へと改造されていたに違いない。




 「ソレガナンダ」

【V】は冷酷にソーレを見据えて言う。

「モンクデモアルノカ?」

「いや、文句の有無では無いよ。トロレト村がもう存在していないのに、どうやって生きた人体を手に入れたものかと悩んでいるだけだから」

幾ら貧民街の人間を金で買ったところで、数が増えれば【帝国治安省】に疑われ、いずれはこちらの正体に追いつかれて――一切が露呈してしまうだろう。


 こうなると。

闇に生きる人間と繋がりがあって、かつ手下を大勢従えていたあの男がもう生きていない事が――今更になって最大の問題として浮かび上がったのだ。


 「ハウロットが生きていれば……」

思わずサティジャが呟いた所で、【V】がその胸ぐらを掴んだ。

「ハウロットハヤクタタズニナッタンダ!オレガコロシタ!ゴチャゴチャイウナ!」

これはいけない、とソーレは急いで二人の間に割って入った。

「ともかく、サティジャ嬢が今持っている全ての【神の血】は私が改良してしまおう。――それで今は良いだろう、【V】?」

「……チッ」


 仕方なく引き下がった【V】を横目で見ながら、ソーレは考えている。


 全て改良してしまえば。

――その報酬として【神の血】を1本、サティジャ嬢から分けて貰ったとしても問題ないだろう?




*******************

 宦官であるオユアーヴの仕事は幅広い。

【黒葉宮】に関わる雑用を、何でもやらなきゃいけないのだ。

オレ達が『シャドウ』をやっている所為で配られる予算が少なくて、皇族とは思えないような節約生活を送っているため、そのシワ寄せはオユアーヴにも来ているのだった。


 「食費が……茶葉を買う金が無いんだが」

だろうと思っていた!

今月はロウからの請求書(※ゲイブン謹製!)の額面が平均以上に多かったから……。

「……済まないがオユアーヴ、官舎街近くの大市場を巡ってきてくれないか……」

手間暇をかけさせて本当に申し訳ないのだが、値引き品を買ってきて欲しいのである。

ブラック労働だと訴えられても仕方ないくらいだったが、幸いにしてオユアーヴはその辺については無頓着だった。


 (……なあ、テオ。オレ達……人として最悪じゃないか?)

 (何も言うな……トオル……)


 「構わないが、帝国城の門限を越えてしまうかも知れない。遅くなりそうだったら、ロウの所に泊まって来ても良いか?食事は皿や鍋にある物を温めて食べてくれ」

「助かる……!こちらからロウに連絡しておく。貧民街を歩く時の合い言葉は覚えているな?」

「『ロウの知り合い』だったな。きちんと覚えている」

貧民街で顔が広いロウの名前を出せば、仮にあそこで強盗に襲われても無事に見逃して貰えるのだ。




 ――その日の夜遅く。

ロウから【無音通信機】で緊急の連絡が来た。

『オユアーヴが拉致されたぞ!』

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