第二十六話 危険な焦燥感×呪われた一族②
祖父の葬儀を終えたばかりの時、祖母が倒れた。
最初は祖父を失った心労が祟ったのだと思われたが、倒れた彼女の体中に謎のアザが浮かび上がった事で事態は急変する。
医師が呼ばれた所――生命維持で魔力を使った時に生まれる体内の【瘴体】が暴走しているからだ、余程のことが無い限り起こりえない新種の病だと青ざめた顔で告げられた。
結局、ほとんど何も出来ないまま祖母は亡くなった。
次は父だった。
精強で勇敢な武官で、いつだって健康そのものであった男がアザにまみれて倒れ、一日で亡くなった。
その次は又従姉だった。
お喋りが大好きで可愛いものが大好きだった幼い少女の亡骸を抱く親の慟哭ほど、聞いていられないものは無かった。
その次は、他家で生まれたばかりの従弟。
小さな体もアザにまみれていたそうだ。
産後の叔母はそれがきっかけで半年後に離縁されて出戻ってきた。
こうなると、【乱詛帝】が末期に吐いた『呪詛』の噂がまことしやかに流れ出す。
アニグトラーンの一族は呪われたのだ、と。
その間にもバタバタと親族は亡くなっていく。
老いも若きも男も女も問わず、次々とアザにまみれて無差別に。
ついに長年仕えていた召使い達でさえ震え上がって、どうかお許し下さい、辞めたいのですと泣きながら訴え出した。
年上の又従兄の一人が黙って紹介状をしたためていた。
――この事態に誰よりも追い詰められたのは叔父の一人だった。
酔うといつだって見事に唄いと舞踊を披露する、とても陽気で明るい男だったのをギルガンドは覚えている。
けれど子供達と妻に相次いで先立たれてから様子がおかしくなって、酒浸りになって、ある日、その酒に自ら毒を入れた。
この日から三年の間、アニグトラーンから死者は出なかった。
三年後のその日に、紹介状をしたためた又従兄がアザにまみれて亡くなるまでは。
アニグトラーンの残る一族は話し合った。
話し合いは三ヶ月に及んだが、彼らの意志はまとまった。
――『呪詛』を浄化する方法が見つけるまで、三年ごとに年老いた者から一人ずつ毒をあおる。
彼らは手を尽くして調べた。
希望はあった。
【精霊】である。
誰よりも間近で肉親達の惨劇を見続けた彼らは理解していた。
これは病では無いし、ましてや胡散臭い『呪詛』でも無い。
【精霊】の【スキル】の仕業である、と。
これほど長く続き、範囲も広く、かつ威力も凄まじい攻撃を放てるのは【精霊】だけ。
人間の【固有魔法】ではほぼ不可能である。
この時、ケンドリックは【赤斧帝】として君臨していたが、功臣でもあるアニグトラーンの悲劇に心底から同情して【タイラント】の力でどうにかならぬかと努めてくれた。
なのに、【タイラント】でも――その後に生まれた皇太子ヴァンドリックの【ロード】、皇太子妃ミマナの【オラクル】でも――その時、世界にいた【精霊】の誰一人にも、どうにもならなかったのだ。
気付けばアニグトラーンの広大な館に残っているのは、ギルガンドとその母、彼の婆やであるキバリだけとなっていた。
アニグトラーンには恐ろしい呪いがかかっているとその頃には大層な噂になっていたから、盗賊さえも恐れて近寄らなくなった館は荒れ果て、どこもかしこも静かになってしまっていた。
今からおよそ三年前、ギルガンドは母を看取った。
心労が祟って痩せ衰えた母が目の前で毒をあおると言うのに何も出来なくて、ただ手が冷たくなっていくのを握りしめていた。
ギルガンドは徹底的に驕慢で捻くれた男である。
己の強さには自負があるし、その自負と同じくらいに現実に強い。
己が死ぬ事くらいでいちいち泣きわめくような脆弱な精神など持ち合わせていない。
けれど、たった一つ――たった一つだけ感傷を抱いている。
未来永劫に叶わぬとは知っている。
それでも思わずにはいられないのだ。
あの賑やかな中で死にたかった。




