第二十四話 滅廟に到着!×そして事態は
【精霊】を従える者は【精霊】を先に討伐しなければ、完全に殺しきる事が出来ない。
従える者が体に負った傷を、【精霊】がある程度、自動で肩代わりしてしまうからだ。
【乱詛帝】なんて【パペティアー】を先に討った上で首を刎ねられてもなお、呪詛の言葉を叩きつけたそうだ。
『此の世に呪怨の尽きぬ日は無し!朕は必ず蘇り、全てを呪い滅ぼして見せようぞ!』
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基本的にオレのような【精霊】は、従える者以外の人前に姿を現さない。
【精霊】が姿を衆目に見せる時は、吉兆、皇帝の治世の安寧の象徴と呼ばれ、大いなる慶事とされているくらいだ。
かの【赤斧帝】は【精霊タイラント】を従えていた。
この【タイラント】に限っては、しょっちゅう姿が目撃されていたらしい。
まだ【赤斧帝】の寵愛が、テオの母親でもある皇后メルディーニアに誰よりも注がれていた頃――。
帝国城で、メルディーニアの膝の上に頭を乗せては、『メル、ぼく、いいこ!いいこいいこしてー!』と甘えていたそうだ。
もっとも、【赤斧帝】の寵愛が失せて行くにつれて、その光景も見られなくなったらしい……。
【タイラント】は【破壊の化身】と恐れられた攻撃力特化の怪物である。
あまりにも強かったから、皇太子ヴァンドリックの従える【精霊ロード】、皇太子妃ミマナの従える【精霊オラクル】が束になっても殺せなかった。
【タイラント】が殺せないと言う事は、すなわち【赤斧帝】を殺しうる手段が無いって事だった。
【赤斧帝】を生かしておけば【寵臣達】が再び担ぎ上げてしまうかも知れないが、どうしようもなかった。
やむを得ずに皇太子達は【赤斧帝】と【タイラント】を、【滅廟】に厳重に幽閉したのだった……。
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【滅廟】は近衛兵が厳重に――物々しいくらいに護衛している要塞のような施設だった。
民間人が立ち入れるのは一番外側の堀の外までだったが、その手前に小さな祠のようなものが作られていて、沢山の供え物が置かれていた。
オレ達の他にも詣でているヤツが大勢いたが、全員が地面に膝を突いて伏すようにしている。
誰も、【滅廟】を直に見ようとしていない。
オレ達が近づくと、その中の一人が伏せたまま言った。
「こうやって拝んでいると、縁切りの効果が出るんだよ。早くしな!」
「ああ、分かった」
ロウは適当に返事をして、モタモタとした動作で地べたに膝を突いた。
オレ達も続いて伏すようにすると、やがて遠くから接近してくる足音が聞こえた。
代わりに周辺を観察していた【パーシーバー】が、足音の方を向いた気配がする。
『このパーシーバーちゃんの大事なロウの予想通りだったわ……っ。この生体反応は間違いないわ、【虚魂獣】よ!』
『!』
咄嗟に動こうとしたオレ達を制して、【パーシーバー】が呟いた。
『待って!やっぱり【固有魔法】を使っているみたいで普通の視覚では捕捉できないわ。このパーシーバーちゃん自身に【スキル:センサー】を駆使していなきゃ分からなかったもの。恐らく【不視】か【隠密】を持っているんじゃ無いかしら……っ』
予想は出来ていた。
【神の血】は一度打ち込んだが最後、壊すか体ごと切除しない限りは元に戻れない。
つまり、バケモノの外見をどうにかする【固有魔法】を持ち合わせていない限り、気付いた周囲が大騒ぎになる。
ましてや【滅廟】は皇太子達にとっての重要拠点、警備状況も厳重極まりない。
そこを拠点としていながら、今まで気付かれずに【虚魂獣】が活動していたとなれば――イルン・デウの【曖昧】【汚濁】の時と、状況は一部似ているのだろう。
『よし。なら、打ち合わせ通りに頼んで良いか?』
『勿論よ!ロウ、合図をしたら前の方に投げてね!………………………………今よっ!』
ロウが暴投寸前で上空へと投げたのは、オレ達が苦労して昨夜作成した、安くてケバケバしい色の顔料を水で溶かしたものをパンパンに詰めた袋だった。
それが空中高く舞い上がった所で、ロウの【固有魔法】である【衝撃】が炸裂する。
空中で破裂した袋から雨のようにケバケバしい色の顔料が降り注ぎ――。
「し、しまった!」
――【不視】を使っていた【虚魂獣】の位置を明らかにしたのだった。
「何だ何だ!?」
「おい、誰だ!?」
伏せていた民間人達が顔を上げた瞬間。
上空から隼のように急降下してきたギルガンドの一閃が、【神の血】が打ち込まれていた【虚魂獣】の右肩ごと切断したのだった。
瞬く間に辺りは悲鳴と混乱に覆われ、民間人は蜘蛛の子を散らすように逃げて出した。
右肩があった場所を押さえてのたうち回る近衛兵を気絶させると、ギルガンドはロウとオレ達に向かって怒鳴った。
「退避していろ!」
「言われなくてもそうするさ」
「ひいーっ……!」
平然としているロウに、溺れた者が板にしがみつくがごとく抱きついているオレ達も何度も頷いた。




