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【電子書籍配信記念SS】公爵令嬢ディアレイン・ベスターの就活

☆NolaブックスBloom様から「婚約破棄されましたが、泣き寝入りはいたしません!〜悪役令嬢は身勝手な元婚約者に囚われた聖女を救出することにしました〜」と改題し、電子書籍化しました!2026年2月7日より配信開始です。


※WEB版と電子書籍は一部キャラの設定や内容が異なります。

※このSSは電子書籍版に準拠しているのでご注意ください。

「師匠。ふつつかものですが、本日はどうぞよろしくお願いいたします」


「顔を上げてください、ディア様。そもそも、職場見学なんてディア様に必要かどうか未だにわからないんですが……」


「あら、もちろん必要です。これは私にとって、いわば就職活動の一環なのですから!」


「本当に、必要ない気がしてなりません」


 ハヅキ様が元の世界に帰られて、半年が過ぎたとある日。


 私はエルディオ様と共に、早朝の王立図書館にやってきた。かつて偽名を名乗り変装し、見習いとして従事した経験があるここは、私にとって特別な場所だ。


「今日は、師匠が如何にして司書業務とカレンデュラお義姉様の補佐を両立しているのか、しかと見学させていただきます!」


「あ、そういう目的があるんですね……」


 ◇◇◇


 第一王子の婚約者という肩書がなくなり、ただの公爵令嬢になった私と違って、エルディオ様はめまぐるしく環境が変化していた。隣国に留学中だった第一王女のカレン様が次期女王に内定したため、あと一年残っていた留学期間を切り上げて帰国されたのだ。それに伴い、エルディオ様は正式にカレン様の側近となった。


「ただ側近にするのではなくて、師匠の王立図書館の司書としての籍を残したまま側近に任命されるなんて、流石お義姉様です」


「要するに、馬車馬のように働けってことですよ……」


「ふふっ、師匠の能力に全幅の信頼を寄せているのですよ」


「そうだといいんですけどねぇ……」


 これまでのカレン様は、王家の血を引く公爵令嬢の私を娶る弟が王位に就くのが、アデリア王国にとって最良だと考えていたのだという。だからこそご自身はヴェイア王国へ留学し、国内で存在感を主張し過ぎないように配慮なさっていた。この国より魔術遺産の研究が進んでいるヴェイア王国の王太子との縁談も内々に進んでいたそうなので、いずれ王位に就く弟とその妃になる私を国外から支えるおつもりだったのだろう。


 「お義姉様の側近は、男性がほぼいないのですよね?」


「いずれ国を出て他国に嫁ぐ想定でしたから、高位貴族の男性を側近とするのは難しかったんですよ。護衛騎士の方が数名と、お年を召されて一線を退いた文官の方が少しいるぐらいですね。幸いカレン様を支持する高位貴族は大勢いますから、様子を見ながら少しずつ若手を登用していく予定です」


 この時間の図書館は職員もまだ少ない。ちらほら居る顔見知りの司書さんたちに軽く挨拶をしつつ、エルディオ様と共に執務室へ向かいながら話す。


「でも、お義姉様を支持する高位貴族の方々は、ご子息を次期王配にすることが目的なのでしょう?」


「それはそうでしょうね。なんせカレン様の婚約者の座は未だ空席で、現状決まる予定もありません」


 優しく美しく聡明で、その上時期女王に内定したカレン様には、国内外から次から次へと縁談がくる。立太子はまだ先なので、それまでになんとかその座を射止めたいのだろう。気持ちはわかる。だって、なれるものなら私だってなりたい。候補者なんて全て蹴散らしてその栄誉にあずかりたい。


「口惜しいことです……本当に」


「ディア様、落ち着いてください。どうどう」


 執務室のドアノブがミシッと音を立てる程強く握ってしまった私の手を、エルディオ様がそっとほどいてくれた。最近ミリアが『エルディオ様は随分自然にお嬢様と接するのですね。まずは兄ポジションに収まるおつもりでしょうか?先は長そうですね』と話しているのを見掛けたけど、お兄様がいたらこんな感じなのだろうか。少しくすぐったい。


「側近の選定も、師匠が任されていると聞きました」


「それは大袈裟ですよ。俺がやるのは、せいぜい候補者を見繕う程度です」


「貴族だけじゃなく、学園で優秀な成績を収めた平民たちの情報もお持ちだと聞きました。それも、お義姉様と同年代の方だけじゃなく、在学中の私たちの世代まで把握されているとか」


「男性はともかく、女性の側近は妊娠出産で一線を退く人も多いので、なるべく幅広い年代の方に勤めてもらおうかと。職場復帰を希望する人たちのことも考慮しますが、貴族社会ではそういった制度が確立していないので、まずはそこからですね」


 机の上には、図書館業務に関する書類の他に、お義姉様の側近候補の資料が置かれていた。最近のエルディオ様は朝早く起きて、図書館の始業時間前にお義姉様から任された側近業務をこなしているのだという。


 そこまでお義姉様の信頼を勝ち得ているエルディオ様を尊敬する気持ちと、羨ましいような気持ちと、なんだかモヤっとする気持ちが私の胸に生まれた。


「……師匠、ちゃんと休んでくださいね」


「ディア様?」


 このモヤモヤは恐らく、働き過ぎなエルディオ様を心配する気持ちから来ているに違いない。


「お義姉様の采配ですから、師匠が倒れてしまうほど過剰に仕事を回すとは考えられません。だけど、働き過ぎには気を付けてくださいね?どれほどお役に立てるかはわかりませんが、忙しいときには私のことを思い出して、いつでも呼んでください」


「王子妃教育を受けたディア様が手伝ってくださるなら、心強いです。ありがとうございます」


 優しく微笑みかけてくれるエルディオ様を見て、モヤっとした気持ちは晴れたけど、今度は何故かちょっぴり落ち着かない。これはきっと、師匠が頼ってくださる日のことを想像して、浮足立っているのだろう。いずれ王子妃になる者として、いついかなるときでも平常心でいるよう教え込まれていたのに、私もまだまだだ。


「では、早速ですが一つ手伝っていただいても?」


「もちろんです!私にできることなら!!」


「この側近候補の資料から、女性の分をお渡しします。資料に書かれていない情報を追記して、カレン様と相性がよさそうな方を教えていただけますか?女性の事なら、俺より断然詳しいでしょうから」


「お任せくださいっ!!!」


 ◇◇◇


 それから図書館の開館30分前まで、二人で執務室で過ごした。とても充実したひと時だったので、卒業したらエルディオ様と同じように図書館とお義姉様の補佐を兼務出来ないか、真剣に検討しようと心に誓った。

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