13.理不尽
ルドルフ視点
「よぉ、不細工」
入学式が終わり、相変わらず僕の容姿の事をヒソヒソと話している者達を無視しながら教室へと向えば、第2王子のオリバー殿下と、現宰相の三男であるグレイ・アッシュ、騎士団長の次男であるゴルド・レトバリー、王立魔導具研究所所長の四男のダーク・ブラクロといういつもの顔ぶれに絡まれた。
昔から、この人達は何かと突っかかってくるのだ。
多分、勉強も魔法も、剣も、全て彼らが僕より劣るからだろう。
「オリバー殿下、ご無沙汰しております。しかし、挨拶もなく、突然容姿を誹謗するとは、失礼ではありませんか」
「フンッ 不細工を不細工と言って何が悪い」
「何が悪いのかもお分かりにならないのですか」
この馬鹿王子が、あの聡明な王太子殿下と本当に半分でも血が繋がっているのか不思議だ。
「貴様はいつも生意気だな! 私はこの国の王子だぞ! 貴様のような奴は不敬罪で牢へぶち込んでやるからな!」
「そうですか」
出来もしない事を幼い子供のように喚くこの王子は、王族の自覚がないようだ。
やれやれ、昔からちっとも成長しないな。
「オリバー王子、こんな不細工と話していては目と口が腐りますよ」
そう言うのはグレイ・アッシュだ。
宰相とはいえ、伯爵位の父を持つ彼は、当然公爵位の父を持つ僕に、このような態度を取るべきではない。しかし、学校という場は皆が平等であるべきというルールがこいつらのような者を増長させる。
「俺は吐きそうだぜ。何でこんな奴が同じクラスなんだか」
ゴルド・レトバリーだ。武芸専門だと自ら公言しているが、僕に勝てた試しはない。
「オレぇ、きれーなもんしか目に入れたくない質だからぁ、耐えらんないわ」
ダーク・ブラクロはそう言って離れていった。彼も魔法で僕に勝った事はない。
当たり前だ。僕はユーリに釣り合う男になる為、必死で努力してきた。文字通り血反吐を吐くくらいに。しかし、奴らはなんの努力もしている様子はない。
そんな奴らが僕に勝てるわけがないのに、いちいち絡んでくるのは迷惑でしかない。
「フンッ いい加減学習しろ。私は王子で貴様は所詮いち貴族。それはどこまでいっても変わらんのだ。まぁ、床に這いつくばって許しを請うても、許したりはせんがな」
ハハハハと笑いながら離れていく王子にため息が出た。
こんな事は日常で、他のクラスメイトもただ遠巻きに見ているだけだ。
高等部に進学したとはいえ、小等部から顔ぶれは変わらない。皆が僕は不細工だから、王子達に嫌がらせを受けるのは当たり前だと思っている。
教師ですら。
「皆、席に着け」
何があったか全て見ていたにもかかわらず、何も無かったかのように装う教師。これは顔ぶれが変わっても同じだった。
いつもの事だ。そう思いながら席につけば、「一人足りないようだが」と言って空いた席を見ている。
するとそこへ、
「遅れてすみません!」
と走ってきた女生徒にぎょっとした。
そいつは、馬車の前に飛び出してきたあのおかしな女だったからだ。
「遅いぞ!!」
「きゃっ す、すいません。だって馬車に轢かれそうになったんです!」
「何だと?」
「だから、馬車に轢かれそうになったんですって! しかもその馬車の持ち主が私を鞭で叩こうとしたあげく、その場においてったんですよ! だから遅くなっちゃって……って、ああ!!! アイツっ あの人です!! 私を轢きそうになった人!!」
女は僕に気付き、指を差して叫んだのだ。
「───君は、女生徒を轢きそうになってそのまま放置したのか。しかも鞭で叩こうとしたと?」
デタラメだ。
教師は僕を個室に呼び出し、頭ごなしに言ってくるが、あの女は自分から馬車の前に飛び出してきたあげく、おかしな理屈で馬車に乗り込もうとし、僕を見て暴言を吐いて自ら乗らないと言い出した。
その暴言に怒った御者が鞭を出したが、止めたし、そもそも、鞭打ちされても仕方ない事をしたのはあの女だ。
そう言おうとしたが、この教師はこちらの言い分を聞く気もないのか、
「これだから、親が高位の貴族はダメなんだ。こんな馬鹿ばかりで」
と言い放った。




