第九十一話
「ど、どうしたんだ、大声を上げて! 何かあったのか!?」
大きな音を立てて扉を急いで開けたエルステッドは何ごとかと部屋の様子を伺う。
「い、いえ、何も、ほ、ほらあなたは出ていて下さい! 女同士つもる話があるんですから!」
彼の登場にハッと我に返ったルーナが急いで立ち上がるとエルステッドの背中を強引に押して、部屋から追い出した。
戸惑いながらもエルステッドは妻の希望を叶えたいと思っているのか、渋々部屋をあとにする。
「――女同士……」
ハルがそうつぶやくと、ミーナが困ったように苦笑する。
「そんなことより、八属性ってどういうことかしら? あなたのギフトを見せてもらったことがあるけど、確かに五属性だったはずよ? ……ねえ?」
「そ、そうよ! 娘のギフトを見間違うはずがないわ!」
同意を求めるようなミーナの言葉に、食いつくように声を上げてルーナが続く。
「えと、その、ね?」
「あぁ、まあ、な?」
ルナリアとハルは顔を見合わせて、あいまいに頷く。
自分たちに起こったことはそうそうあることではないのはハルもルナリアもわかっていた。
だからこそ、互いの存在を特別に感じている。
「呪いが解けていることも色々聞きたいけど、それよりもギフトが変化しているのはどういうことなの!?」
通じ合うように頷きあう二人を見て、聞きたいことが知れない苛立ちにとうとうミーナは立ち上がって、二人に食って掛かるように質問する。ルーナも同じ気持ちのようで、コクコクと何度も頷いている。
「ハルさん……」
どこまで話せばいいのか? 話していいのか? ルナリアがお伺いをたてる。
「――わかった。俺が説明をしよう」
腹が決まった様子のハルがそう宣言すると、話を聞くべく、ミーナは再び着席する。
「まず俺は、ルナリアが魔法を使えない理由が呪いにあると突き止めた。あれだけのギフトがあって使えないのはおかしいからな。そして、ルナリアとの話の中から恐らく伯母であるミーナによるものだとわかった。まあ、色々あってそれをなんとか解除したんだ」
ハルは淡々と説明を続けていく。それはとてもざっくりしたものだったが、質問したい気持ちを抑えてルーナとミーナは聞いていた。
「理由はさっき聞いたけど、まあ呪いをかけたけど、いつかルナリアのギフトが使えればいいという思いがどこかにあったんじゃないかなって思ったんだ。呪いはかけられるけど、解除の方法を持ってないから」
的確なハルの言葉に、誰も言葉を発さない。話を聞きながら各々が自身の思いを重ね合わせていた。
「そして、呪いを解除した時にルナリアが光に包まれたんだ。――その時さ、俺は思ったよ。呪いが解けたからこうなったんだろうってな。まあ、呪いを解除する瞬間なんて見たことないからそう思っただけなんだが」
ハルの話は初耳だったため、ルナリアも驚きの表情が出てしまいそうになる。
しかし、これはおそらくハルが考えたそれっぽい話なのだろうと黙って聞くことにする。
「だが、聞くに呪いが解けてもそんなに光り輝くことはないらしい。おかしいと思った俺たちは、人がいないところで、ルナリアのギフトを確認したんだ。そうしたら、使える魔法が八属性に増えて呪いが消えていたというわけだ――以上」
やれやれといった様子でこれで話は終わりだとハルが締めくくる。
「なんか……」
「本当なのかしら……」
あまりに突拍子もない話に、ミーナ、ルーナが疑いつつも言うが、ハルは首を横に振る。
「これ以上の話はない。二人が納得しようとしまいと、以上だ」
断ち切るようにきっぱりとハルが話を終える。ここで毅然とした態度を取らないといつまでも埒が明かないと断じているのだ。
「そ、それじゃあ、あっちでお父様と一緒にお茶にしましょう」
ハルがどこか怒っている様子に見えたため、ルーナが慌てて立ち上がって部屋を出ていく。
「ふう、まあ二人がそれだけだと言うのならそうなのでしょうね。なんにせよ、ルナリアの前途に幸あることを願うわ」
ミーナは未だ納得していない表情だったが、それでも姪が力を取り戻したことを喜んでいるのか、柔らかくふっと微笑んでルナリアを見た。
「呪いを解いた以上、二人が危惧している問題にぶち当たる日がいつか来るかもしれない。だが、その時に俺が隣にいたら全力でルナリアのことを守ると誓うよ」
ハルが真剣な表情でミーナに宣言する。
それが仲間として、呪いを解いた者として、ミーナたちの思いを無駄にしないためにできることだとハルは考えた。
「ハ、ハルさん……っ」
まるでプロポーズのようなセリフにルナリアは顔を赤くしながらハルの名前を口にする。
「あら、二人はなかなか強い絆で結ばれているようね。ふふっ、もしかしたらハルさんもルナリアと同じような経験があるのではないかしら?」
そんな二人を見たミーナは妖艶な笑みを浮かべつつ、ともすれば核心をついたかのような発言をする。
「さあ、そうかもしれないしそうじゃないかもしれない。まあ、ここまで色々な戦いをしてきたけどルナリアがいなかったら無事ではなかったかもしれないな」
からかいも含んだ雰囲気の言葉にハルはこれまで冒険者として戦ってきた話をすることで、なんとか追及をそらそうとしていた。
「いいのよ、別に追及しようとは思ってないから。ただなんとなくそう思っただけ。なんにせよ、私にはしてあげられなかったことを成し遂げてくれたのだから、ハルさんには感謝以外の気持ちはないわ」
そう言って笑うとヒラヒラと手を振ってミーナも部屋を出ていった。
「――ルナリア……みんなに愛されているんだな」
「はい……よかったです。今日、色々と話すことができて」
ずっとモヤモヤしていた気持ちが晴れわたることとなったルナリアは、スッキリとした笑顔になっていた。
「おーい、二人とも。お茶の準備ができたぞ」
呼びに来たのはルナリアの父エルステッドだった。
二人きりでいるハルとルナリアを見てちょっとしかめっ面になりかけたのは父親としての複雑な心境からだろう。
「ルナリア、行こう」
ハルが軽くルナリアの背中を押して、部屋を出るように促す。
エルステッドは呼びに来るまでにルーナに何かを言われたのか、ハルを見る目からは敵視は消えていた。
「あー……ごほん、ハル君も早く行こう」
そう声をかけるくらいには、気持ちに変化があった。
「あぁ、伯爵家のお茶ともなるといいものが飲めるだろうから楽しみだよ」
エルステッドの気持ちが伝わってきたハルの砕けた言葉の持つ雰囲気は柔らかいものだった。
「私は先に行ってるから、さっきの食堂に来てくれ」
踵を返すように戻ろうとするエルステッドの背中を見ながら歩くハルはボソリとつぶやく。
「――さて、これからどうなるのやら」
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、竜鱗3、
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化2、自己再生
火魔法3、爆発魔法3、水魔法2、回復魔法1、風魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術4、斧術2、槍術1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法2、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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