第六十一話
――カンカン!!
高らかに鳴り響く落札価格決定の合図。
「それでは、最終落札価格1億2千万Gで42番のお客様のご落札となります!」
興奮交じりの司会者により、最終価格が宣言されると、わあっと歓声が上がる。
本日これまでに何品もオークションにかけられていたが、一番の高値がついていたからだ。
それだけアーガイア王国にまつわる品は価値が高いようだ。しかも金貨だけでなく、食器や装飾品などもセットになっているとあり、マニアたちの心をくすぐった結果がこの値段になっていた。
「ハル様、ルナリア様、おめでとうございます」
決して周囲に聞こえないように、サウサは声を抑えている。
こうしてサウサが客たちに声をかけることはよくあることであるため、ハルたちが出品者であることは周囲の者たちには伝わっていない。
「あ、あぁ……」
「あ、ありがとうございます……」
最終価格が決定するまでを見守っていたものの、いまだ信じられない様子の二人は動揺しつつ、しかしそれを周囲に悟られないように気をつけながら返事をする。
「――今移動しては正体がバレてしまうので、もう少し見ていきましょう」
サウサの提案に黙って頷き、その後のオークションも見ていく。
三件、四件、五件と見たところでハルたちは会場からそっと外にでていく。
オークション会場は別のところに金銭の受け渡しの会場が用意されていた。
同じ場所にあっては警備の手が回しにくいのもあった。多額の金銭がやり取りされるためにその厳重さは筋金入りだ。
「それでは、落札価格の引き渡しに行きましょう」
サウサに導かれ、ハルとルナリアは会場から離れた一室に案内される。
「どうぞお入り下さい」
中に入ると数人の職員が受け渡し金額の最終チェックを行っていた。
何人もの人の手によりチェックされることで、金額の間違いが無いように徹底されている。
「少々お待ち下さい。あと少しで終わり…………ました」
全ての作業が終了したとの報告をサウサが受ける。
「それでは、これがお二人が受け取られることになる落札金となります。説明したかと思いますが、鑑定手数料および出品手数料、事務手数料を引かせてもらっております」
すっと二人の目の前のテーブルに置かれた金貨の山。見たこともない大金を目の当たりにして呼吸をするのを忘れそうになる。
手数料等に関しては鑑定が終わったところでサウサに説明されていたもので、ハルたちは納得している。
「落札金額が1億2千万で、全ての手数料を引いて1億8百万Gになります」
10%の金額がひかれて、再計算された金額がハルとルナリアの手元にわたる。
「これは、すごい量だなあ。入るかな?」
「と、とりあえず入れられるだけ入れてみましょう」
二人はオークション前に買っておいたマジックバッグに詰め込めるだけ金を詰め込んでいく。
金貨一枚が一万G、白金貨一枚が10万G、王金貨一枚が100万Gとなる。
しかし、全てが王金貨で支払われることはなく、金貨もかなりの枚数含まれているため、トータルの枚数はかなりのものになっている。
「全て王金貨ですと、受け取った側が支払いに使う時に困ってしまうので、金貨を多めに支払うルールになっているのです。申し訳ありません」
一生懸命に買ったばかりのマジックバックに金を詰めこみながら、二人はなるほどと頷いていた。
確かに、王金貨があったとして、それを店で出しても釣りを用意する側が大変になってしまうし、普通に生きていて買い物で100万Gを使うということも通常はありえないことだった。
「……それは確かに助かるけど、それでも、それにしても、この量はすごいなあ」
「ですね、カバンがパンパンになりそうです」
マジックバッグは見た目以上に、かなりの量を収納することができるカバンのことを指す。
二人が買ったのは一番安いもので、それでも見た目以上にかなりの収納能力があるはずなのだが、はち切れそうなほどの金貨を目の前に少し不安を覚えていた。
「確かに、そろそろ限界が見えてきた」
ハルのカバンには既にかなりの量の金貨が収納されている――はずなのに、まだまだ金貨は大量に残っていた。
それはルナリアも同じ状況であり、そろそろカバンも限界にきていた。
「あの、ハル様、ルナリア様、お一つ提案がございます」
その提案は現在の状況を変える一手になる――そう思わせる、自信のある表情をサウサはしている。
「「是非!」」
まだ内容を聞いてない二人だったが、それでもこの状況をなんとかできるならと期待の眼差しを向ける。
「残りの落札金ですが、こちらで保管をしておきましょうか? 決して破ることができないと言われている強固な金庫がございますので、そちらに保管しておくことは可能です」
あまりに金額が多い場合にのみとられる特別措置をサウサは提案する。
ハルたちのように偶然落札価格が異常なほど上り詰めるものも過去にいないわけではない。
「おぉ! そんなことが!」
「是非お願いします!」
もちろん二人は即答する。しかし、サウサはまだ話に続きがあると手で二人に落ち着くように合図する。
「えぇ、大丈夫です、金庫にはまだ余裕があるので保管は可能です。……ただ、ずっとというわけにはいかないのです。オークションは定期的に開かれていますし、今回のオークションでお二人以外にも保管を希望される方もいるかもしれませんので、最長で五日といったところでしょうか」
自分から申し出ておいて期限があることを申し訳なさそうな表情でサウサが説明する。
「――ルナリア!」
「はいっ!」
上位のマジックバッグを取り置きしてもらっているので、二人にはあてがある。
だから五日とかからずに問題を解決することができる。
ならばと、二人の行動は早い。
既にかなりの量の金貨をそれぞれがマジックバッグの中に詰め込んでいる。
それをもってすれば、例の取り置きのマジックバッグを購入するのに不足はなかった。
「それじゃあサウサ、悪いんだが残りの金貨を全て保管してもらってもいいか? 早ければ数時間後、遅くても明日にはここに戻ってくる。それまで大丈夫か?」
素早い判断を下す二人に対して一瞬呆気にとられたサウサはすぐに笑顔で頷き、残りの金貨を金庫にしまっておくように他の職員に指示を出し始める。
そして、彼が振り返った時にはハルとルナリアの姿は既に部屋の中にはなかった。
数十分後、二人は魔道具屋にあった。
「ふぇっへっへっへ、お早いお戻りだね。もちろんマジックバッグは取り置きしてあるよ」
背を曲げて杖を突いた老婆がいつもどおりの笑顔でハルたちを迎え入れる。
「お金の用意ができました。これでお願いします」
ハルはマジックバッグから二人分のマジックバッグの料金を支払う――王金貨を三枚。
「……ひょっ! まさか、王金貨で支払うとは思わなかったねえ。一体この短期間に何をやって稼いだのやら……ひっひっひ、安心おしよ。別の金貨をよこせなんて言わないからねえ。ほれ、もっておいき」
滅多に見ることのない王金貨を出された老婆は驚きの余り息が詰まりそうになった。だが、すぐにいつも通りの少し不気味な笑みを浮かべつつ彼らが取り置きしておいたマジックバッグを差し出す。
そして少し急いだ様子でバッグを二人は手に取った。
「ひっひっひ、あんたたちが先に買ったマジックバッグの数十倍の量がそれに入るから、もっともっとたくさん入るはずだよ。更には、時間も止まってるから食べ物を入れても劣化せんよ。とても良い逸品じゃよ」
機嫌良く笑う老婆の説明を聞きながら、ハルとルナリアは荷物を移している。
先ほどまでは不安を覚えていたカバンの中身も新しいマジックバッグにとっては些細な量であり、吸い込まれるように荷物の移動ができた。
「すごいな、まだ全然余裕だ」
「これはすごいです!」
はしゃぐように二人が喜んでいるのを見て、老婆も目を細めて嬉しそうにそれを見ていた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:2
ギフト:成長
スキル:炎鎧3、ブレス(炎)2、ブレス(氷)3、竜鱗2、
耐炎3、耐土2、耐風3、耐水2、耐氷3、耐雷2、耐毒3、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化2、筋力強化2、
火魔法3、爆発魔法2、解呪、
骨強化2、魔力吸収2、
剣術3、斧術2
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法2、雷魔法2、
水魔法1、光魔法1、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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