第五十一話
ハルが目を開くと、以前にも見た場所にいた。
広大で真っ白な空間。どこまでも先が見えないのに、不思議と不安に襲われることはなかった。
「今回はお早いお目覚めですね」
聞き覚えのあるゆったりとした女性の声。
「待つ手間が省けたわね」
少し棘のあるきりっとした声、こちらも同じくハルは覚えがあった。
「……セアとディオナ?」
自分のギフトについて、以前説明をしてくれた二人の女神が目の前にいた。
相変わらず二人のタイプは正反対だが、飛び切りの美人だった。
「お久しぶりです」
「久しぶり! といっても、私たちからしたらついこの間の出来事のようだけどね」
ふんわりとほほ笑むセア、元気よく手を少し上げてニカッと笑うディオナが順に挨拶をする。
「前回は俺が能力に目覚めたから説明の為に呼ばれたんだと思っていたんだけど……今回は一体?」
久々の女神たちとの邂逅に驚き戸惑うハルはそう質問した。
確かに強力な魔物であるキラーメイルを倒したが、それがここに呼ばれるトリガーになったとは思えなかった。
「その前に一つお知らせしたいことがあります。――おめでとうございます! ハルさんは、レベルアップしました!」
セアが豊満な胸元の前で手を合わせて聖母のような笑みを浮かべながらそう告げる。
だが、それを聞いたハルはキョトンとする。
「その顔は、あれ? レベルアップのメッセージなんて聞いてないけど? っていう顔ね! まあ、そのへんは単純にタイミングがずれただけなのよねえ。とーにーかーく! あなたのレベルはあがりました! おめでとう!」
勢いで乗り切ろうとするディオナを見るハルは、この女神はそういう人物なんだろうと諦めることにした。
「それで、レベルアップしたことを教えてくれたのか? それくらいだったら、別にそのうちお告げか何かで教えてくれればいいんじゃ……?」
わざわざここに呼ぶ必要があったのかというハルの言葉に、セアは困ったような笑みを浮かべしながら首を横に振り、大きくため息を吐いたディオナが説明をする。
「それしてもいいけど、どーせあんた覚えてられないわよ? こうやってわざわざ、この空間に呼び寄せるのは記憶の定着も狙っているの。お告げとか夢とかだと、記憶があやふやになるのよねえ」
やれやれと呆れたような表情のディオナが腕を組みながら、人間って不便ねえとつぶやいている。
「私のほうで続きを説明しますね」
まだ疑問がある表情をしているハルを見て、おっとりとほほ笑むセアが説明を引き継ぐ。
「今回ハルさんはレベルアップしました。そのため全体的な能力が向上しています。それは単純に肉体的なものだけでなく、魔力や精神力――それにスキルもいくつかは強化されています」
心地よいのんびりとした口調のセアの説明を聞いたハルは目を見開いて驚く。
「スキルまで強化される? それはすごいな……」
これまでハルは、スキルを上げるには使い続ける、もしくは同じ能力を持つ魔物などを倒していくしかないと思っていた。
「ふふっ、それがギフト『成長』の特徴でもあるのです。スキルを手に入れて、それからレベルを上げると一気に能力をあげたり、開花させたりもできるのです!」
嬉しそうにセアが笑うのを見ながら、これは前回に聞いていない情報だったため、ハルはなるほどと感心している。
「……あら、怒らないのね? そういうことは先に言ってよ! そんな特典があるなら色々スキル集めたのにいいい!! ――とか言いそうなところだけど?」
ディオナがちょっとふざけまじりに言うそれを聞いて、ハルはゆっくりと首を横に振る。
「いや、それを聞いてたとしても、恐らくここまでの道のりは変わらなかったと思う。必要な能力を手に入れて、そしてさっきキラーメイルを倒したらレベルアップした。そもそも、いつレベルアップするかわからないんだから、どうしようもないだろ?」
数値として見えるわけではないが、おそらく一レベルあげるにはかなりの経験値が必要となるだろうとハルは思っていた。
実際色んな魔物と戦ってきたが、最初にハルがレベルアップしたのも、相当格上のサラマンダーを倒したからであり、それ以上の敵となると早々出会えるものではなかった。
「あー、確かにそうね。そのあたりは私たちの設計ミスよ、反省反省。でも、スキルランクが上がることを喜んでもらえたようでよかったわ」
どこか強気なディオナだったが、ハルの反応を見て、ほっとしているようだ。
先ほど自らが発言したように、ハルが怒るかもしれないと思っていたためだった。
「それで、その特典の話のために俺をここに?」
「い、いえいえ! 確かにそれは前回説明が漏れてしまったので、話さなければと思っていましたが、ここに来てもらったのは別件なのです」
セアが慌ててハルの言葉に訂正を入れる。
「今回ハルさんに来てもらった理由は、ハルさんのお仲間についてお話があったからです」
「お仲間? ルナリアのことか?」
セアの予想外の言葉に、ハルは首を傾げる。
名前を聞いて、ハルの脳内ではルナリアが大きな尻尾と耳を揺らしながらにっこりとほほ笑む姿が見えた気がした。
「そうです、ルナリアさんについてです。彼女の能力が封印されていたのをハルさんが解除しました。それはとてもいいことなんですが……彼女のギフトに問題があります」
ちょっと言いにくそうな雰囲気のセアの言葉に、ハルは再度首を傾げた。
「ルナリアのギフトって、五種類の魔法が使えるファイブエレメントだろ? すごいよな、五つの属性が使えるなんて、そんじょそこらにいないだろ」
ハルはルナリアのギフトを思い出しながら話す。
ギフトの欄は五つがマックスとなっている。
その全てが埋まっている人間は極極珍しい存在だ。
その中でも、全てが魔法になっているのは更にレアな存在だった。
「その通りです。確かに五つの属性の魔法を使えるルナリアさんは特別な存在なのですが……その、ギフト欄が埋まってしまっているのが問題なのです」
次第に元気をなくしたようなセアの様子に、推測をたてたハルはみるみるうちに驚愕の表情になる。
「お、おいおい、まさか、そんな……本当に?」
嘘だと言ってくれと言わんばかりのハルの疑問に、申し訳なさそうな顔をしたセアが頷く。
「全く、あなたはすごい縁を引き当てるわね。自分自身が『成長』なんてギフトを持っているのに、一緒に旅をしているのが彼女だなんて」
呆れ交じりの様子のディオナは、ハルとルナリアが一緒にいることに驚いているようだった。
その言葉に一度頷いたセアが更に話を続ける。
「ハルさんはもうお分かりのようですね。ルナリアさんが使える魔法は五属性ではありません……。ファイブエレメントというのは、彼女の力の一部なのです。元々は別の表記だったようなのですが、彼女にかけられていた呪いによって、今の状態になったようですね」
悲しげな表情で話すセアは、ルナリアのことを想っているようだった。
――以前、ハルが解除した呪い。
その呪いは、ルナリアが魔法を使う際に邪魔をして使えないようにしていた。
唯一魔力をそのまま放つ無属性魔法は使うことができていたが、それは魔力の調整ができないというものだった。
「……それはなんとかすることができるのか?」
「もちろんです!」
「そのためにあなたをここに呼んだのよ! あなたの仲間なんだし、本来ありえない状態になっているのは見過ごせないのよ!」
ルナリアの状況改善にやる気を見せる彼女たちは明らかにハルに肩入れしているが、彼にとってはそれがとても嬉しかった。
ハルも仲間と認めたルナリアが以前のような暗い表情に戻ってしまうのは避けたいと思っていたからだ。
「――それじゃあ、その方法を教えてくれ」
「はい、その方法はですね……」
真剣な表情でセアが順番に、ルナリアの状況を改善する方法を説明していく。
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名前:ハル
性別:男
レベル:2
ギフト:成長
スキル:炎鎧3、ブレス(炎)2、ブレス(氷)3、竜鱗2、
耐炎3、耐土2、耐風3、耐水2、耐氷3、耐雷2、耐毒3、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化2、筋力強化2、
火魔法3、爆発魔法2、解呪、
骨強化2、魔力吸収2、
剣術3、斧術2
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:火魔法1、氷魔法2、風魔法1、土魔法1、雷魔法1
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