第百五十五話
ハルたちがドラゴンを倒した様子はもちろん中継されており、派手な戦いぶりを見せた彼らの評価はうなぎのぼりで、会場でも大盛り上がりだった。
そんなことは当のハルたちには伝わっておらず、彼らはドラゴンの解体を始めていた。
『こ、これはどういうことでしょう。ドラゴンを倒した彼らは、先に進まずにドラゴンの解体を始めたぁ!』
ハルたちの行動をモニターでみた会場がざわついていく。中には解体のグロさに耐えられず、気分を悪くしているものもいた。
『ちょ、ちょっと映像を切ります! 気分が悪くなった方は、お近くの職員にお声がけ下さい!』
焦った司会の指示で、ハルたちの映像だけがカットされることとなる。
これまた、そんなことになっているとは知らないハルたちは着実に作業を進めていく。
「翼と鱗、爪と牙と骨、それから核を持っていこう。肉は燃やしていけばいいだろ」
「はい!」
「うん」
ハルが切り出しを行い、エミリが運び、ルナリアが洗浄をして収納する。
その流れるような作業は様になっており、観客の中にいた冒険者はそれを参考にしたいとすら思っていた。
しかし、それはいいところでカットされてしまったため、見ることはかなわない。
時間にして三十分ほどで解体は終了する。
難しい場所は、ざっくりと斬ることで解体時間を短縮させていた。
「さて、俺の汚れも落としたことだし、そろそろ行くか」
ドラゴンの素材を確保し、マジックバックに収納したハルは汚れを払うように手をたたく。
ルナリアの水魔法で身体を洗い流し、ドラゴンのあまった部分を火で燃やしたハルたちは、森の中央へと向かうことにした。
その足取りは決して急ぐものではなく、ゆっくりとしたものだった。
「ハルさん、急がなくていいんですか?」
ルナリアが歩行速度に関して質問する。今回の試練は競争であるため、急ぐ必要があるのではないかとルナリアは考えていた。
不安をにじませながらもハルが急いでいない様子から確認程度の声音だ。
「あー、俺も最初はそう思ったんだけど、そもそも全組があのドラゴンとかに急襲されて勝ち抜けるとは思えないんだよな。ということは、速度に関係なく生き残って森の中央にたどり着いた組が次に進めるんじゃないか?」
これはあくまでハルの予想だったが、この予想はあながち的外れではなかった。
会場内では既に数組の巫女が辞退をしている。
そして、ドラゴンを撃退した者たちでも、怪我を負っているものもいた。
「なるほど……なら、落ち着いていきましょう。まだまだ何が潜んでいるかわかりませんからね」
現在地がわからず、そして場所は森の中。ドラゴンまで出てきたとなると、他の魔物まで出てくる可能性がある。
ルナリアは気合を入れ直してエミリの試験がうまくいくように頑張ろうと決意していた。
「まあ、気楽に行こう。あれ以上の魔物が出てくることもそうそうないだろ」
気合の入っているルナリアとは逆に、のんびりとリラックスした様子のハルは周囲の風景を眺めながら、余裕を持って歩を進めていく。
この様子は既に中継されており、これを見ていた今回の試練放送の主催側はハルたちのことを良く思っていなかった。
放送側が参加者に求めているのは、必死な様子、熱い友情、派手な魔法や剣技である。
ハルたちも最初のドラゴンとの戦いはよかった。
しかし、そこからドラゴンの解体にうつったところで雲行きがあやしくなる。
そもそもあのドラゴンは試練用に用意されたもので、ある程度ダメージを与えたら撤退するように仕込まれている。
それをハルたちは倒してしまったばかりか、バラバラにするという暴挙に出ていた。
倒してしまったのは実力があるから。
解体したのは、冒険者として当然のこと。
ここまでは主催側もなんとか納得した。
「――何をのんきに歩いているんだ!!」
我慢ならないと拳を肘掛けに叩きつけながら大声をあげたのは、現場を任されている主催側のお偉方だった。
他のパーティは肩を貸して支えあったり、必死に走って目的地を目指している。
だが、ハルたちは風景を楽しみ、魔物が出てきても一瞬で倒してしまうため、盛り上がりに欠ける。
「くそっ、やつらのところにグリフォンとキングサーペントを送りこめ!」
やけくそにも似たその指示を聞いた職員たちは驚いている。
名前があがった魔物は、ドラゴンが使えない場合に代理として試練に使うはずだったものである。
つまり、この二体を送り込むということは、他の組よりも多くの試練を与えることになる。
「い、いや、それは巫女様の許可が得られないと……」
この試練を金もうけに使うことは許可されているが、決められたこと以外をやるには、本来の主催である巫女側から許可を得る必要があった。
「っ……構わん! 責任は私がとる!」
巫女の許可をとるよりも目の前の退屈さに耐えられなくなったお偉方はそう宣言すると、魔物を送り込ませる。
「わ、わかりました! ……あ、あれ?」
しかし、その決断は少し遅かった。
モニターに視線を戻すとそこにはハルたちの姿は映っていなかった。
「ど、どこに消えたんだ? ――おい、お前たち! 最後の巫女候補はどこに消えた?」
他の職員にも質問するが、全員困った様子で首を横に振る。
お偉方の指示に翻弄されていたハルたちの担当職員は画面を見ておらず、他の職員たちは自分の担当を見ていた。
知っているのは、ずっと画面を見ていた観客と、ハルたちだけだった……。
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名前:ハル
性別:男
レベル:4
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)4、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗5、鉄壁4、剛腕3、統率1
耐炎4、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化6、筋力強化6、敏捷性強化5、自己再生
火魔法4、爆発魔法3、水魔法3、回復魔法1、解呪、
骨強化5、魔力吸収3、
剣術5、斧術3、槍術1、弓術1、短剣1
開錠1、盗み1、精霊契約
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法4、氷魔法4、風魔法4、土魔法5、雷魔法4、
水魔法3、光魔法4、闇魔法3
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:エミリ
性別:女
レベル:-
ギフト:体術2、格闘術2、魔闘術1、先読みの魔眼
加護:武神ガイン
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