第百三十一話
何者だと問いかけた魔物は、竜のような鱗を持っていて、しかし大きなような四足歩行で、額には角が生えている。
「魔物がしゃべった!?」
ハルも魔物についてこれまで本や実戦で調べてきたが、人間の言葉を話せる魔物の情報はほとんどなかった。
「あれは、魔物というより精霊だから高位になれば話すものもいるの。でも、私も初めて見たの」
エミリは淡々と口にするが、その実頬に赤みがさしており目も大きく見開いている。それだけで、興奮しているのが伝わる。
「すごいです、精霊だなんて……」
物語の中でしか聞いたことのない精霊を目の前にしていることにルナリアも口元に手を当て驚いている。
精霊とは基本的には精霊界と呼ばれる場所に生息しており、一部の魔力密度の濃い場所で出会うことができると言われている。
しかし、それほどの場所となると人ではたどり着けない場所がほとんどだった。
『――再度問おう、小さき者たちよ。汝らは何者だ? この場所に入れないように結界を張っていたはずだが?』
そう言われてハルたちはここまでの道のりを思い返す。
強い気配があったため、そこに向かってただただ歩いていただけだった。
しかし、実力のないものたちであれば、あれほどの気配の前に別のルートをとったり、引き返すものである。
ハルたちは気づいていなかったが、実際には横にそれる道はいくつか存在していた。
「なるほど……俺たちは普通の冒険者一行だ。山を越えようとしてここまできた。その結界の効果はわからないが、俺たちはあんたの強い気配に引きつけられてここまで来たんだ」
ハルがここまでやってきた理由を説明する。
『……ただ我の気配に引きつけられただと? ただそれだけの理由で結界を抜けて来ただと?』
その理由は精霊種にとって納得のいかないものであるため、表情が険しくなる。
心なしか周囲の空気が冷え込んだように感じられた。
「精霊さん、怒らないで。本当のことなの。この二人の力をよく感じて? 力ある人だから。それだけの力があるから、結界で止められることはないし、強者の気配にひかれたの」
咄嗟にエミリがハルとルナリアの前に立って説明を付け足す。
エルフは種族特性として精霊との交信力が高く、適切な距離感を保ってきた。精霊もエルフのことを悪く思っていない。
だからこそ、ここは自分が前に立たなくてはとエミリが毅然とした態度で弁を務める。
『ふむ……少女の言葉のとおり、確かにそこな二人は強い力を秘めているようだな』
精霊は自分の領域に足を踏み入れられたことでイラついていた。
しかし、エルフであるエミリの言葉で冷静さを取り戻した精霊は改めてハルとルナリア、そしてエミリのもつ能力を感じ取っていた。
『少女の持つ力も強いようだな。エルフにしてはいびつな力のようだが……』
落ち着いて三人を順番に見た精霊はエミリの力を見ながら訝し気な雰囲気を出す。
魔法や弓が得意だというのが一般的なエルフのイメージであり、精霊もそのことを知っている。
ゆえに、エミリが秘める格闘の力に疑問を覚えていた。
「わかってるの。でも、それが私の力だし、ハルもルナリアも認めてくれた。私にはそれで十分なの」
少し硬い表情になったエミリは胸元に手をやる。彼女は自分が持つ力のことを認識し、その強さが自分の大事な一部であると考えていた。
『なるほど、言いたいことはわかった。そなたらに力があることも理解した。――だが、一つだけ気に入らないことがある。それは、我の領域に入ったままのうのうと話をしていることだ。たとえエルフであったとしてもな』
淡々とそう話した精霊は威嚇するように大きく口を開いて牙を見せる。
「ごめんなの、説得できなかったの……」
ぴゃっと駆け寄って謝るエミリの頭をハルが撫で、ルナリアが肩に手を置いた。
「気にするな。そもそも悪いのはエミリじゃなく、一方的にけしかけてきようとしているあいつのほうだ」
「ですね。ちょっと口の過ぎる精霊さんは私たちでこらしめちゃいましょう」
謝った時のエミリの顔がどんなだったか、ハルとルナリアは見なくても予想がついていた。
きっと悲しそうな顔をしているはず。
そのとおりであり、その顔を自分たちに見られずにすむように二人は前に出た。
「さて、うちの子を悲しませた分、少し反省してもらわないとだな」
『やる気になったようだな。なら、その子どもから狙わせてもらおう!』
地面を蹴った精霊の動きは早くあっという間に距離を詰めて、エミリに大きな口で噛みつきにかかる。
――ガチリッ
金属音をたてて牙が止まる。
「させない」
静かに呟いたのはハルだった。
噛みついた先にあったのは、皮膚硬化、鉄壁、竜鱗のスキルを使ったハルの腕だった。
『な、なんだと!? 人間の腕がこれほどに堅いわけが!!』
精霊は驚いて距離をとる。
「ハ、ハル、大丈夫なの?」
「あぁ、あれくらいの攻撃ならなんともない。ほら、傷一つついていないだろ?」
ハルの能力を全て理解しているわけではないため、エミリは不安そうな表情で腕を見るが綺麗なままの腕がそこにあることがわかって安心する。
「さて、エミリ。あいつをぶん殴るだけの気合は入っているか?」
「――えっ?」
ハルの質問に驚くエミリ。
「なんだったら、私がぶん殴ってあげますよ!」
気合十分なルナリアはルナティックケーンではなく、メイスを手にしていた。
せっかく手に入れた新しい武器を使ってみたい気持ちはあったが、魔法で戦ってしまっては周囲の花に被害を与えてしまう。
それを考慮しての武器選択だった。
「大丈夫、私も戦えるの」
そう言ったエミリの手には魔導拳(鳳凰)が身につけられていた。
彼女の目は精霊を睨みつけ、戦う意思を見せつけていた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁2、剛腕1、統率1
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化3、自己再生
火魔法4、爆発魔法3、水魔法3、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術5、斧術3、槍術1、弓術1、短剣1
開錠1、盗み1、
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法3、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:エミリ
性別:女
レベル:-
ギフト:体術2、格闘術2、魔闘術1、先読みの魔眼
加護:武神ガイン
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今年最後の更新となります。来年もよろしくお願いします。




