第百三十話
防寒具を身に纏った三人を乗せた馬車は北の山に近づいている。辺りは雪が舞っていた。
「はあっ……」
自分の手を温めるようにエミリが長く息を吐き出すと、白く色づいていた。
「ねえねえ! 息が白いの!」
エルフが普段生活をしている森は温暖な気候で、朝晩など気温が低くなってもここまで寒くなることはほとんどない。
それゆえに、初めて見る息の白さにエミリはきゃっきゃとはしゃいでいた。
「エミリは元気でいいなあ。俺は寒いのは苦手だよ」
一方でため息交じりのハルは寒さが苦手なため、手綱を握りながらも手を擦り合わせて温めている。
「わ、私も寒いのは苦手です……」
それ以上にルナリアは寒さに弱いらしく、耳や尻尾を垂らし、毛布で身を包み暖をとっている。
「うーん、二人とも強いのに寒いのはダメなの?」
「いやいや、そもそも強いのと寒さはなんの関係も……――ってそれだ!」
エミリの質問に答えようとしたハルが何かに気づいて、ポンっと手を打つ。
「おっと、危なっ」
思わず手綱を手放してしまったため、慌てて握りなおす。
「手綱はとりあえず右手で持ってと、左手は……『炎鎧』」
ハルは思い付きを試すように左手にだけ炎を、しかも周囲に燃え移らない程度の量で呼び出す。
手がぼわっと赤く色づいたように見える。
「わぁ! なにそれ!」
馬車にいたエミリが御者台にいるハルのもとへと移動してくる。
「触ってみるか? 多分熱くはないと思うけど」
「うん! わあっ! すごい、ハルの左手すごく温かいの!」
「本当ですか!」
温かいと聞いてルナリアまで飛びつくようにハルの隣にやってくる。
「わあ、本当だ! ハルさんすごいです! うぅ、暖かい……」
ルナリアはエミリを抱いて、その体温で身体を温めて、ハルの左手を掴んで冷え切った手を温めていた。
「ふふっ、こうやってくっついてるとなんか楽しいの」
嬉しさを噛みしめるように呟くエミリの一言を聞いてルナリアは自分がどんな状況にあるか改めて把握するが、それでも寒さには勝てずハルの隣にいることを選ぶ。
山のふもとに到着するまでそれは続いた。
「さて、ここから本番だ。山越えはきついから慎重に進んでいこう」
ハルは御者をルナリアに代わってもらうと、馬車を降りて先行する。
「あぁ、暖かかったのに……」
そんなハルのことを名残惜しそうに見るルナリア。その懐にはエミリがそのまま座っている。
「ルナリア、俺は炎鎧の力を使って身体を温めた。つまり……」
「――はっ! 火魔法を応用すれば……いえ、火魔法の熱と風魔法の風の操作をミックスして……」
ハルの言葉をヒントにルナリアは自分が使える魔法を思い出しながら、その効果を混ぜあわせていく。
「あれ? なんか、すごく温かくなってきたよ?」
「ふう、成功しました。火魔法で熱を起こして、その熱を風魔法で馬車にまとわせました!」
ルナリアは暖かくなったことで、余裕が出てきたようだった。
「ほう、これはすごい」
ハルの予想では魔法を使って小さな火を作り出せば暖かいだろう程度のものだった。
それを上回る効果を生み出したルナリアの魔法センスに感嘆していた。
「ルナリアは魔力が多いから、ずっと維持してても大丈夫そうだな」
「はい! これくらいなら休憩までは十分いけそうです!」
ルナリアは笑顔で頷く。
温度を一定に保てるおかげで、さきほどまで毛布にくるまってガチガチと震えていた彼女の姿はどこかに吹き飛んでいた。
「とにかくこれで寒さ対策は完璧だ。さっさと山を越えてしまおう」
「?」
ハルは頂上を見上げながらそう呟く。やや急ぐような口ぶりにルナリアは少々首を傾げるが、不安定な場所にいるのは危険だと考えているのだろうと納得することにする。
当のハルは口数が減り、ただただ進む先を見つめていた。
時間にして一時間ほど経過したところで、長い一本道に到着する。
「なんだか、嫌な感じが……」
「あぁ、俺もそれを感じていた」
ルナリアは道の先を睨みつける。エミリは肌で何かを感じているらしく、おびえたような表情でルナリアの服を掴んでいた。
「さあ、この先で何かあるぞ。二人とも準備をしておくんだ」
ハルが声をかけると、ルナリアとエミリは装備を確認する。そして、馬車を降りていつでも戦闘に入れるような態勢をとっておく。
一本道を進んでいくにつれ、奥から伝わってくる気配は強くなりハルたちの緊張も同時に高まっていく。
そして、ついに一本道を抜けた。
「はぁ?」
「えっ?」
「うわあっ!」
ハルは訝しげな表情になり、ルナリアは何が起こったのかと驚き、エミリは感激に笑顔になっていた。
「な、なんでこの冬山にこんな……」
「はい、私は夢を見てるのでしょうか?」
「お花畑!!」
エミリの言葉が示すとおり、そこは大きな広場のようになっており一面に花が咲き乱れていた。
「なんでこんな現象が……あいつか」
冬山に見られる春の光景。この状況を作り出している原因が花畑の中央に鎮座している。
馬車より少し大きなサイズの魔物。その存在感は離れているハルたちにまで届いている。
「あれは、竜種……ではないのか」
「見たことのない魔物ですね」
魔物について学び続けてきたハルにも正体がわからず、ルナリアも心当たりがなかった。
「あれは――精霊種」
しかし、エミリだけはその正体を知っており口にする。
それに呼応するかのように魔物が身体をむくりと起こしてハルたちに視線を向けた。
『汝らは何者だ』
直接脳内に語り掛けるような声が響いた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁2、剛腕1、統率1
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化3、自己再生
火魔法4、爆発魔法3、水魔法3、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術5、斧術3、槍術1、弓術1、短剣1
開錠1、盗み1、
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法3、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:エミリ
性別:女
レベル:-
ギフト:体術2、格闘術2、魔闘術1、先読みの魔眼
加護:武神ガイン
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