第百二十一話
会場に入ってみると、貴族や商人の姿だけでなく冒険者の姿もチラホラ見かけられた。
「お気づきですか? ハルさんたち以外にも出品している方たちもいらっしゃるんですよ。確か、強力な槍を出品している冒険者がいたかと。他には軽い素材で作られていて、かつ防御力の高い胸当てが確か……」
それを聞いたハルとルナリアの耳がピクリと動く。
「その胸当ての場所にいったら教えてくれ」
「は、はい」
ハルが急に近づいてきて耳元でそう依頼したため、チェイサーは驚きに身じろぎしながら返事をする。
それに同意して何度も頷くルナリア。
エミリは周りに目移りしていて、そのやりとりに気づいていないようだった。
周囲はオークション会場というだけあり、様々な高価なものが並んでいる。
大きめのフロアに展示エリアがあり、その先に入れないように柵がされ、商品はその手前で確認することになっている。
物に目がくらんでその中に足を踏み入れれば、警報がなるという特別な魔道具が設置されていた。
「うわあ、すごい綺麗なの!」
展示されている物の中には、絵画や宝石や石像や鉱石などの鑑賞用の品物も多く、それらを見たエミリは目をキラキラと輝かせている。
ハルとルナリアはエミリがはぐれないように確認しながら、自分たちも品物を確認していく。
そこかしこに警備の姿があり、若干の物々しさを感じる。
「盗難とかあるのか?」
きっとそのための警備なのだろうと、他の客には聞こえない程度の大きさでチェイサーに確認をする。
すると神妙な面持ちでチェイサーが頷いて返した。
「――えぇ、過去に何度か。全て未然に防がれましたが、今回は事前に予告があったそうでいつもより警備が厳重なんです」
この話は、今回のオークションに関わる人間は全員知っているらしく、チェイサーは声を抑えずに話をする。
「……予告?」
それよりもハルは予告という言葉が気になっていた。
過去に盗難未遂があって、今回は予告があるという。何の予告? これから盗みに行きますという予告なのだろうかと訝しげな表情になる。
ハルが考え込んでいると、近くにいた会場スタッフがハルたちに近づいてくる。
「すみません、その話はあまり大きな声でされないように願います。我々スタッフも、警備の者も少々その話題には敏感でして……」
困ったような表情を浮かべたそのスタッフは、そう言うとチラリと近くの警備兵に視線を向ける。
厳しい表情をした彼らの視線がハルたちに注目しているのがよくわかる。
盗難予告の話題に関して話していたため、彼らの注目を集めているようだった。
「おっと、これは失敬しました。ハルさん、この話はまたあとにしましょう」
「わかった。悪かったな」
ハルはチェイサーに返事をして、スタッフに謝罪をすると再び展示物を眺めていく。
「あっ、そろそろのようですね」
チェイサーがハルとルナリアに声をかける。エミリも気づいてチェイサーを見ていた。
「あれが、軽い素材で作られていて、かつ防御力の高い胸当てと私が紹介したものです。ざっくりとした説明でしたが、どうやら特殊な金属で作られているようですね」
商品の近くには説明が書かれた紙が用意されており、それを見ながらチェイサーが説明する。
すると、エミリが無言で柵にしがみつくようにしてその先にある胸当てを凝視していた。
「これは……」
「えぇ……」
今日一番の反応であり、エミリはそこから動こうとしない。口にはしないがその目はすっかりその胸当てに釘付けだ。
「――エミリ、欲しいのか?」
そんなにこれが気に入ったのかと頭にポンっと手を置きながらハルが質問する。
「うーん、気になる感じなの」
だがエミリは欲しいとは即答せずに、曖昧な返事をする。
「何が気になるんですか?」
ただなんとなくなのか、何か気になる理由があるのか、ルナリアが優しくそう尋ねると、エミリはくるりと振り返る。
「――あの胸当て。里でとれる金属が使われてるの」
そっと指差してエミリが言う里というのは、故郷であるエルフの里のことである。
「それは珍しいな。エルフの村の特産物が外に流通するのは食べ物以外だとほとんどないと聞いたことがあるが……」
そこまで言って、ハルは気づいてしまう。
ルナリアも理解しており、エミリの表情がぐっと険しくなる。
「なるほどね……そういうことなら、なにがなんでも手に入れよう」
「ほんと?」
そう言ったハルにエミリがじっと見つめながら確認する。
「もちろんだ……と言ってみたものの、どう思う?」
ハルはチェイサーに確認をする。オークションに参加するのは初めてであるため、相場がわからなかった。
「――ちょっと、こちらに来て下さい」
何か思いついたような表情のチェイサーはハルの質問に答えず、彼らをどこかへと案内する。
ハルもルナリアもエミリも首を傾げるが、この場ではチェイサーが最も状況に詳しいため、反対することもなくついていくことにする。
案内された先は、会場にある一室だった。
出品者が自由に使える待機室であり、何部屋かあるうちの空いている部屋を使用する。
入った時に外のかけ札を使用中に変えていた。
「すみません、具体的に話すにはあの場所は人が多すぎるので……」
先ほどまで険しい表情だったチェイサーは、ほっとしているようだった。
「ルナリア」
「わかりました」
ハルはルナリアの名前を呼んだだけだったが、意図をくんで音が外に漏れないように風の結界を張り巡らす。
「チェイサー、これでここにいるメンバー以外には声が届かないはずだ――話してくれ」
なぜわざわざ場所を移動したのか、その理由を説明してもらおうと話を振る。
「承知しました。その前に一つ確認ですが、エミリさん。先ほどの胸当てに使われている金属。具体的に何かわかりますか?」
チェイサーの質問はきっと大事なことなのだろうと考え、エミリは先ほどの胸当てを再度思い出しながら答えを出す。
「……うん、わかるよ。あれはうちの里で手に入れることができる金属で、【エルフェニウム】っていうものなの」
エミリの答えを聞いたチェイサーは満足そうに頷く。
「なるほど、ありがとうございます。先ほどの話ですが、私が確認した限りでは周囲の者に正確には伝わっていません。……エルフの里の金属が使われていることも」
そこが大事であると、チェイサーは最後の一言を強調する。
「つまり、それを知られると値段に関係してくるんだな……エミリ、ルナリア」
「わかってます」
「うん、お口にチャックだね!」
名前を呼んだだけで互いに意思疎通が図れている三人の様子を見て、チェイサーは微笑んでみていた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁2、剛腕1、統率1
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化3、自己再生
火魔法4、爆発魔法3、水魔法3、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術5、斧術3、槍術1、弓術1、短剣1
開錠1、盗み1、
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法3、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:エミリ
性別:女
レベル:-
ギフト:体術2、格闘術2、魔闘術1、先読みの魔眼
加護:武神ガイン
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