第百十五話
さすがに消火をハル一人で行うのは難しかったが、やってきた増援とともに行っていくことで、ほどなくして全て鎮火することに成功する。
そして、今は村の中央に全員が集まっていた。
「――さて、こいつらの処遇だけどみんなに任せてもいいか?」
それはハルの言葉で、こいつらとは盗賊の頭目を筆頭に、あのあと捕まえた残党を含んだ一団だった。
「あぁ、任せてくれ!」
それにいち早く返事したのはギルドマスタードラクロに命じられてやってきた冒険者部隊のリーダーだった。
ハルたちが、村を襲う盗賊や魔物を倒していたことは誰もが知るところであり、彼らの頼みを断る者はいなかった。
「それと、この子なんだけど……襲われているところを助けたもののどうしたものか」
ルナリアとハルが命がけで助けた少女。ひとしきり泣いていたが、落ち着いた彼女はルナリアの隣に寄り添うように立っていた。
頭目撃破後、ハルが村を見て回った際に生き残りを見つけ、助け、この場所に集めている。
しかし、その中の誰もが彼女のことを知らないというのだ。
村はさほど大きくないコミュニティであるため、これくらいの年代の子どもであれば、通常は村の者は知っている。
しかし誰も彼女の存在を知らないとなると……。
「村の外の人間か」
状況から判断するにそれが恐らく正しいと思われる。
「ルナリア、聞いてみてもらえるか?」
少女はここまでルナリアのそばを離れずにいる。
それは一番に助けてくれたのが彼女であり、他に頼れる人間がいないとなればルナリアから離れないのは自然なことであった。
「はい……私の名前はルナリアです。お名前を聞いてもいいですか?」
地面に膝をついた姿勢で、視線の高さをあわせたルナリアが優しく微笑みかけながらゆっくりと質問する。
「……うん。わたしはエミリ。お姉さん、助けてくれてありがとうございます」
安心したようにへにゃりと笑ってペコリと頭を下げるエミリの様子に、この場所にいる全員が胸を打ち抜かれたような気分になってしまう。
「はい、よろしくお願いします。エミリはこの村には誰かと一緒に来たのですか?」
ルナリアのその問いに、エミリはこくんと頷く。
「うん、おじ様と一緒に来たの。でも、おじ様は盗賊と戦うって言って宿から出て行って……」
その後は消息不明である、ということだった。
「俺からも質問していいかな?」
ハルも屈んで目線を下げてからエミリに問いかける。
最初はびくりと驚いたものの、助けてくれた一人であるハルだと認識すると再び落ち着いた雰囲気に戻った。
「あ、うん。お兄さんも助けてくれてありがとうございます……その、怪我は大丈夫?」
きちんと礼を言い、オーガキングの攻撃を受け止めたハルのことを気遣っている。
冷静さを取り戻した今のエミリはそのあたりにいる同年代の子どもよりもしっかりとしているように見えた。
「問題ない。俺は意外とじょうぶだからな。それで、聞きたいんだが……」
ハルが何を聞くのかと全員が耳を傾ける。
「――エミリはエルフなのか?」
ハルがゆっくりとエミリの頭に手を持っていき、頭を撫でると綺麗な金髪の髪の毛の間から尖った小さな耳が現れる。
「うん、わたしはエルフのエミリ。おじ様と一緒に、中央大森林に向かうために集落からやってきたの」
抵抗なく笑顔で頷いたエミリのこの言葉に周囲がざわつく。
ルナリアも彼女がエルフだとは気づいていなかったようで、驚いた顔でエミリのことを見ていた。
「そうなのか。だが、おじ様とやらは恐らく……」
ハルは反応変わらずに彼女と話し続ける。
しっかりしているように見えるエミリもおじ様がどうなったのか予想はついているらしく、ややうつむき加減になった横顔には影が差していた。
「うん……」
どう気持ちを口にしたらいいのかわからないといった様子で、小さく頷いてそれだけを口にした。
「それではその少女――エミリちゃんのことも我々がお預かりしましょう。ギルドマスターの判断にゆだねることになりますが、しかるべき施設に案内できると思います」
エミリの愛らしさに心打たれたひとりである、冒険者部隊のリーダーが声をかける。
淡々としてはいるが、それでも状況にあった提案をできるため、彼が今回のリーダーに選ばれていた。
しかし、この反応は他の冒険者に驚きをもたらした。
――この世界で中央大森林を目指すエルフ。
その言葉が持つ意味を理解していないことを示していたからだった。
「施設はまずいだろ。中央大森林を目指すということは、【エルフの巫女】ということだ。中央大森林には絶対に連れて行かないといけない――それがエルフのしきたりってやつだろ」
ハルは知っていながら、それでも全く反応せずにエミリと話をしていた。
エミリは純粋な瞳でルナリアとハルを見ている。
――エルフの巫女。
これは各集落から選ばれたエルフの子どもが中央大森林で任命される仕事である。
主に中央に生息する長老の木と呼ばれる、世界樹の守り人となるのが役目である。
長老の木は大量のマナと呼ばれるエネルギーを生成して、中央大森林の富をもたらし、更には世界中にもその恩恵を与えている。
であるならば、エルフに限らず他の種族にとっても他人ごとではなかった。
「そ、それはそうですが……わかりました。ギルドマスターにはそうならないよう進言します。ギルドから護衛依頼を出してもらいましょう。それで、中央大森林まで連れていくのが無難かと」
自分が無知であったことを恥ずかしく思った冒険者部隊のリーダーは慌てたようにそう言い直した。
それならばとハルもルナリアも、他の冒険者たちも頷いている。
――唯一、エミリだけを除いて。
話がまとまっていくのを感じ取ったのか、彼女は悲しそうな表情で首を横に振ると、ルナリアの背中にしがみついて他の視線から隠れるようにする。
「きゃっ……エミリちゃんどうしたんですか?」
突然の反応にルナリアは驚きながら声をかける。それは決してしがみつかれたのが嫌な様子ではない。
「――やだ」
そして返ってきたのはこの一言。エミリは絶対に離れないという意思表示を込めてルナリアの背に顔をうずめていた。
「やだ……って、森に行くのがか?」
ハルのこの質問に、首を横に振るエミリ。
「あー、もしかして……ギルドに行くのが嫌なのか?」
ハルは続けて質問をする。だがエミリには通じなかったのか、顔を上げてきょとんと首を傾けるというものだった。
「あ、あの……もしかしてお二人がいいということなのでは?」
言いにくそうであったが、冒険者部隊のリーダーがここにきて空気とエミリの気持ちを考えた発言をする。
そして、エミリはぱあっと花開くような笑顔で何度も頷いていた。
一瞬で周囲の空気が和らいだように感じられる。
「俺とルナリアに送ってもらいたいのか?」
「うんっ!」
そして、最終確認であるハルの質問にエミリは元気よく頷いていた。
「というわけで……」
「どういわけだ?」
話を進めようとする冒険者部隊のリーダーにハルはすぐさま問いかける。
「少女のことはお二人にお任せします。――みんな、再度生存者の確認と残党の確認をしたのち、街に戻るぞ!」
「おー!」
自分たちのことを置いてけぼりにして話が決まってしまったことにハルとルナリアは何かを言おうとしたが、ルナリアにしがみついたままのエミリを見ると何も言えないなと認識し、二人で街まで連れて行こうと顔を見合わせて頷いた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁2、剛腕1、統率1
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化3、自己再生
火魔法4、爆発魔法3、水魔法3、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術5、斧術3、槍術1、弓術1、短剣1
開錠1、盗み1、
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法3、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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