第百十三話
走り続けて村が見えてきたところで、ハルとルナリアは驚きに目を見開く。
「――っ、そ、そんな! 村が!!」
縋るように手を伸ばしたルナリアは火の手があがり、煙が立ち込めている様子を見て愕然としていた。
「ルナリア、しっかり掴まっていろ! ……頼む、あと少しだけ急いでくれ!」
ここまで全力で走らせていた馬に申し訳ないと思いながらも、焦る気持ちからハルは馬の背に手をあてて声をかける。
「ヒヒーン!」
その必死な気持ちが伝わったのか、馬は大きくいななくと今まで以上の速度で走り始めた。
ハルもルナリアも短い期間と言えども、世話になった人たちが住んでいる村が燃えていることに心を痛め、早く早くと心の中で叫びながら馬を急がせる。
到着した頃には、村の家々は焼け落ちてボロボロになっており、地面には村人の死体が転がっている。
「……ああん? お前この村のやつか? だったら最悪のタイミングで帰ってきたな」
「遠くからでも火の手があがってるのが見えただろうに、俺たちに殺されにくるなんて馬鹿なんじゃねーのか?」
馬の足音に気づいて振り返った盗賊二人がハルたちを発見して、ニヤニヤと笑っている。
その隣には狼の魔物がギラギラと目を光らせ、待機していた。
「おいおい、後ろに乗ってるねーちゃん、上玉じゃねえか!」
「おぉ! へっ、さっさと男のほうを殺してやっちまおうぜ!」
ハルの後ろにいるルナリアを見て下品な笑いを浮かべた男たちは、剣を抜いてハルたちに襲い掛かる気満々でいる。
「ルナリア……馬を安全な場所に頼む。俺はこいつらを片付ける」
ハルは馬を降りると、盗賊たちを睨みつける。
「おいおい、お前はどうでもいいんだよ! あのねーちゃんを呼んで来いよ!」
「うるさい」
ハルはそれだけ口にすると、瞬時に盗賊の首をはねていた。
「ひっ!」
無事な男が悲鳴をあげようとするが、返す刃で男の胴を真っ二つにする。
あっという間のできごとであったため、帯同していた魔物たちは何が起こったのかわからず動けずにいる。
「お前たちもきっと村の人たちに危害を加えたんだろうな。敵対しないのはいいが、さようならだ」
ハルは右手を前に出すと風の刃を放ち、狼二体を一瞬で倒した。
「ハルさん! 大丈夫ですか?」
ハルの実力を知っているルナリアだったが、それでも心配そうな表情で声をかける。
「あぁ、大丈夫だ。ルナリア、ここからは盗賊を殲滅する戦いになる。怖かったら俺一人で大丈夫だぞ?」
ここまで二人でやってきたが、先ほどの盗賊たちの態度、そして人間を殺すということから彼女のことを気遣っていた。
「もう、ハルさん! 私はハルさんの仲間ですよ! ずっと、一緒です!」
そう言って笑顔になると、ルナリアは杖を手にしていた。
「わかった、行くぞ! まだ生きている人がいないかも確認しながら、盗賊と魔物の殲滅だ!」
「はい!」
二人は目的を明確にして村の中を走り回っていく。
盗賊たちは村の中を物色しているため、まだ村の中に残っている。
「せい!」
であるならば、外に被害が出ないように、第二のこの村を生み出さないためにハルは剣を振るう。
「ファイアボール!」
その思いはルナリアも同様であり、魔法を使って盗賊たちを倒していく。
使役されている魔物は狼種がほとんどで、数体だけオークがいた。
それらをあっさりと倒すハルとルナリア。
一通り倒し終えたあとで、街の中央にある村長の家の前で偉そうな態度の盗賊と対峙する。男は盗賊たちの頭目だった。
「お前たちが俺の手下どもをやったのか……おい、アレをつれてこい!」
「へいっ!」
頭目が指示を出すと、後方からドスンドスンと大きな音をたてて新たな魔物が姿を現す。
「へっへっへ、さあ登場。俺たちのとっておき、最強のオーガキングだ! さあ、あいつらをやっちまえ!」
のそりとした動きで狙いを見定めたオーガキングは頭目の指示を受けて、ハルとルナリアに襲い掛かる。
巨体にも関わらず動きは素早く、あっという間に距離を詰めてハルに殴りかかる。
「くっ! 重い!」
ハルは剣の腹で拳を受け止めるが、後ろに押し込まれる。
「ガアアア!」
そのままハルを攻撃すると思われたが、すぐに標的を変えて今度はルナリアに殴りかかる。
「ルナリア!」
攻撃力の高さから思わずハルが名前を呼ぶが、ルナリアは既に手をうってある。
「効きません!」
ルナリアの前には、氷、土、風の障壁が出来上がっている。
オーガキングが動き出した時に、視線がハルとルナリアの双方に向いていたのをルナリアは察知しており、自分にもすぐに攻撃がくると判断していた。
「グオオオオ!」
そのままで良しとすることもなく、オーガキングは一発、二発、三発と続けて拳を放ちルナリアが作り出した障壁を壊そうとしていく。
「させるかあああ!」
自由にさせるハルではなく、剣をオーガキングに振り下ろす。
先ほどの攻撃、そして障壁を破壊しようとしても拳に傷一つついていないことから身体の硬さを理解しているハルは剣に熱をまとわせて背中に斬りつけた。
剣は、まるでバターを斬がごとく背中に大きな傷をつけた。
「グガアアアアアア!」
思ってもみないダメージに声をあげるオーガキング。
オーガキングは怒りに目を真っ赤にして振り返り、ハルに殴りかかろうとする。
「当たらないぞ!」
力負けするとわかっているハルは拳を避けると、すれ違いざまに胴を斬り裂く。
「グガアアアア!」
再び声をあげるオーガキング。
ハルの攻撃力がオーガキングの防御力を上回っていることに、盗賊たちは驚いている。
「な、なにやってやがる! さっさとそんなやつらやっちまえ!」
頭目の声に更に目が光ったオーガキングは、さらに速度をあげてハルに襲い掛かる。
今度は避けることができずに再び剣で受ける。
「ぐ、ぐぐっ」
先ほどよりも重い一撃にハルは思わず膝をついてしまう。
しかし、ダメージを与えた背中ががら空きであるため、そこにルナリアが魔法をぶつけるはず。
しかし、それはいつまでも来ず、ハルは全力でオーガキングの拳と拮抗していた。
次の瞬間、反対の拳がハルへと襲い掛かる。
「――ダメ! 走らないで!」
「やああ! やだああああ!」
そこに悲痛なルナリアと泣き叫ぶ子どもの声が聞こえる。
一瞬だけそちらに意識が向いたオーガキングの拳の力が弱まった。
「くそっ!」
嫌な予感に横に転がってオーガキングから逃げるハル。
すぐにルナリアに視線を向けると、そこには子どもの姿があり、保護しようとした彼女の手から飛び出していた。
「ガアアアアアアアア!」
邪魔されたせいでハルを逃してしまった。
そのことに怒りを覚えたオーガキングは、その原因である子どもに殴りかかろうとする。
「危ない!」
必死に手を伸ばしたルナリアが走り寄って、少女をかばい背中をオーガキングに向ける。
次の瞬間、ドーン! という大きな音が周囲に響き渡った。
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