第百十一話
「そうなんです。どれもが傷などがほどんとない、とても素晴らしいものです。ですが、問題があります。角のほうは当ギルドでも最大級の金額を用意することが可能です。しかし、魔核のほうは……それが難しいのです」
難しい表情でチェイサーが言うのをそこまで聞いて、ドラクロも状況を理解する。
「なるほどな……確かに、その魔核はやばそうだ。いちギルドがどうこうできる代物の範疇を超えているかもしれないな……」
改めてハルたちの魔核を手に取ってじっと見つめたドラクロのあまりに評価にハルとルナリアは困ったように顔を見合わせる。
「そこで、私はオークションへの出品を提案しました。うちで代行することもできますし、代行業の方を紹介することもできます。希望であれば、会場に同行していただくこともできますし、悪い話ではないと思ったのです――が」
そこでチェイサーが視線をハルとルナリアに向けた。
「俺たちは別段金に困ってないし、なんだったらその角だけ買い取ってもらっても結構な金額になるんだろ?」
ひょいと肩を竦めたハルの問いかけにチェイサーが硬い表情で頷く。
仮に魔核がなかったとしても、これほどの美品のベヒーモスの角が手に入るのはギルドとしてもありがたいことだった。
「しっかし、それだけの品質の魔核をよそに流すというのももったいないなあ。――知ってしまっただけに、な」
ドラクロの言葉にチェイサーが何度も頷いている。
「と、言われても、なあ?」
「ですです。先ほどハルさんも言いましたし、チェイサーさんにも言いましたが、私たちお金はそれほど必要がないんです。だから魔核を買い取ってもらうにしろ、オークションに出すにしろ、お金という結果になってはあまり意味がないんです」
ハルとルナリアの意見は変わらない。
相手を困らせたいわけではないが、金ばかり大量にあるのも自分たちの本意ではないという様子だ。
「ふむふむ、なるほどなあ。だったら、あれだ。直接交渉のオークションにしろ。先着順で条件を提示して、より良い条件のものに販売するやつ」
腕を組んで二人の話を聞いたドラクロは、思いついたように口を開いた。
だが、直接交渉とオークション――そぐわない二つの言葉が組み合わさったため、ハルもルナリアも首をかしげてしまう。
「あぁ、お二人は知りませんよね。ギルドマスターが言ったのはですね、まず通常のオークションと同じく、オークション会場に展示して商品を見てもらいます。ですがそこに条件を記載しておくんです。ハルさんの場合ですと、金銭での販売はしない、直接交渉による条件取引のみ、と。展示期間が終わった後、更にはオークションが一通り終わったあとに、希望者を集めて順番に交渉をしていきます」
身振り手振りを加えつつ説明をするチェイサー。
だが二人はなんとなくわかるが、いまいちぴんとこないのか表情はさえない。
「まあ、やってみりゃわかるさ。それより、条件交渉するとなったら希望している品物とか、条件とかそういうのを書いておいたほうがわかりやすくて、かつ希望のものが手に入りやすい」
カラカラと笑うドラクロの説明にハルとルナリアは考える。
一体、自分たちはお金以外で何を欲しているのか?
それを考えるが、なかなか思いつかない。
「あの、例えばルナリアさんだったらアクセサリや宝石類などはいかがでしょうか? 女性なら装飾品を好まれると思うのですが」
控えめなチェイサーの提案に、きょとんとした表情をしたルナリアは首をかしげる。
「うーん、魔道具ならいいかもしれませんが、装飾品はそんなに……」
ルナリアの鈍いその反応にチェイサーも苦笑する。
「……便利な魔道具、強力な装備、使い勝手のいいアイテム。地位や領地はいらない――そんなとこだろ」
ハルがシンプルに告げる。
大雑把な条件ではあったが、それでも二人の希望を考えるとそういったところだろうと考えての言葉だった。
「なんともはや、なかなかざっくりとしたことを言うもんだ。……しかあし!」
ハルの言葉を聞いて何度か頷いたドラクロは急に大きな声を出す。
「うるっさ!」
「きゃあ!」
ハルは文句を言い、身を竦ませてルナリアは倒した耳で声を塞いでいた。
「冒険者は自由だ! どうせこんな高いものを買いに来るやつなんて、金や暇を持て余している貴族様たちくらいだ。お前の言う条件でいい! それで出品しよう!!」
どんと仁王立ちしたドラクロは強く宣言する。
「……まだ出品するか決めてなかったんだけど」
「……押し切られちゃいましたね」
勢いで言われたが、反対する理由もないため、苦笑交じりに二人とも納得することにする。
「すいません。でも、決して悪いようにはしませんので……ギルドマスター、私が担当するということでよろしいですか?」
「あぁ、お前でないとこの案件は無理だろ。どんなやつが出てきても、もし王様が出てきたとしても、変なことを言ってきやがったら俺の名前を出して突っぱねていいからな?」
「承知しています」
過去に何度かあったやりとりなのか、二人の呼吸はピッタリだった。
「王様でも突っぱねるって……」
「すごいですね……」
ハルとルナリアは王様でも突っぱねると言い切った二人を見て呆然としていた。
「おい、何をぼーっとしているんだ? そうとなったら、さっそく動くぞ! チェイサー、一番近いオークションはいつだ?」
「次の週末になります。まずは、申請書を今週中に出して――おそらく来週頭から展示が一番早いと思います」
「任せた。ただし、展示の際には厳重にしておけよ。こんなものがなくなるなんてことになったら、弁償のしようがないからな」
テンポのよい流れで二人のやりとりが進んでいく。
「それでは、ハルさん、ルナリアさん。こちらの素材全て出品という形でよろしいでしょうか? 角だけこちらで買い取るというということも可能ですが……?」
そういった話も出ていたため、チェイサーが確認する。
「いや、全て出品で大丈夫だ。面倒かけるが頼んだ。俺たちは何かやっておくことがあるか?」
「それでは、こちらの書類に……」
こうして、二人の素材の出品の準備が着々と進んでいく。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁1、
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化2、自己再生
火魔法3、爆発魔法3、水魔法2、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術4、斧術2、槍術1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法3、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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