第45話 おしどり夫婦
やってしまった…。
つい頭に血が登って妻に暴力を振るってしまった…。
今も仕出かした罪に手がワナワナと震える…。
なんて事を仕出かしてしまったんだと後悔するが後の祭りだ。
妻に合わせる顔が無い。
今日は月曜日。
そそくさと仕事に出よう、どうせ妻はまだ眠っているだろうから気づかれる前に出勤しよう。
後の事はそれこそ後で考えれば良いさ。
しかし。
「おはよう貴方」
「え?お……おはよう…」
彼女は既におきていた。
それどころか朝の朝食を作っていた。
しかも変に豪勢だ。
焼いた食パンに温めたミルクコーヒーにハムと目玉焼き。
簡単な軽食だけど今までこんなしっかりと用意されている事は無かった…。
割と大真面目に新婚以来だ…。
いつも俺が出勤する時間になっても寝てる妻が?
なんだ…新手の嫌がらせか?
昨日の仕打ちに対する報復か?
食べたら腹痛…あるいは激辛?
「何してるの?早く食べたら?」
「え?ああ…」
食べてみた所味は普通だ…普通に上手い。
なら下剤が仕込まれているとか?
妻の作った朝食を素直に喜べない事に若干の後ろめたさと罪悪感。
「「あっあの…」」
「え?」
「あっ…」
声が被った…彼女は何を言おうとしたのか…?
「貴方から先にどうぞ…」
「あ…その…昨日は済まなかった…頭に血が登って…乱暴な事をしてしまった…誤って済む問題じゃないが…」
「そ…そんなっ!悪いのは私よ…貴方の言う通りだわ…私…どうかしてた…自分の子供に酷い事をして…最低の親よ。私…子供の頃…親の命令は絶対だったの…口答えしたら叱られて…手を挙げられる事もザラだったわ…だからアレが正しい躾方だとおもってたの…」
冬柳の家は昔ながらの古い因習に囚われた家だ。
亭主関白が基本で妻や子供に怒鳴り散らす父親が当たり前の家庭。
無論彼女もそうやって教え込まれ育てられたのは聞いている。
辛い思いをして育ったからこそ自分の子供にはそんな思いをさせたくないし真っ当に…幸せに育てたい…彼女はそう言っていたが…。
昨日のアレが彼女の本性ならあの言葉は嘘だったのだろうか?
多分そうなんだろう…なら、今の目の前の彼女は何なんだろうか?
「昨日貴方に言われて私…考えたの…昔の自分が親にされた事を自分が子供にする…これじゃ…何も変わらない…私があの親達と同じになるだけ…忌み嫌ってた親その者に私自身がなる…私…どうにかしてたわ…でも思い出すの…親のお父さんやお母さんの顔を…声を…私を殴ろうとする手を…。」
もしかしたら彼女は親から何か協力な暗示…それに近い何かを受けてるのかも知れない?
ならそれが無くなって正気に戻ったとか…いやいや何故だよ?
「私…昨日…貴方に怒られて…頭を掴まれて…」
「あっ、そのすまない…あんな事…するつもりは無くて…言い訳がましいけど…本当にごめん…」
「ちっ違うの!!私!その…」
何だ…?
妻の…澪子の様子が変だ…
息が荒く…はぁはぁと吐息を漏らす。
頬を赤らめ妙に腰や足をくねくねとよじりとても…とても…官能的に見える。
「貴方に怒られて…本気で怒られて…頭を捕まれてから……変なの…体が高ぶって…貴方の事を考えると…どうしょうもなくなる…居ても立っても居られなくなるの……何なのかしら……コレ…はぁ…はぁ…」
顔を赤らめ吐息交じりに見つめてくる。
ヤバい…こんな澪子を見るのは初めてだ…。
妙に色っぽい…。
何度もくどいが俺の妻はすんごい美人だ。
黒く艷やかな黒髪を腰まで伸ばしその髪が体に巻きついていればそれだけでエロい。
腰は本当に一児の母で30後半なのか疑いたくなる程細いのに胸やお尻はとても大きく腰の細さも相まってより大きく魅惑的に見える。
肌は白く日焼けとかで劣化していない。
まるで少女のような瑞々しさを保持している。
学生時代は色んな男から告白やナンパをされていたし、今でも町中を歩けば様々な男の視線を集める魅惑的な女性だ。
正直浮気や不倫をされていても不思議じゃないくらい男の影が常にこびり着いている。
しかし彼女に限り、その心配は無い。
何故なら彼女が男に興味が無いからだ。
彼女は男を下等なものとして見ている。
恋愛のステージにすら立てていないのだ。
俺も実家の鷹野の名前が無ければ結婚なんて絶対に出来なかったと確信している。
唯一彼女が意識している男性が父親だ。
彼女にとって父親は恐怖の対象で恐れるべき象徴だ。
故に父親は男である前にそう言った概念の外側にある存在なのだろう…。
「ねえ…貴方…私がまた間違った事をしたらまたああやって本気で怒って欲しいの……本気で…怒ってほしいわぁ」
「わ…わかったから……」
「本気よ…本気で怒ってね…お願いね?」
ふと…娘の言葉を思い出す。
【 兎に角っ!今の弱腰のお父さんじゃ駄目よ!今の弱腰のままじゃあの女はお父さんを男として見ない!!攻めるの!!攻めの姿勢よ!!お父さんはもっとSっ気をだしてお母さんを責め落とすくらいの気迫を見せるべきね! 】
アレは…こう言うことだったのか…?
旦那で夫である俺より娘方がより正確に澪子の性格…いや、性癖を見抜いていた……と?
何ということだ…つまり…澪子は…マゾ…?
なら……。
「あまり調子に乗るな」
「ひぐっ!?」
俺は澪子の首を掴んでかるく絞める
「あ……ぐぅ……うぅ…」
「反省の色が見えないな…?君は本当に反省してるのか?俺ではなく俺達の娘にしっかりと謝らないと駄目だろ?そんな事もわからないのか?」
「ひぐっ……あが…ごめ…ん…なざ…い」
「ふんっ、」
「これから仕事だから話は帰宅後だ…、それまでしっかり頭を冷やしておけ、わかったな?」
「ごほ…ごほ……は……はいぃ…分かりましたわ…貴方…♡」
駄目だ…コイツ……。
完全にハマってやがる…。
一応娘のことはコレで一件落着だけど…それ以外でとても…とても…大きな問題が出来てしまった……
かも知れない…。
俺と彼女の…これからに…
幸があったら……いいなぁ~。




