第42話 引いて駄目なら押してみろと娘が言います。
冬柳雫は流れる夜景を無感動に流し見ていた。
今は父親の車の中。
こうなる事を事前に父親に話していた雫は予め父親に迎えに来てくれるように頼んでいた。
母親と口論の末、勢いに任せてレストランを出た後こうして父親が迎えに来た車の中でぼーっと夜景を見ていた。
「これで満足の行く結果になったかい?」
「うん、流石にあのお母さんもここまでやれば諦めるしか無いと思うわ、久豆流の人達も諦めてくれると思う」
「いやはや君はやる事が大胆だね、まさか縁談の場で婚約相手の御子息を扱き下ろすとは聞いた事がないよ」
「だって仕方ないじゃない?嫌だって言ってるのに聞いてくれない親が悪いわ」
「こりゃ澪子さんもお冠だろうね…最悪勘当されかねないよ?」
「私は今の一人暮らしが気に入ってるしそれでもかまわないよ?家賃はお願いね?お父さん」
「こりゃまた我が子ながら強かな娘だよ」
因みに澪子とは雫の母親の名だ。
冬柳家の風習なのか名前には雨の字をを冠する事が多い。
雫の父親、冬柳兼政の妻である者の名だ。
「お父さんはもっとあの女にガツンと言ってやった方がいいわ!舐められてるのわかってるでしょ?」
「あはは…これは参ったね」
「笑い事じゃ無いのよ?」
「とは言ってもねぇ…」
「はあ…あのねお父さん…あの女は強い男に隷属され従わされる事を無意識に求めてるの!今の受け身の姿勢じゃ駄目だよ」
「我が子ながらなんて事を言うんだろうね…末恐ろしいよ」
「お父さんが弱気だから娘の私がこんな目にあってるの理解してる?いい?お父さん!私もあの女も根本的に同じ趣向なの…認めたくないけどこんな所はしっかり親子だと気付かされるわ。
私もお母さんも基本的に男を下に見てる…舐めてるのは同じ…でも無意識に男に服従したいと思ってる…自分がこの男に服従させられたい…そんな欲求を叶えてくれる存在を心待ちにしてるのよ!?」
「……なんと言うか…我が子ながら本当に恐ろしい……はぁ…それでその隷属されたい相手があの真島拓真君だと?」
「今は私の話は良いのよ……でも私はタクちゃんに虐げられたいと思ってるのは本当ね…彼時折すっごいSになるし…ゾクゾクさせられる…」
「え…えぇ…、そうなの?」
「兎に角っ!今の弱腰のお父さんじゃ駄目よ!今の弱腰のままじゃあの女はお父さんを男として見ない!!攻めるの!!攻めの姿勢よ!!お父さんはもっとSっ気をだしてお母さんを責め落とすくらいの気迫を見せるべきね!」
「はは…善処してみるよ…」
車内でいささか個性的な話をする親子。
しかし何だかんだのほほんとした時間が過ぎる。
雫としても親の仲は良い方が好ましい。
しかし明確に今の両親の仲は冷めている。
正直お母さんには勢いに任せて言ってしまったお父さんの事を本当は好きでは無い、本当は愛して無い!親に言われてしょうがなく結婚したと言う発言に関しては言い過ぎだと後悔していた。
お母さんがお父さんに抱いてる恋愛感情が希薄なのは子供の頃から抱いていた正直な懸念で、子供ながらにそれを心配もしていた。
しかし子供の視点で母親を見ていれば気付く事もある。
それが母親の性癖である。
母親は男を見下しているし馬鹿にもしている。
流石は私の母親だと思うくらいに母は顔が良い。
言い寄って来た男の数は歳の分も加えるなら私なんかとは比べるべくもない数、それこそ星の数程の男からアプローチされて来たはずだ。
しかしそんな烏合の衆に母が靡くことは無い。
多分全部同じに見えている筈だから。
しかしお父さんの場合は少し違う。
曲がりなりにもお父さんはお母さんの恋人になりその過程で結婚し、私を産んだのだ。
間違い無く他の男共には入り込めない深みにいる。
お父さんの旧姓…鷹野はそれなりに有名な企業の名前だ。
久豆流程の名声はないが毎年とても大きな利益を出している。
鷹野の老夫婦は私の事は可愛がってくれるけどお母さんの事は嫌っていて仲は昔から良くない。
お父さんが冬柳性になってる所も多分関係してるのだろう。
お母さんはそんな鷹野の名前でお父さんを結婚相手に選んだのかも知れないけどどっちにしてもあのお母さんが自分で選んだ相手がお父さんならお母さんの趣味趣向にお父さんが乗っかればきっと上手くいくに違いない筈だ!!と雫は信じてやまない。
しかし今の亭主関白とは真逆の状況ではそれも難しそうだなと思うしか無かった。




