第37話 愚痴
「うん…うん…はぁ…わかってるわよ!」
僕は今…またもや冬柳さんの家にお邪魔している。
彼女は今、誰かと電話中だ。
声質は刺々しく不機嫌なのがありありと伝わってくる。
多分…おそらくだが相手は冬柳さんの母親…あの時の綺麗で美人だけど近寄り難い女の人と見てほぼ間違い無いだろう…。
「何度も言わせないでくれる?私は貴方の玩具でも無ければ奴隷でも無いわ、言われてハイそうですかと従うなんて思わないで頂戴!」
親子の言い合いは白熱してるようであの冬柳さんが自身のスマホに唾を飛ばしてがなりかけている。
いや、あの冬柳さんがと言う程彼女が声を荒らげている姿はいうて珍しい物でもない。
なぜならつい先日彼女が僕への思いとか愛をコレでもかと教室内で盛大にオープンしてしまっているのだから…。
あれ以来…僕に冬柳さんの彼氏だと言う事で嫉妬心剥き出しで睨んでくる男子の数は激変した。
あの時の冬柳さんのシャウトはどうも一部の誰かが録音していたらしくそれが学内SNSで拡散され彼女が僕に激重感情を持っている事や冬柳さん自身がヤバい人間だと言う事がついに多くの生徒に認知された。
もはやプライバシーもクソもない現状だが彼女自身はその事に割かしご満悦な様だ。
「私にはタクちゃんと言う心に決めた相手がいるのよ!!なのにかってに!…だいたい何あの男、あんなのが私の婚約者ですって!?冗談じゃ無い!私が一番………あぁ…もう!」
今も続く親子喧嘩は当分終わりそうも無いなと思っていた矢先…彼女は悪態をついてスマホを耳元から離した。
「お疲れ様…お母さん…?」
「ええ…全く我が母親ながらあんなのが血の繋がった親だなんて悲しくなるわね…」
「と言いますと?」
「短気で怒りやすくて人の話を聞かない!そのクセ自分の話は長いのよ…同じ事をくどくどと…ホント嫌になるわ…」
「あはは…」
なる程…冬柳さんの短気で怒りやすい性格は母親譲りか…。血は争えないって奴だな。
「つまりあれか…久豆流からの誘いを何故断ったとか言われるって感じ?」
「はぁ…そんな感じね…」
久豆流にガツンと言ってやった直後の彼女は嬉しそうにニヤけていた。
それはもうとても嬉しそうにニヤけまくっていた。
しかし今の彼女はどん底に叩き落されたと言わんばかりに沈んだ表情をしている。
「冬柳の再建には久豆流家の庇護下に入ってその恩恵を受けるしか無いっていうのが爺共の見解らしいわ、馬鹿何じゃないかってつくづく思うわ…それって冬柳の再建どころかたんに久豆流に飲み込まれてるだけなのにね?どうしてそんな事もわからないのかしら…」
「確かに冬柳さんを嫁に出したところで久豆流家の人間になるだけだしね」
「多分私が嫁に行くことで謝礼みたいなのを貰えるんじゃない?巫山戯た話だわ…」
誰だって自分を出汁に金稼ぎなんてされたらたまらない。
それが家族なら尚更だ。
そこはこの冬柳さんだって例外では無いって事だ。
「タクちゃ~ん!私今つらいの〜慰めてよ〜」
猫なで声でそんな事を言った彼女は僕の膝もとに座り込んでくる。
足全体に少女の重みと暖かさ、そして柔らかさが広がる。
思春期真っ只中の高校生男児にはいささか厳しい感触だ。
自然と下半身の極一部がイグニッションしそうになる。
「ふふ、タクちゃん顔が赤いよ?相変わらず弱いね?」
「大抵の男子は抵抗出来ないよ?僕はまだ抵抗してるほうだよ」
「私のお尻に当たってるこの硬い感触は何かな?全然説得力ないよぉ?」
「大丈夫だ…問題ない…」
何が問題ないのか?
大いに問題ありだろ…。
結局少女の柔肌には抵抗なんて出来ない…僕もれっきとした健全な男子なのだから…。
そんな甘ったるくも緊張をはらんだ時間は過ぎ去り
「泊まって行ってもいいんだよ?」
「また今度にしておくよ」
といつもの恒例なやり取りを交わして僕は帰り自宅を始める。
じゃまた明日とこれまたいつものセリフを口にして彼女の家を出る。
最近めっきり寒くなって来たし空も暗くなるのが速くなって来てる。
冬が近づいている。
冬柳さんの名前の季節がやって来る…。
そんなセンチメンタルみたいな気持ちになっていると自動車のクラクションが鳴る。
一瞬僕に向けてかと錯覚しそうになるもそんなわけ無いかと思考を切り替え帰路につこうとした所で…
プップー
とまたもやクラクションが鳴る。
僕の前で車は緩やかに停車し、自動車から人が降りてきて僕の方に歩いてた来る。
スーツに身を包んだ30後半から40前半くらいのイケメンの男性だった。
何故……僕…?




