第35話 恋のライバル?彼はめげないさ!
清々しい顔をして冬柳雫は着席した。
長い黒髪をかきあげマントの様に後方に流す。
ファさぁって効果感が聞こえてきそうな程に様になっている。
まるでマラソンを完走したみたいな、あるいは登山を走破したみたいなそんなやりきった顔をしている。
「はぁ…。」
うっとりとしていた。
恍惚に頬を染めとろんと微睡んだ顔。
まるで愛し合った後の賢者タイムである。
まぁ彼女の中では相違ないのだが。
「い…いやぁ…雫アンタすごいね?」
「え…?何が…?」
「いや…何がって…真島へのアンタの本気度合いがよ」
「凪咲には今一私の彼への気持ちが伝わってないみたいね?いいわ!今後タクちゃんに変な気を起こさない様に改めて私の思いを教えてあげる!!いいかしら!タクちゃんはね!」
「わぁ〜わあぁ〜ストップっ!ストップ!!わかってるから!大丈夫だから!」
桜田凪咲は第2ラウンドを始めようとした冬柳雫をオーバーアクションで急いで止めた。
分かっていたつもりだがここまでとは思って無かった。
自分も佐渡健吾を愛しているがここまでの熱量があるかと問われると怪しくなる。
負けてられないと斜め右の決意を新たに固め桜田凪咲は自分の気持ちに向かい合う。
そして教室の中も徐々に賑やかさを取り戻していく。
冬柳雫の想い…いや重すぎる想いは男子生徒全員にもう生半可に真島に嫉妬とか出来ねーなよこ◯されちゃうと痛感し、女子にはこりゃすげーやマジパネーと彼女の湾曲した一途さに呆気に取られていた。
そして久豆流は……、
「…ぁっ…………ぉ……」
未だにフリーズしていた。
担任の老教師は久豆流に着席を告げるも尚も着席しない久豆流をとうとう放置し、朝のホームルームをそのまま開始した。
久豆流にとって振られると言う現象は未体験の事象だった。
彼にとってあり得る筈のない現象だった。
顔も良く、頭の出来も良い。
運動も得意で要領も良いので大抵の事は卒なくこなせる適応力の高さも彼の自慢だった。
ねによりオヤジが超が付くほどの金持ちで将来は確約された超優良物件なのだ。
女などは自分から声なんてかけなくとも向こうから街頭に群がる羽虫の如く寄って来る。
故に価値はない。
身体つきや顔が良ければ飽きるまで恋人にしてやるがそれだけ。
飽きれはわ容易く捨てるし気にいった女が見つかれば浮気なんて日常茶飯事。
五又六又なんのその。
そんな価値観のまま成長した彼は女は自分が声をかければ寄って来て当たり前。
むしろ目が合えば寄って来るのが常識だった。
そして数日前にオヤジから持ちかけられた婚約話で見せられた写真を見て彼の中に稲妻が走ったのだ。
最初は合成写真やAIによるフェイク画像を疑った。
近年のAI画像は現物の遜色ない画像を生み出す。
載せられた写真がAI画像だとしてもなんら不思議では無い。
そこまでの美女が写っていた。
名を冬柳雫。
なんと清楚で清らかな名前だろうか、まるでこの少女の心象を映し出したかのような美しい名前ではないか…はぁ…ふつくしい…。
久豆流創真は生まれて始めて異性を美しいと評価した。
生まれて始めての恋だった。
故に手に入れたい。
父親に頼んで彼女のいる学校に転校させてもらい、ゆくゆく始まるラブロマンスに期待し、色々な妄想をたぎらせていた。
「タクちゃんはねぇ!!私の始めてを奪った唯一無二の男の子なのよぉおぉぉぉおぉぉぉ!!!」
手付きの女なら奪えば良いし、処女非処女に拘る程面倒くさい男では無いと自負している。
しかし…しかし…。
ここまであからさまな無関心を向けられた事がかつてあったか!?
ここまであからさまな侮蔑を向けられた事があったか!?
さらにはこの僕の…この俺の全てをこの女は侮辱した。
顔も背丈も容姿も学力も運動神経も財力も…何もかも親からの施し物と切り捨てた!
親からの施し物?
それの何が悪い!!
金持ちの親を持てたことは即ち俺の豪運あったればこそだ!!
つまりは俺の力だ。
親ガチャURを引き当てた俺は顔も背丈も学力も運動神経も財力も何もかも生まれた段階で持って得たんだ!!
つまりは俺はパァ〜フェクトな状態で生まれてきたのだァぁぁ!!
つまりそんなパァ〜フェクトな俺を否定するこの女はつまらない下らないカスに等しい雑魚女なんだ!
なら高位存在たるこの俺が!!この生意気な雑魚女を"わからせ"てやる必要がある!!
そうだ!!
これは与えられて生まれてきた持つ者が持たざる貧しい者へと向ける無償の愛なのだ。
ふははは!ぬぅはははは!!!
そんな感じに自己完結した久豆流は優雅かつ大胆に着席した。
拓真は冬柳雫をめぐる恋のライバルとしては全く驚く程に脅威とみなしていないがそれ以外の面で色々とめんどくさい奴だなとは彼のフリーズ後の百面相を見て改めて痛感した。




