第32話 クッキーの味
冬柳さん家の諸事情を聞いた後、せっかくだからと彼女は手作りのクッキーを出して来た。
見た目は悪くない!と言うか普通だ。
普通に美味しそうだ。
見た感じ髪の毛がはみ出てたりはしない。
普通のクッキーだ。
「さぁ、遠慮無く食べて!」
「うん…」
一つ手にとって口に運ぶ。
ポリポリボリボリ。
うん、普通だ。
普通に美味しい。
だがしかしだね?
ここで普通に美味しいなんて言って良いものなのか?
貴方らしいつまらない凡庸な感想ね?
なんて言われかねない。
ここは趣向を凝らし、斜め右の感想を述べないと…。
「あっと…これはね…そう!この味はっ」
「一つ言っておくけど変な気を使って意味不明な感想なんて言わないと思うし貴方はそんな事しないって理解してるけど…言わないよね?」
「……へ…?い…言う訳無いじゃん…うん…モグモグ…普通に美味しいよ?うん」
「ふふ、そう、タクちゃんらしいつまらない感想ね」
「うぐ……」
ははっ!(某ネズミの世界的マスコット風)
敵わないね!
僕の思考は安々と先読みされ出鼻を挫かれた。
甘い筈のクッキーに何故か酸っぱい風味が突如加わったのは僕の涙がトッピングされたからでは無いと思いたい。
その後、間もなくして僕は帰路に付くことになった。
最近は毎日の様に帰りに彼女の家、あるいは僕の家の何方かに寄っているので校外で冬柳さんと会ってる頻度は例の3つの約束があった頃より格段に増えている。
お陰で以前程彼女からの拘束時間は減って来ている。
比較的物分りの良い理解あるメンヘラである冬柳さんはちゃんと僕のプライベートタイムも残してくれるパーフェクトな彼女様なのだ。
しかし…婚約か…。
高校生なんてまだまだ子供だ。
婚約とか結婚とかそんな物とは無縁の世界で生きてるんだ。
結婚なんてリア充が俺お前と結婚する〜とかおふざけ程度に時折口にするワードでしかなかった。
それがリアルに婚約とか…本当笑えて来る。
冬柳さんは誰かと結婚する気なんてない。
彼女は基本男に興味がない。
ブランド物のグッズを見せびらかすかの様に彼氏を選んでもそこに愛はない。
彼女なやとって男は見栄を主張する為のパーツに過ぎない…だから僕が危惧する事は何も無い。
はっきり言ってしまえば僕は調子に乗っていたのかも知れない。
なんだかんだ他のどんな男子にも至る事の出来なかった冬柳さんの恋人なんて大層なポジションに付けた事にのぼせていたのかも知れない。
浮気をするメンヘラ女としての顔が広まり、確かに彼女の人望は下落した。
したけど今だ彼女のカリスマ的美貌は錆びついちゃいない。
未だに男子の付き合いたい女子ランキングは堂々のトップ枠だしチョメチョメしたい女子ランキングだと1位だ。
そんな高嶺の花が僕を選んだのだ。
これにのぼせ上がり調子に乗っていたとしても仕方ないじゃないか…?
だから僕は後々大きな危機感に苛まれる事になる。
子供ではどうにも出来ない物事に。




