第17話 なし崩しのお泊り
結局僕はそのまま冬柳さんの家に泊まることになった。
いや、帰らせてもらえないので結果的に泊まる事になったってのが正確なのだが。
そして今、彼女は台所で夕食を作ってくれている。
一人暮らしが長い彼女は料理も普通に上手い。
今日は定番のカレーとそのカレーで余った具材で肉じゃがを作っていた。
待っている間は暇なので彼女の部屋に行こうとしたがそれは本人から止められている。
いつもは彼女の部屋に通してもらえるのだがどうやら散らかっているらしく入ってはいけないらしい。
なのでおとなしくリビングで待つ事にした。
猛烈に嫌な予感がするので言葉通りに従っておくのが吉だろう。
さて、僕は今後彼女と付き合って行く上でもう自分を偽るのはやめにした。
別れてもいい、振られても構わない。
そんな振り切った発想に至った僕はもう彼女の前で彼女に好かれそうなキャラを演じて行く事に意味を持てないでいた。
ならどうするのが正解か?
いざ素で接していくとなると何が素なのか分からなくなる。
よく、普通にしていて。
なんて言われたら普通とはなんぞや?
と自問自答してしまう事は良くある事だと思う。
まさに今そんな感じだ。
普段の僕なら彼女が何か料理をしていたら手伝おうか?と気を使う場面だがここはあえて椅子にふんぞり返ってスマホでも眺めていようと思う。
いや、もっと非常識な奴なら料理中の彼女の後ろに立ってお尻を触ったり抱き着いたりするのだろうか?
いや、流石に非常識過ぎる。
何より僕にそんな事をする度胸が無い。
ここはおとなしくスマホでも眺めておくのが良いだろう…。
クラスのグループラインに目を通すとクラスメイトの話題は主に佐渡と桜田さんのカップル成立の話題に加え、冬柳さんと僕の物が圧倒的に多かった。
いやいや、僕がトークのメインに置かれるとかあり得ないだろ?
にわかには信じ難い展開にスマホの液晶画面を二度見してしまう。
しかし話題の中心になったからといって僕と言う人間が歓迎されている訳ではないのは文面からして分かりきっている。
話の内容は清楚美少女の冬柳さんと隠れて付き合っていた事への暴言や嫉妬等だ。
まぁ分かりきっていた事実だ。
そして冬柳さんに関しても書かれている。
二股に関する事、未だにその事実を受け入れられない一部の人達が二股なんてあの真面目な冬柳さんがする筈無いと騒いでる派閥と冬柳さんに幻滅している派閥。
後は佐渡君可哀想だったり冬柳さんもそう言う事するんだと変な仲間意識を持つ派閥と様々だ。
そんな内容のチャット欄をみているとどうやら料理が無事出来上がった冬柳さんがこちらにやって来た。
「何をみてるのかしら?」
「え?ああ…クラスのグループチャット」
「なに?私の陰口でも見て笑ってたのかな?」
「そんな趣味悪い事しないよ」
「しってる…君は無駄に優しいしね」
「無駄には余計じゃない?」
「無駄な優しさ、無駄な正義感で私達の事を暴露したんでしょ?」
「うぐっ…、」
ぐうの音も出ない。
「ふふ、安心してよ…?別に君を責めてる訳じゃないからね?むしろ感謝してるのよ?」
手伝ってと言われ出来上がったらカレーをテーブルに配膳する。
その途中でも彼女の言葉は続く。
「君との仲を周囲に隠し続けるのもだんだんと面倒に感じていたの…君との関係を回りに認知されたらこの神聖な関係に泥を塗る事になるって思ってたのよ……でも私達の事を周りに知らしめるのも大事だと思うしこれで良いと思ったのよ」
「……。」
カレーやコップが置かれたトレーをテーブルに置いて対面に座った冬柳さんは僕の目を見て話す。
「前に君は私の恋心は依存といったよね?」
「え……?…うん、」
「そうね…依存である部分は否定しないわ…。でもね、私はちゃんと君の事を好きなのよ?」
「……」
「確かに貴方への好意が他の子と違って若干特殊なのは認めるわ…でもそれはいけない事なの?…私が貴方を好きな事には変わらないわ。」
「冬柳さんは僕に幻想を抱いてるんじゃないかってたまに思うよ…だって僕は頭の出来も学力もついでに顔面も並以下だしね?」
「前も言ったけど私にとってそんな表面的な価値は無いのと同じよ?でも幻想を抱いているって所は確かにそうなのかもね?」
「ならやっぱりいつかは僕に幻滅するんじゃない?」
「それは大丈夫だから安心して、私思い込みは強いと自負しているし、蛙化なんて私には無縁よ?」
蛙化現象。
たしか好きだった気持ちが何かの切っ掛けで一気に冷めて好きでは無くなってしまう現象だったかな?
好きな気持ちを絶対に失わない。
彼女はそう言っている。
何故そう断言できるのか?
彼女は朗らかに笑みを浮かべて言う。
「何故なら私にとって君は特別だからよ」
何がどうあって特別なのか…。
結局それは僕にはわからないのだ。




