第12話 1人は気楽だ
癇癪を起こして走り去った冬柳さんを追いかけて僕は彼女が走って行った方向に向かってがむしゃらに走っていた。
「くそ、どこ行った!?」
容姿端麗でスタイル抜群、成績もよく、オマケに運動神経も飛び抜けている彼女相手に引きこもりオタクの僕が叶うとしたら男だって言う性別差に頼る他無い。
しかしここでふと思う。
走って苦労して彼女を探して…仮に見つけたってそれでどうするんだ?
あのまま浮気を疑われてネチネチ有りもしない疑いを向けられ小言を言われるくらいならもうほっておくのも手なんじないか?
冬柳雫なんて超ビッグな人物と付き合うなんて貴重な体験が出来たんだ。
僕には余り有る貴重な経験だった。
ならもう良くないか?
そろそろ面倒だと思っていたところだ。
このまま別れても……。
「タクちゃん……」
「冬柳さん……」
人混みの中から彼女はぬっと現れた。
まるで最初から僕がここにいるのをわかってたみたいに。
僕が探しているのを遠巻きに見てたんだろうか?
「探してくれてたんだね……嬉しいな…」
「……」
「でもね……浮気は良くないんだよ…?」
「何度も言ってるだろ?浮気なんてしてないって…」
「でも…桜田さんと一緒にいたよね!?」
「はぁ…何度も同じ事いわせないでよ?」
「だって!!」
「じゃもう別れようか?」
「え……?」
「もう面倒くさい…浮気なんてしてないのに…何度も何度もして無い事をしたっしたって!!うんざりだ!!」
「ちょ……ちょっとまって?私をふるの……?私をふるって言う……の?………?」
「そうだよ……ふるよ?」
「………はぁ………はぁ……、はぁ…、…そんなの駄目!!そんなの駄目に決まってる!!駄目に決まってるでしょ!!?」
その場で自分の頭を掴んで崩れ落ちる冬柳さん
その姿は切羽詰まっている様に見える。
何をそこまで追い詰められているんだ?
僕なんて彼女からすればただの暇つぶしの遊びの様な物の筈なのに。
「君は私の彼氏……恋人なの…!だから駄目!別れるなんて駄目!!そんなの許さない!!」
「でも冬柳さんは俺が浮気したって信じて疑わないんだろ?だったらもう別れるしかないでしょ?」
「嫌だ嫌だ!!絶対に別れない!別れないっ!!!」
何故ここまで意固地になってるんだ…彼女は?
まさか本当に僕の事が好きなのか…?
いや、それは違う……。
彼女からは佐渡に対しての桜田さんみたいな純粋な好意を感じない。
見せかけの……男をたらそうとする意思しか感じない。
「…わかった!わかったわ!貴方は浮気なんてしてない!浮気なんてしてないわ!!信じる!信じて上げる!だからお願いします!別れるなんて言わないで!!」
「取り敢えず場所を変えようよ…ここは……人の目があり過ぎて……」
「え…?うん…分かった…」
気付けば周りから視線を集めている。
人目を引いて余り有る美少女の彼女が髪を振り乱す勢いで僕みたいな凡庸な男子に懇願している姿は悪目立ちする。
何なんだよあの男みたいな目を向けられるのも堪えるが、何より、どったの〜話聞こか?みたいなノリでチャラい男が冬柳さん目的でナンパにでも入って来たら気の立っている冬柳さんは何を口走るか読めたものでは無い。
なので僕達はそのまま人気の少ない路地に向かった。
「それで私っ!タクちゃんとは別れたくない!ううん!違う!別れない!別れたりしないから!」
「前から思ってたんだけどどうして君は僕みたいな凡庸な男にそこまで拘るの?僕は君にそこまで固執されるような事は何もして無いと思うけど…?」
「だからだよ…」
「え…?」
「君はね…私にとって特別なの!」
「特別…?」
「私はね…君も良く知ってる通りとてもモテるの…何もして無くても男は私に寄ってくる…昔からそう!…私が微笑みかければ直ぐに鼻の下伸ばして寄ってくる…どんな男もそう…例外なんて無かった…彼女がいようが関係ない…それが男って生き物だと私は思ってたの…。」
「……」
「でも君は違う、私が微笑みかけてもどんなにアプローチしても君は私に声なんてかけてこない…面倒くさそうにするだけ…私に媚びたり言い寄って来たりしなかったの…」
「そ…それは…冬柳さんが高嶺の花過ぎるからだよ…僕みたいなぱっとしない奴が冬柳さんに声なんてかけれる訳無いだろ?」
「それもあるかも知れないね…でももっと根本から君は私に興味がないの…私になんの興味も無い」
「そ…そんな事は無い…!」
可愛いと思ってるしおっぱいが大きいしエロいなって思ってるし…少なくともなんの興味も無いなんて事は無いつもりだけど…。
「それは表面的な所に惹かれてるだけでしょ?タクちゃんも男の子だからね…私の身体には多少なりとも興味があるとは思ってるでしょ?胸とか足とかよく見てるしね、でもどうしても手に入れたいって強い欲求がある訳じゃない、そうでしょ?じゃ無かったら私と別れようなんて普通思わないもん」
胸見てたのバレてたのか…
「私はね…そんな所に惹かれたの…君は他の男の子達と明らかに違う…私を特別視しないし私に興味を持たない!私に迫ってこないし私に執着しない!これがどれだけ凄い事かわかる?タクちゃんはね、私にとっての特別なのよ!」
「そんな事って……」
あり得るのか…?
彼女に限り、あり得るんだ。
普通の女子ならまず間違いなくあり得ない感性だ。
自分に対して無関心な興味を持たない人間に対して関心を…興味を持つ人なんて基本的にいない。
でも彼女は物心付いた頃から他者の興味の中心にいた。
話しかけられ、興味を向けられ、好意を向けられ、ありとあらゆる感情を向けられる。
それ故に自分に興味を示さない人間が新鮮でたまらないんだろう。
つまりは…そういう事
なんだ、それだけの事か…。
「つまり冬柳さんは俺が君に本気の好意を寄せれば飽きて捨てるって事?」
「え…?」
「だってそう言う事だろ?他人からの好意が冬柳さんにとって当たり前の物なら俺が君を本気で好きになったら君は俺に興味をうしなって捨てるって事になるだろ?そんな恋愛は破綻してるよ」
「違う!私は!………私は……」
言い返せない。
彼女自身わかっているんだ。
この恋愛ごっこが長続きしないと。
「もし、今後冬柳さんに本気で好きだって人が現れた時、僕は邪魔者になる、そんなのはごめんだ。」
「待って……まっ…」
「だから僕達はやっぱり別れるべきだ。」
「てよ…、そんなの……嫌だ……嫌だよぉ……」
僕はその場を後にした。
冬柳さんはずっと僕を呼んでいる。
でも振り向いたりはしない。
楽しい恋愛ごっこは今日で終わり。
クズと謗られるかも知れない。
でもそれも仕方の無いこと。
僕にはまだ恋愛なんて早かった。
なのにもかかわらず冬柳さんの恋人とか度し難かったんだ。
やはり1人の方が気安い。
そう改めておもった。




