66 300年ぶりの結婚式③
「可愛いー!!」
「待って、髪型をもう少し整えたいから。この辺りを巻いたほうが、ほら、可愛いでしょう? あとは髪飾りを・・・」
隣の部屋から魔法少女たちのはしゃぐ声が聞こえてきていた。
「・・・・・・・」
俺とカマエルは指令室でセレーヌ城と城下町を映しながら、異変が無いかを観察していた。
今はまだ結婚式に向けた準備をしている途中だ。
何も起こっていない。
『カイト、俺はこのままの服でいいの?』
「別に何でもいいだろ。魔神だしな」
『カイトも同じじゃん』
「俺は今、人間だ」
カマエルがソファーで横になりながら、声をかけてきた。
着なれないスーツを着ているからか、動きにくいな。
『お、いい感じの動きしてるね』
カマエルがセレーヌ城下町のひとつのモニターに近づいて指でなぞる。
「まぁ、そこそこ釣れそうでよかったよ」
『300年前と同じ、派手な結婚式になりそうだね』
「あれ? カマエルは300年前の結婚式にいたの?」
ファナが指令室に入って来るなり、カマエルに声をかけた。
『もちろん。七陣魔導団ゲヘナの魔神たちは俺が束ねてたからね』
得意げに言う。
『七陣魔導団ゲヘナの魔法少女がロンの槍を手に入れたこともあるよ。毎回負けてるわけじゃないんだ』
「え、その時、リリスは?」
「リリスが七陣魔導団ゲヘナから離れていた時だ」
ファナの質問に口を挟む。
『カイト、覚えてるの?』
「ロストグリモワールに書かれていたのを思い出しただけだ。俺の記憶には無い」
キーボードを表示して、モニターの映像を拡大する。
『ロストグリモワールねぇ・・・』
カマエルが伸びをした。
ロストグリモワールが三賢のメイリアの脳内が書かれている・・・ということは・・・・。
メイリアは石化していたが、これまでの魔法少女戦争の全てを見てきたんだな。
リリスはおそらく知らないだろう。
このまま知らないほうがいいかもな。
『魔法少女の結婚式はいつも荒れるねぇ』
「魔法少女って幸せになっちゃ駄目なのよ。きっと」
ファナがハーブティー入れながら言う。
「ほとんどの魔法少女は死んじゃうんだから」
「そう卑屈になるなよ」
椅子を回してファナのほうを見る。
「ファナだって楽しいことを見つければいいだろ?」
『そうだよ。俺は泉の女神エリンちゃん・・・いや、Vtuberえりえりを絶対に幸せにしてみせるから』
「あ、そ・・・」
ファナがそっけなく答えて、ソファーに座っていた。
美憂はセレーヌ城門の前にいた。
他の魔法少女と一緒に、城下町の住人の参列者にハーブティーを振舞っていた。
おそらく、戦闘になることは勘づいているだろう。
ジジジジ・・・
『こちら、空軍第4部隊賢者グリフトです。総員、配置につきました』
グリフトが緊張した面持ちで話す。
後ろで魔法少女たちが、武器を調整している姿が見えた。
「ありがとな。休息を取りつつ待機していてくれ」
『かしこまりました』
「カイト様、失礼します!」
ガルムが軍服を着て指令室に入って来る。
「似合ってるよ」
「ありがとうございます! 忙しいときに・・・僕らの結婚式を」
「まぁ、結婚式は少し荒れそうだ」
腕を組んで、ガルムの目を見る。
ガルムがちらっとモニターを見てから、頷いた。
「悪いな。普通の結婚式にはなりそうもない」
「僕は魔法少女と結婚するんです。覚悟はしておりました。永遠の愛を誓えることが幸せなんです。彼女を・・・ルーシィを守り抜きます」
拳を握り締めて、力強く言う。
「あ・・・僕が守り抜くなんて、何かおかしいですね。ルーシィは僕のために魔法少女になったので」
「どうゆうこと?」
「僕、昔から病気がちで、本当は死ぬはずだったんです。病院の先生からも死ぬと言われていて、でも、ルーシィが魔神に願ってくれたんです。叶える代わりに、彼女は魔法少女になりました」
「・・・・・・」
ファナが怪訝そうな顔をする。
「こんな何もできない僕を慕ってくれた。僕はこの命を使って、生涯彼女に尽くすと決めたんです」
「それは同情から?」
「ファナ」
「魔法少女になったのはルーシィの責任でもある。貴方は引くに引けなくなって、主になったんじゃない?」
瞼を重くして話していた。
『ファナって性格悪いねぇ。結婚式前の男にそんなこと言うなんて』
「カマエルには言われたくないんだけど」
『俺はこう見えて空気を読む男だよ』
横になって、肘をつきながら言う。
「あ、いえ、いいんです。確かに魔法少女になった彼女を見て、驚かなかったといえば嘘になりますし。空軍第1部隊が消滅して恐怖も感じました。正直、魔法少女戦争から逃げたいとも思いました」
ガルムが首を振った。
「でも、彼女を全力で支えていきたいとも思いました。魔法少女になったルーシィを・・・」
「新婦の用意が整いましたー!!」
ノアがハイテンションで指令室に入って来る。
「!!」
ガルムの顔に緊張が走った。
「ん? なんか話してた?」
「色々な。それより、準備が整ったのか?」
「うん。ルーシィ、きてきて!」
ノアが廊下に向かって声を張り上げる。
「・・・・・」
純白の服に身を包んだルーシィが入って来る。
ティナとフィオーレが長いベールの裾を持っていた。
「綺麗・・・」
ファナが思わず立ち上がって呟く。
カマエルが口笛を吹いた。
「ど・・・どうかな?」
ルーシィがガルムのほうを見上げて、自信なさそうに言う。
「綺麗だよ。世界で一番だ」
「あ、ありがとう」
純白のベールを被ったルーシィは、化粧をしてほんの少し大人びていた。
なぜか、遠い昔を想起させる。
「髪型は城下町の人がやってくれたの」
「はい。私、城下町で美容室を経営しています佐藤といいます。今後とも是非、御贔屓に」
40代くらいのベテラン風の女、佐藤さんが得意げに挨拶していた。
一部の城下町の者は結婚式準備に来てもらっている。
ティナたち6人の魔法少女に監視させながら、な。
フィオーレが「今のところ大丈夫」と手で合図を送って来た。
「私もいつかやってもらいたいな」
「そうそう。戦闘とか入っちゃうと髪がぼさぼさになっちゃうものね」
フィオーレが手櫛で髪を梳きながら言う。
「おいでおいで。魔法少女様なら大歓迎だよ」
「佐藤さん、ありがとうございます」
ルーシィが迷いのない声でお礼を言っていた。
佐藤さんがいいのよと言ってほほ笑む。
「じゃあ、式の準備は整ったな」
ルーシィとガルムのほうへ歩いていく。
「3人の司祭は止む負えなく離脱したから、俺と、こいつ、カマエルが誓いの証人となる」
『よろしくー』
カマエルがふわっと飛んで、隣に降りてきた。
『他の魔神は魔界にいて、色々あったから出てこれないんだよね。見守る神は俺だけなんだ。君らが契約した魔神くらいは呼ぼうとしたんだけど、ちょっと荒れててね・・・』
苦笑いしながら言う。
『おめでとう。ガルム、ルーシィ』
「ありがとうございます!」
2人が深々と頭を下げる。
「良い結婚式にしよう」
「はい・・・・」
ガルムと固い握手を交わした。
ルーシィは満面の笑みを浮かべていた。
「あー、ルーシィ泣かないでってば」
「だって・・・こんな嬉しいことが、私に訪れると思っていなかったから」
「まだ結婚式始まってないんだから・・・」
ノアがハンカチでルーシィの目元を押さえる。
「よかったね」
ノアが目を細めてほほ笑む。
「・・・・・・・」
ルーシィへの祝福と、ルーシィに憧れる魔法少女たちの気持ちが、痛いほど伝わってきた。
まだ、魔法少女戦争中だ。
いつ、自分が死ぬかもしれない恐怖がつきまとっていることに変わりはない。
「行きましょ」
「式が始まる時間ね。参列者も入って来ているみたい」
ティナが目頭を押さえて、声をかけた。
少し開いた窓のほうを見つめる。
音楽隊のバイオリンの音が聞こえてくると、窓から参列者が歩いてくるのが見えた。
ファナが属性変更の腕輪の魔法石を変更しながら、遠くを見つめていた。
深く息を吐く。
300年ぶりの結婚式が始まろうとしていた。




