64 300年ぶりの結婚式①
指令室は休憩場所のようになっていた。
6人の魔法少女と、ステラ、ラインハルトたちが思い思いに過ごしている。
指令室のモニターにはセレーヌ城の内部を映していたが、特に変わったところはない。
魔法少女や戦士たちが魔法の練習をしたり、料理をしたり、本を読んだり、つかの間の休息を楽しんでいた。
「カイトー、花音は?」
「出ていったって・・・・この会話何度続けてるんだよ」
白い毛をモフモフさせながら、ステラがルナリアーナの膝でゴロゴロしている。
「だって・・・何も言わないで行くなんて。母はそんなことしない・・・たぶん」
「起こそうとしても、いびきかいて寝てただろうが」
「フン、寝ていたときのことなど知らん・・・」
ルナリアーナがステラの毛を撫でる。
「ステラは配信者が好きなの?」
「そう。母と同じ匂いがするから」
「そっか・・・・」
ルナリアーナが目を細めて、寂しそうな表情を浮かべる。
寝ながら、読みかけの本のページをめくっていた。
『RAID6』になって、様々な国の本が読めるようになった。
図書室も一回り大きくなり、魔導書の棚も増えていた。
「魔法少女も現れなくなったし、暇ね」
フィオーレが自分の槍の魔法石を変えながら言う。
「あぁ・・・美味しい血が恋しい。『星空の魔女』の魔法少女の血をもっと、もっと吸っておけばよかった」
ラインハルトが涎を拭いながら、椅子を回す。
「カイト、魔法少女の血が欲しいと思いませんか?」
「全く思わないな」
「ねぇ、ヴァンパイアって人間より寿命長いんでしょ? どれくらい生きてるの?」
「んー考えたこともありませんね」
アクアがソファーで胡坐をかいて、ミートパイを食べていた。
ティナに行儀が悪いと怒られている。
「アクア、料理上手くなった? すごく美味しい! お店のよりずっと美味しいよ!」
「でしょでしょ。僕、元々こうゆうのセンスあるんだよね。ノア、こっちも食べてみて」
パウンドケーキの載った皿を指していた。
緩い雰囲気は流れていたが、前のような殺伐とした雰囲気ではない。
しいて言うならノアが無理していることくらいか。
トントン
「おにい、あ、みんな」
美憂がドアを開ける。
「どうした?」
「セレーヌ城を見て」
ファナが美憂の横から口を出す。
言う通り、窓からセレーヌ城を見下ろした。
ノアとアクアが走って来て、窓に張り付く。
「セレーヌ城下町に人間? アレ、どう見ても人が商売してるよね?」
城下町は武器屋、宿屋などの開店準備に追われているように見えた。
「プレイヤー?」
「いや、違うな」
腕を組む。
「『RAID6』で創り出されたキャラだ。プレイヤーを迎え入れるために作られたんだろう」
「あのキャラって七陣魔導団ゲヘナの王がカイトだってわかってるの?」
「さぁな」
ポロの話では、受け入れ態勢が整えばプレイヤーが入って来る。
もうすぐ、ということだろう。
あいつらが、俺たちの敵なのか味方なのか、現段階では全然わからないな。
「ちょっと、外に偵察に行ってくるよ」
「私も行く!」
美憂が跳ねるようにして、ついてきた。
「おにいとゲームの中回るの久しぶりだもんね」
「遊びに行くんじゃないって」
「カイト、気をつけてね。貴方は七陣魔導団ゲヘナの王なんだから」
「わかってるよ」
ファナがぴしゃりと言う。
「じゃあ、私たちも行こうよ! 外見てみたいし!」
「うんうん」
「僕ら魔法少女の服じゃないほうがいいよね?」
「魔法少女の衣裳部屋みたいなところ見つけちゃったの。可愛い服がたくさんあるから、そこで城下町に行く決めましょ」
「なんか、お出かけって久しぶりだ。僕はスカートは嫌だな、飽きた」
ティナとフィオーレとアクアが楽しそうに話す。
「いや・・・」
こんな大所帯でいったら偵察にならないだろうが。
頭を搔いて、息をつく。
「ファナも行こうよ」
「ごめん・・・誘ってくれるのは嬉しいけど、7人の魔法少女が出ていったら目立っちゃう。カイトが行きたいなら、美憂と2人で行くのが一番だと思う」
リルムがファナを誘っていたがやんわりと断る。
「そ、そうよね・・・今、魔法少女戦争中だもんね」
ティナがあからさまに落ち込んでいた。
「悪い。危険性がないってわかったら、みんなで周ろう」
トントン
「ん?」
ドアを叩く音がした。
「カイト様。今、よろしいでしょうか?」
「あぁ」
「失礼します!」
陸軍第2部隊にいた剣士の青年と魔法少女が緊張した面持ちで部屋に入って来た。
「えっと・・・ルーシィと・・・・・」
「あはは、僕はモブなんで名前覚えてないと思います。ルーシィの主、ガルムっていいます。ルーシィは僕の幼馴染なんです」
ガルムがへらっと笑って、頭に手をやった。
「どうした?」
「僕たち結婚したいんです!」
「え・・・・」
「えぇっ!?」
俺とステラ以外のここに居る者全員が声を張り上げた。
耳がキンとして、片耳を塞ぐ。
ファナはため息をついて、両耳を塞いでいた。
「けけけけ、け、結婚!?」
「ティナ、落ち着いて、けけけ、結婚ってこともあるじゃない。年齢的に」
フィオーレの声が裏返る。
「結婚ってことはもうそうゆうことも、あんなことも・・・済ってこと?」
「ルナリアーナ、そこは詮索しちゃ駄目だってば!」
「結婚・・・男女が結ばれる・・・」
「ルーシィはもう16歳、結婚できる歳・・・結婚は早いほうがいいって、世間では言われてる。人生設計的に」
「子供出来ちゃったらどうするの!? 魔法少女戦争中に子供ができたら、魔法少女ってどうなるの?」
「我は魔法少女の母の子供だもん」
ステラが耳をピンと立てる。
「どうしてお前らが慌てるんだよ」
「だって・・・」
ティナが赤くなった頬に手を当てる。
なぜか、6人の魔法少女が混乱していた。
美憂は呆然としている。
「え、いえいえ、そんな、私たちそうゆうことはしていないです・・・」
ルーシィが顔を真っ赤にして手を振る。
「僕たち、戦闘の中で、永遠の愛を誓ったんです。もし、『RAID6』まで無事に来れたら、結婚しようって」
「私は魔法少女で・・・もう普通の女の子とは違う体です」
ほほ笑みながら胸に手を当てる。
「それでも、愛してくれるというなら、彼と結婚したいんです。か、形だけでいいんです。魔法少女になると、契約した神の前で、永遠を誓いたいんです。この身体が尽きるまで、彼を愛するって」
「・・・・・」
「・・・・・」
沈黙が降り落ちた。
愛・・・か。
「いいよ。盛大に祝おう」
2人の前まで歩いていく。
「式を挙げよう。セレーヌ城には、七陣魔導団ゲヘナの全員が集まれるほどの大きな聖堂もある」
「カイト!?」
「おにい!?」
「なんだよ。美憂まで・・・俺がそうゆう話に理解が無いとでも思ってたのか?」
「だって・・・」
「い・・・意外で・・・・」
美憂が目を丸くしてこちらを見ていた。
「プレイヤーが来る前のほうがいいな。急だけど、明日にしよう。ティナ、陸軍、空軍、少数精鋭部隊、全員に通知してくれ。明日はルーシィとガルムの結婚式とする、と」
「うん」
「手伝うよ。七陣魔導団ゲヘナで結婚式が行われるなんて300年ぶりだね。一応こう見えて、段取りは慣れてるんだ」
ラインハルトがすっと立ち上がって、マントを直した。
「僕、モブだし。そんな盛大な・・・」
「本当に、いいのでしょうか? 『RAID6』になって忙しいのに・・・」
ガルムとルーシィが信じられないといった表情で言う。
「めでたい話だろ。大いに盛り上がろう」
「そう! 衣裳部屋にドレスがあったかも。探しに行きましょう!」
「あたし、意外と化粧とか得意なんだよ。ミルムが得意だったからね、お色直しはあたしに任せて」
「は・・・はい」
リルムがフィオーレとルーシィを連れて部屋を出る。
「待って、私も衣装見たい!」
「ふむ、では我も・・」
「じゃ、じゃあ、私も」
ルナリアーナがステラをくっつけたまま走っていく。
ノアが転びそうになりながらついていった。
「ルーシィ・・・・」
「ガルムはこっちだ。まず、軍の者は軍服を着るのがしきたり。女性をエスコートしなければいけない。当日スマートに式を進めるためにも、教えてやろう」
ラインハルトがガルムの腕を引っ張って、反対側の部屋から出ていった。
部屋が急に静かになる。
ティナが賢者たちをモニターから呼び出していた。
「カイト、自分と重ねてるの?」
ファナがすれ違い様に、小声で聞いてくる。
「・・・そうかもな」
「じゃあ、いい式にしないとね」
軽くほほ笑んで、ティナたちの中に入っていった。
「はぇー・・・結婚式・・・」
「美憂、俺たちは城下町に行くぞ」
「あ、そうだった。いくいく」
呆気にとられた美憂を連れて、廊下に出ていく。
ティナとファナが各軍の賢者たちに結婚式について説明すると、魔法少女たちがぱっと明るくなり、騒がしくなる声が聞こえていた。




