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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第五章 『RAID6』へようこそ

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63 ロストグリモワールは・・・

 子供の頃、住んでいた家にいた。

 天井が妙に低く感じる。


 なるほど。俺は幼い頃の夢の中にいるようだ。

 柱に、美憂と身長を測った線がある。


 懐かしい光景だ。


 狭い部屋の隅に、父親・・・如月タツキの机があった。


 机の横の棚には、ロストグリモワールが置かれていた。

 こぶしをぐっと握り締めて、机のほうへ歩いていく。


『カイト』

『!?』

 如月タツキの声が聞こえて振り返った。


『くくくく、俺の夢に入り込んだか。さすがというべきか』

 眼鏡をかけ直して、笑っている。


『美憂も魔法少女になったんだってな。やはり運命からは逃れられなかったか』

『これが夢か現実か知らないが、リリスの主になったのはお前か!?』

『そうだね』

 あっさりと言う。

 夢だとは思えない、生々しさがあった。 


 如月タツキが横をすたすた歩いて、ロストグリモワールに触れる。


『ロストグリモワール・・・全てが書いてあり、最強の魔術書であり、三賢の1人の脳内を記載する書物だ』

『は?』

『お前には読めただろう? 確か名前はメイリアだったか・・・?』


『!?』


『ふむ、よく書かれているものだ。でも、さすがに電子世界の詳細は書いてないか』

 本をぱらぱらと捲っていた。


 石化したメイリアの頭の中が、ロストグリモワールに・・・。

 じゃあ、どうして俺が読んですぐに燃えた? 


『如月タツキ、お前の目的はなんだ?』

『カイト、我々は『黄金の薔薇団』の者として、夜明けを目指す。魔法を自由に使える世の中になることを、な』

『魔法って・・・!!』

 こちらを見て、にやりとほほ笑む。


『『RAID6』が我々を待っている。カイト、またゲームで会おう。今度はリアルな姿を見せてくれ』

 部屋のカーテンが膨らんで、如月タツキの顔が見えなくなった。


『待て! リリスを、リリスは本当に・・・』 

 動こうとしたが、金縛りにあったように動けなかった。

 足が上がらない。


 如月タツキの名前を呼ぼうとしたが、声にならなかった。






「!!」

 体を起こす。

 頭を押さえた。夢だったが、夢ではない。


 俺は確かに、如月タツキと会っていた。

 あいつの声が、まだ耳に残っている。


「カイト様、どうされたのですか?」

「夢を・・・・って」

 ルナリアーナが下着の見えるような服を着て、ベッドの中に入ってきていた。


「え・・・・?」

 一瞬、思考が停止した。


 ルナリアーナが首を傾げる。

 胸の谷間がくっきり見えていた。


「いや、その恰好どうしたんだ? ・・・つか、なんでここに・・・」

「これは私の主が、配信用に選んだ服なんです・・・似合います?」

「似合うも何も・・・とりあえず、その辺の服着ろよ」


「カイト様のお好みではありませんか?」

 ルナリアーナが胸のリボンをくるくる回しながら言う。


「好みも何も・・・ルナリアーナの主、大丈夫なのか? 来栖まりなとかいったな・・・」

「お金を稼ぐのに一生懸命ですがいい人ですよ」

 にこっと笑う。


「いい人っていうのか・・・?」

「物質に依存することは悪いことじゃないと思うんです。私はたぶん、そうゆう契約のほうがあってるんです」

「・・・そうか」

 ルナリアーナを電子世界のキャラとしか見ていないんだろうな。

 腹は立つが・・・。


「配信もやっとランキングに載るようになったんです。これはファンクラブ会員の2桁台のみに向けたシークレット配信のみに着る服で・・・見えそうで見えない、えちえちな服パート2です」

「配信ランキング・・・」

 魔法少女が独占していた配信ランキングを思い浮かべていた。


 七陣魔導団ゲヘナで唯一配信者として活動しているのは、ルナリアーナだけだったな。

 戦闘の様子は配信していないが、たまに別室で会話しているような声が聞こえていた。



 キィッ・・・


「カイト、シロナとAIのポロと話してたんだけど・・・・って、へ?」


「!?」


『・・・・・・・』

「・・・・・・・・」

 ファナとシロナが部屋に入って来る。

 俺とルナリアーナを見て固まっていた。


「なななななななな、な、こんな時に、何を・・・!?」

「何もしてないって!」


『これはシロかクロかで言えばクロです。ベッドでほぼ裸の女の子の隣に、男がいる状況・・・つまり、男女の交わりの後・・・』


「後!?」

 ルナリアーナとファナの声が被る。


「か、カイト様との・・・」

 ルナリアーナが布団で体を隠す。


「違うって! 何もしてないだろ、誤解だ!」

「ど、どう見ても、どう見ても、そうじゃない! は、はしたない! ここは他の魔法少女も出入りする場所なのに! 美憂だって来るのよ! か、鍵もかかってなかったし」

 ファナが取り乱して、顔を沸騰させていた。 


「私のお兄ちゃんは妹の前で絶対にそんなことしなかった!」

「なんで今、ファナの兄が出てくるんだよ」

「だ、だって・・・」

 ファナの声が裏返る。


『カイト様、交わりをされたのですか?』

「んなわけないだろ。寝て起きたら、ルナリアーナがいたんだ」

『下着姿で・・・・これはクロだと推測されます。事後ですね』

 シロナがルナリアーナをじっと見つめていた。


『男女が一晩過ごすというのは、そうゆうことだと学習しております』

「シロナ」

 シロナと視線を合わせる。


「普通の世界と電子世界を一緒にするな。別物だと思って学習しろ」

『はっ・・・・・電子世界・・・電子世界は別の推測が必要・・・。カイト様のおっしゃる通り、データが無いので、先ほどの予測は取り消しさせていただきます。電子世界としての学習能力を高めなければいけませんね』


「・・・・・」

 シロナはかなり強引に丸め込むことができた。

 問題は熱暴走しているファナと、変に恥ずかしがり始めたルナリアーナだ。


「ったく・・・・」

 頭を搔いて、順を追って説明していく。




「ふぅ・・・ま、そんなことだろうと思ったけど」

 ファナがルナリアーナが否定したことで、やっと納得していた。

 椅子に座って、髪を耳にかける。


「すみません。お騒がせしました」

 ルナリアーナはファナから貰ったパーカーを着て、頭を下げる。


「カイトにそんな度胸無いと思うし」

「ハイハイ、何とでも言ってくれ」

 ひらひら手を振った。


「でも、せっかくの可愛い服なので、カイト様にも見てもらいたいと思いまして。ファンのみんなには人気だったんですよ」

「ルナリアーナがいいならいいけど、私はその主嫌いよ。女の子にこんな服を着せるなんて」

 ファナが顔をしかめながら言う。


「ファナとシロナは何か用があってここに来たんじゃないのか?」

 カーテンを開けて、日差しを入れた。

 どこまでも澄んだ青空が広がっていた。


『ポロ』


 ジジジジジ


 シロナが呼びかけると手のひらサイズのアンドロイド、ポロが現れる。


「ポロ・・・」

 思わず、身構えた。


『AIのポロです。ご用件は何でしょうか?』

『『RAID6』の状況を説明して』


『承知しました』

 ポロがモニターのようなものを出した。


『現在移行作業、魔法少女のエントリーの受付も完了しております。『RAID6』は『RAID5』の地図を引き継ぎながら、プレイヤーを受け入れる準備を整えております』

 俺たちが創った地図と、ほとんど似たようなものを映していた。


『あと1日で完了する見込みです。我々が各地を確認し、バグが無いことを確認できましたら、プレイヤーがログイン可能となります』


「プレイヤーを受け入れる準備って、何をするの?」

 ファナが前のめりになって聞いていた。


『具体的には、セーブポイントの用意、街に住む人間たち、ギルドの創設、ダンジョン等ですね。詳細の情報はプレイヤーとの交流により得られるようになります』


「なんで、いちいち魔法少女戦争にプレイヤーが関わってくるんだ?」

 ポロが冷たい視線をこちらに向ける。


『全てはロンの槍の意志となります。これ以上は機密事項なので話せません。では、失礼します』


 ジジッ


 ポロとモニターが消えていった。

 シロナがポロが表示していたモニターのあった場所を指でなぞる。


「カイト、ポロに嫌われるようなことしたの?」

「してないよ。そもそも魔法少女のためのAIアンドロイドなんだろ?」

「そっか」

 ファナが椅子に座り直す。


『ポロは私と同じ人工知能で動いています』

 シロナが呟いた。


『でも、何かに縛られているようで可哀そうに思えます。ポロにだって意志があるはずなのに』

「・・・そうね」

 ファナがシロナに寄り添うように声をかけていた。


「・・・・・・」

 ルナリアーナが何か言おうとして、口をつぐむ。

 モニターを出して、何かをメモしていた。


 夢見の魔法少女ルピスの言った通り、ダンジョンが現れるようだ。


 プレイヤーよりも先に、リリスを見つけなければいけない。


 絶対に、な。

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