63 ロストグリモワールは・・・
子供の頃、住んでいた家にいた。
天井が妙に低く感じる。
なるほど。俺は幼い頃の夢の中にいるようだ。
柱に、美憂と身長を測った線がある。
懐かしい光景だ。
狭い部屋の隅に、父親・・・如月タツキの机があった。
机の横の棚には、ロストグリモワールが置かれていた。
こぶしをぐっと握り締めて、机のほうへ歩いていく。
『カイト』
『!?』
如月タツキの声が聞こえて振り返った。
『くくくく、俺の夢に入り込んだか。さすがというべきか』
眼鏡をかけ直して、笑っている。
『美憂も魔法少女になったんだってな。やはり運命からは逃れられなかったか』
『これが夢か現実か知らないが、リリスの主になったのはお前か!?』
『そうだね』
あっさりと言う。
夢だとは思えない、生々しさがあった。
如月タツキが横をすたすた歩いて、ロストグリモワールに触れる。
『ロストグリモワール・・・全てが書いてあり、最強の魔術書であり、三賢の1人の脳内を記載する書物だ』
『は?』
『お前には読めただろう? 確か名前はメイリアだったか・・・?』
『!?』
『ふむ、よく書かれているものだ。でも、さすがに電子世界の詳細は書いてないか』
本をぱらぱらと捲っていた。
石化したメイリアの頭の中が、ロストグリモワールに・・・。
じゃあ、どうして俺が読んですぐに燃えた?
『如月タツキ、お前の目的はなんだ?』
『カイト、我々は『黄金の薔薇団』の者として、夜明けを目指す。魔法を自由に使える世の中になることを、な』
『魔法って・・・!!』
こちらを見て、にやりとほほ笑む。
『『RAID6』が我々を待っている。カイト、またゲームで会おう。今度はリアルな姿を見せてくれ』
部屋のカーテンが膨らんで、如月タツキの顔が見えなくなった。
『待て! リリスを、リリスは本当に・・・』
動こうとしたが、金縛りにあったように動けなかった。
足が上がらない。
如月タツキの名前を呼ぼうとしたが、声にならなかった。
「!!」
体を起こす。
頭を押さえた。夢だったが、夢ではない。
俺は確かに、如月タツキと会っていた。
あいつの声が、まだ耳に残っている。
「カイト様、どうされたのですか?」
「夢を・・・・って」
ルナリアーナが下着の見えるような服を着て、ベッドの中に入ってきていた。
「え・・・・?」
一瞬、思考が停止した。
ルナリアーナが首を傾げる。
胸の谷間がくっきり見えていた。
「いや、その恰好どうしたんだ? ・・・つか、なんでここに・・・」
「これは私の主が、配信用に選んだ服なんです・・・似合います?」
「似合うも何も・・・とりあえず、その辺の服着ろよ」
「カイト様のお好みではありませんか?」
ルナリアーナが胸のリボンをくるくる回しながら言う。
「好みも何も・・・ルナリアーナの主、大丈夫なのか? 来栖まりなとかいったな・・・」
「お金を稼ぐのに一生懸命ですがいい人ですよ」
にこっと笑う。
「いい人っていうのか・・・?」
「物質に依存することは悪いことじゃないと思うんです。私はたぶん、そうゆう契約のほうがあってるんです」
「・・・そうか」
ルナリアーナを電子世界のキャラとしか見ていないんだろうな。
腹は立つが・・・。
「配信もやっとランキングに載るようになったんです。これはファンクラブ会員の2桁台のみに向けたシークレット配信のみに着る服で・・・見えそうで見えない、えちえちな服パート2です」
「配信ランキング・・・」
魔法少女が独占していた配信ランキングを思い浮かべていた。
七陣魔導団ゲヘナで唯一配信者として活動しているのは、ルナリアーナだけだったな。
戦闘の様子は配信していないが、たまに別室で会話しているような声が聞こえていた。
キィッ・・・
「カイト、シロナとAIのポロと話してたんだけど・・・・って、へ?」
「!?」
『・・・・・・・』
「・・・・・・・・」
ファナとシロナが部屋に入って来る。
俺とルナリアーナを見て固まっていた。
「なななななななな、な、こんな時に、何を・・・!?」
「何もしてないって!」
『これはシロかクロかで言えばクロです。ベッドでほぼ裸の女の子の隣に、男がいる状況・・・つまり、男女の交わりの後・・・』
「後!?」
ルナリアーナとファナの声が被る。
「か、カイト様との・・・」
ルナリアーナが布団で体を隠す。
「違うって! 何もしてないだろ、誤解だ!」
「ど、どう見ても、どう見ても、そうじゃない! は、はしたない! ここは他の魔法少女も出入りする場所なのに! 美憂だって来るのよ! か、鍵もかかってなかったし」
ファナが取り乱して、顔を沸騰させていた。
「私のお兄ちゃんは妹の前で絶対にそんなことしなかった!」
「なんで今、ファナの兄が出てくるんだよ」
「だ、だって・・・」
ファナの声が裏返る。
『カイト様、交わりをされたのですか?』
「んなわけないだろ。寝て起きたら、ルナリアーナがいたんだ」
『下着姿で・・・・これはクロだと推測されます。事後ですね』
シロナがルナリアーナをじっと見つめていた。
『男女が一晩過ごすというのは、そうゆうことだと学習しております』
「シロナ」
シロナと視線を合わせる。
「普通の世界と電子世界を一緒にするな。別物だと思って学習しろ」
『はっ・・・・・電子世界・・・電子世界は別の推測が必要・・・。カイト様のおっしゃる通り、データが無いので、先ほどの予測は取り消しさせていただきます。電子世界としての学習能力を高めなければいけませんね』
「・・・・・」
シロナはかなり強引に丸め込むことができた。
問題は熱暴走しているファナと、変に恥ずかしがり始めたルナリアーナだ。
「ったく・・・・」
頭を搔いて、順を追って説明していく。
「ふぅ・・・ま、そんなことだろうと思ったけど」
ファナがルナリアーナが否定したことで、やっと納得していた。
椅子に座って、髪を耳にかける。
「すみません。お騒がせしました」
ルナリアーナはファナから貰ったパーカーを着て、頭を下げる。
「カイトにそんな度胸無いと思うし」
「ハイハイ、何とでも言ってくれ」
ひらひら手を振った。
「でも、せっかくの可愛い服なので、カイト様にも見てもらいたいと思いまして。ファンのみんなには人気だったんですよ」
「ルナリアーナがいいならいいけど、私はその主嫌いよ。女の子にこんな服を着せるなんて」
ファナが顔をしかめながら言う。
「ファナとシロナは何か用があってここに来たんじゃないのか?」
カーテンを開けて、日差しを入れた。
どこまでも澄んだ青空が広がっていた。
『ポロ』
ジジジジジ
シロナが呼びかけると手のひらサイズのアンドロイド、ポロが現れる。
「ポロ・・・」
思わず、身構えた。
『AIのポロです。ご用件は何でしょうか?』
『『RAID6』の状況を説明して』
『承知しました』
ポロがモニターのようなものを出した。
『現在移行作業、魔法少女のエントリーの受付も完了しております。『RAID6』は『RAID5』の地図を引き継ぎながら、プレイヤーを受け入れる準備を整えております』
俺たちが創った地図と、ほとんど似たようなものを映していた。
『あと1日で完了する見込みです。我々が各地を確認し、バグが無いことを確認できましたら、プレイヤーがログイン可能となります』
「プレイヤーを受け入れる準備って、何をするの?」
ファナが前のめりになって聞いていた。
『具体的には、セーブポイントの用意、街に住む人間たち、ギルドの創設、ダンジョン等ですね。詳細の情報はプレイヤーとの交流により得られるようになります』
「なんで、いちいち魔法少女戦争にプレイヤーが関わってくるんだ?」
ポロが冷たい視線をこちらに向ける。
『全てはロンの槍の意志となります。これ以上は機密事項なので話せません。では、失礼します』
ジジッ
ポロとモニターが消えていった。
シロナがポロが表示していたモニターのあった場所を指でなぞる。
「カイト、ポロに嫌われるようなことしたの?」
「してないよ。そもそも魔法少女のためのAIアンドロイドなんだろ?」
「そっか」
ファナが椅子に座り直す。
『ポロは私と同じ人工知能で動いています』
シロナが呟いた。
『でも、何かに縛られているようで可哀そうに思えます。ポロにだって意志があるはずなのに』
「・・・そうね」
ファナがシロナに寄り添うように声をかけていた。
「・・・・・・」
ルナリアーナが何か言おうとして、口をつぐむ。
モニターを出して、何かをメモしていた。
夢見の魔法少女ルピスの言った通り、ダンジョンが現れるようだ。
プレイヤーよりも先に、リリスを見つけなければいけない。
絶対に、な。




