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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第四章 『RAID5』から

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62 旅立ちと約束

「カイト、色々とありがとう。短い間だたけど、楽しかった」

 朝日が昇ろうとしていた。

 花音とナナキをセレーヌ城の前で見送りに来ていた。


「花音、本当に一人で行くのか?」

「うん。ナナキもいるし、応援してくれるファンもいる。カイトと美憂ちゃんと一緒に勝ち進んでいきたい気持ちはあるけど・・・」


「主と約束したからか」

「・・・うん」

 花音が寂しそうに頷く。


 花音の主は、中学のときからの親友なのだという。

 多くは話さなかったが、写真は見せてもらった。

 どこにでもいる普通の子だったが、両親がいないため苦労したのだという。


 彼女と一緒に困っている人たちを救いたいのだと話していた。


 マリアだった頃から変わらない。

 花音はいつも誰かのために、自分を犠牲にしようとする。


「ナナキ、花音を頼むよ」

「あぁ、何かあったら連絡する」


 ナナキは花音には自分の真名を明かさずに、今まで通り立ち振る舞うと話していた。


 互いに"リリスの前で死ぬ"という呪いは必ず避けるつもりだ。

 しばらく、敵同士になることは無いだろう。


「カイト・・・・」

 花音が俺の手を両手で包む。


「どうした?」

「・・・もし、リリスと会えなくても、私が魔法少女戦争に勝者になったら、絶対にリリスと会わせてあげるからね。魔法少女も元の女の子に戻れるようにするから」


「・・・・・・・・」

 花音が祈るように話していた。

 マリアと重なって見える。


 『ロンの槍』の主となる者次第で、世界は変わる。

 本当に花音の思う通りになるとは限らない。


「花音」

「はっ・・・これは、えっと、その・・・一緒に頑張ろうって意味で、深い意味はないから」

 花音が耳を赤くして手を離した。


「花音も何かあったら気軽に連絡しろよ」

「うん。接続確認したし、これからは連絡取れるもんね。うん、大丈夫。チャットもできる」

 モニターを出して、もう一度確認していた。


「カイトもたまには私の配信見てよ! コメントしてくれたらちゃんと読み上げるから」

「読み上げるなって。目立つだろうが」

「いいじゃん。カイトも私推しになってよ」

 花音が冗談っぽく笑いながら、モニターを消す。


「リスナーがいなくなったら、推してやるよ。といっても、推しとかよくわからないんだけどな」

 腕を組んだ。


「ふふ、カイトは相変わらずだなぁ。もう行かなきゃ。カイトも頑張ってね」

「あぁ」


 花音が両手を振って、石に躓いて転びそうになりながら、セレーヌ城の敷地から出ていった。

 ナナキがちらっとこちらを見てから、軽く飛んでいった。





「お前ら、気配でわかってるぞ」

 息をついて、振り返る。


「!?」

「きゃっ、お、押さないで」

「だって、わー」


 ドサッ

 

 木の陰に隠れていた、ティナ、ルナリアーナ、アクア、フィオーレが転ぶようにして現れた。

 頭を搔く。


「なんでこそこそ隠れてるんだよ」

「カ、カイトが変な気起こさないかって心配して見に来ただけだから!」


「変な気ってなんだよ・・・」


「そ・・・それは色々と・・・幼馴染ってくっつくのがデフォだし。べ、別に、カイトが誰と付き合おうと、私には関係ないけど・・・」

「?」

 ティナが視線を逸らして顔を赤くする。


「私はカイト様がもし、もし、あの子と恋人になってしまったらどうしようかと不安で不安で、つい・・・」

「花音はそんなんじゃないって。古くからの友人だ」


「そ・・・そうですか・・・」

 ルナリアーナが俺の顔を見て、ほんの少し、安堵したような表情を見せた。


「怪しい」

 アクアが疑惑の目を向けてくる。


「何が?」

「美憂を呼ばなくてよかったの? 仲いいんでしょ?」

「見送り2人キリで済ませるのも裏がありそう・・・・。あえて別行動するならますます怪しい。本当は付き合ってるとか?」


「そうそう、好きだから一緒にいることができないとか?」


「は?」


「僕たちがいたのに気づいたから、恋人同士がするようなことしなかったとかでしょ?」

 フィオーレとアクアがどんどん詰め寄って来る。


「恋人同士!?」

 ティナとルナリアーナが同時に声を上げる。


「待てって、妄想が行き過ぎだ」


 なんでこいつらは、恋愛事情を探ろうとしてくるんだよ。


「美憂は昨日の夜話したからいいんだって。何を話したかは知らないけどな。とにかく、花音とは何もない。お前らが想像するような関係も皆無だ」


 セレーヌ城のほうへ歩きながら言う。


「あ・・・・」

 ティナたちが慌ててついてきた。


「ノアとリルムは一緒じゃないのか?」

「リルムはレベッカとシロナと指令室にいるんだ。AIのポロと会話して遊んでるよ」

 アクアが隣に並ぶ。


「ポロって・・・大丈夫なのか?」

「ポロはシロナが魔神と契約してないから、シロナが魔法少女としてエントリー可能か確認に来たんだよ。でも、シロナの開発者がカイトだから問題ないみたい」


「・・・・・・」

 意外とアバウトだな。


 AIで生成したアンドロイドには甘いという意味だろうか。


 移行が失敗した魔法少女もいるというのにな。


「ノアは・・・そういえば朝から見てないわね?」

 フィオーレが口に手を当てる。 


「ノアなら聖堂に行くところを見たわ」

「そうか・・・・・」

 ノアが単独行動するなんて珍しいな。


「今日は陸軍第1部隊の魔法少女たちが朝食作ってくれるんだって。ノアも呼びに行こうよ」

「あ、いや・・・俺が呼びに行くよ。ちょうど聖堂に用事があるから」

 手を上げる。


「カイト様! 私も・・・・」

「ルナリアーナは朝食の用意手伝うって言ってたでしょ?」


「うぅ・・・なかなかカイト様と二人きりになれない・・・」

 ルナリアーナが困ったような表情をして、手を握り締めていた。


「カイト、本当にあの幼馴染の子と、何もないのよね?」

 ティナが念を押すように聞いてくる。


「何度も言っただろ? 何もないって。こっちの情報が不都合に漏れることもない」

「じゃ・・・じゃあ、いいけど・・・」

 ツンとして前を歩いていった。


 花音ほどの魔力を持って、七陣魔導団ゲヘナの拠点に来ることは、確かに危険を感じて当然だ。


 こいつらが警戒するのも仕方ないか。




 バタン


 聖堂の扉を開く。

 祭壇には七陣魔導団ゲヘナの、七芒星の魔法陣が蒼く光っていた。


「ノア、こんなところで何してるんだ?」

「・・・あ、カイト」

 ノアがゆっくりとこちらを振り向く。


「ノアが単独行動するなんて珍しいな。いつもフィオーレたちにくっついて歩いてるのに」

「私だって、一人になりたい時くらいあるよ」


 前の椅子の木の目を弄りながら、自信なさそうにしていた。


「陸軍の魔法少女たちが朝食を用意してくれてる。早くしないと無くなるぞ」


「・・・・私、本当にここに居ていいのかな?」

 ノアがぼうっと魔法陣のほうを見つめる。


「まだ、移行のときのことを気にしてるのか」


「・・・・・お父さんとお母さんと会ったの久しぶりだった。あれから寝てると夢に出てきちゃう」

「ふうん」

 他の席の椅子の背をなぞるようにしてのノアのほうへ歩いていく。

 席数も『RAID5』の頃から広がったような気がした。


「やっぱり、少し怖かった。私、お父さんとお母さんに逆らえない。体がそうゆうふうにできてるんだよ。だからね・・・」


「・・・・・・・・・」

 

「七陣魔導団ゲヘナを抜けようとは思わないよ。カイトがいていいって言ってくれたから。でも、カイト、約束して。もし、私がみんなに不利益を起こすようなことになったら・・・」

 力なくほほ笑んだ。


「私を殺してください」


「・・・わかってる」

 ノアの頭を撫でる。


「ノアが制御できなくなったら、俺が迷わず殺す。これで、安心しただろ? もう、追い詰めるなよ、ティナたちが心配するだろ?」


「うん・・・・・」

 両手で顔を覆って、ぽろぽろと涙をこぼす。


「研究所にいたときは、こんな幸せな未来が待ってると思わなかった。友達ができて、くだらないことで笑ったり、怒ったり、泣いたりできるなんて・・・魔法少女だけど、幸せで・・・」


「よかったな、居場所があって」

「・・・・うん・・・でも、涙が止まってから行かなきゃ」

「そうだな」

 ノアの隣に座った。


 聖堂に光が差し込み、七芒星の魔法陣が七色に輝いていた。

 耳を澄ますと、魔神たちのざわめきが聞こえてくる。


 ふと、魔法陣の中から、カマエルの叱るような声がした気がした。

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