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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第四章 『RAID5』から

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60 ナナキの真名と三賢者の・・・

 花音は魔法少女との戦闘中、ナナキと『RAID5』に入ったのだという。


 仲間は作らず、一人で魔法少女たちを倒して、今まで残っていた。


 AIのポロを呼んで、配信できるようにしてもらったらしい。

 仲間はいないけど、リスナーがいたから寂しくなかったと話していた。


「そんな・・・リリスが・・・あんなに強かったのに」

 リリスが連れ去られたことを話すと、言葉を詰まらせていた。


「隙を狙われた。まさか、如月タツキが関わっているとは思わなかったよ」

「・・・・カイトのお父さん・・・なんだね。お母さんとは会ったことあったけど、お父さんは見かけたことなかったかな」


「ん? 母さんと会ったことあったか?」

「結構会ってたよ。覚えてないの? よく小学校の帰り、カイトの家遊びに行ってたじゃん」


「そうだったっけ?」

「・・・低学年の頃だったけど・・・一緒に遊んだじゃん」

 花音が2つに結んだ髪をいじりながら、頬を膨らませた。 


 小学校なんかゲームしていたことくらいしか記憶にないな。


「・・・私には大切な思い出なのに」

「お、覚えてるって。ほら、ゲームしたよな。パズルゲームとか」

「そうそう。パズルゲームはカイトが強すぎるんだもん」

 適当に誤魔化した。

 すぐに、花音に笑顔が戻った。


「いいわね。可愛い幼馴染と学校に行けて」

 ファナがじとーっとこちら見る。


「ファナにも学生時代があっただろ?」

「私は学校にもあまり行かなくて、ひたすら家で兄と魔法の勉強ばかりだったの」

「へぇ・・・すごい」

 花音が小声で言う。


 セレーヌ城の庭園で、花音とファナと話していた。

 ステラはもふもふの体で、花音にぴったりとくっついている。


「えっと・・・リリスを必ず探し出さなきゃね。私に魔法を教えてくれたのはリリスだから」

「そうだな」

 手を組んで頷く。


「ねぇ、花音はどんな願いで魔法少女戦争に入ったの? 話を聞いてると、学校も充実していて、友達もいて、魔法少女になる必要なんかなかったんじゃない?」

 ファナが頬杖をついた。


「私、Vtuberで有名になりたくて」

「え!? Vtuberって、あの・・・?」


「Vtuber! 母がやってたやつ!」

 ステラがすかさず声を出す。


「そうそう!」

 花音がステラを撫でながら笑った。


「最近は魔法少女の戦闘の様子よりも、魔法少女トークってサブコンテンツでバズってるの。一日の終わりに、今日の戦闘の反省会とかするんだけどね・・・」

「ほ、本当にVtuberで有名になることを、願いにしたの?」

「うん!」

 自信満々に頷くと、ファナが固まっていた。


 当然だ。

 俺だって、信じられない。


「ど・・・どうして?」

「困っている人や苦しんでいる人の支えになるようなVtuberになりたいの。私は欲張りだから、魔法少女もみんな救いたいんだ」

 屈託のない満面の笑みで言う。


「・・・・・」

 ファナが視線を逸らした。


「ご・・・・ごめん、私、ちょっと用事思い出したかからティナたちのところに戻るね」

「・・・あぁ。ゆっくりしてろ」

「うん」

 カップを置いて、足早にこの場を離れていった。


「ファナ、どうしたのかな? 私、変なこと言っちゃった?」

 花音が口に手を当てて心配そうな顔をする。


「ファナは・・・まぁ、色々あるんだよ。気にするな」

「・・・・ん・・・」

 花音がハーブティーを両手で持って俯く。


 ファナは戦闘を勝ち抜いて、不老不死のまま魔法少女戦争に参加することになってしまった。

 自分の夢を叶えるために魔法少女になった花音を見るのは、少し辛いだろうな。


 誰かが悪いわけじゃない。


 でも、強い光は、人によっては残酷に映る。


「ふむ、花音といて母とひとつ違うことに気づいた」

「え?」

 ステラが急にピンと背筋を伸ばした。


「母って、イルアーニャだよね? イルアーニャの戦闘はよく見てたよ。私、あんなに的確に周りに指示出せないし、違うところばかりだと思うよ」

「ううん。そうじゃない」

 ぶるっと体を震わせた。


「男の匂い・・・がない」

「えぇっ!?」


「母は仕事を取るため、たくさんの大人の男と寝ていた。だから、たくさんの男の匂いがした。でも、花音にはそれがない」

 花音の首筋の匂いを嗅ぎながら言う。


「!!!!!!」

 花音の顔がどんどん真っ赤になっていった。


「な、なななななな、無いよ! ないない! 私は、そうゆうの、まだ早いから!」

「ん?」

 ステラが首を傾げる。


「なるほど。もしかして、カイトは男だから女の匂いが・・・」

「その辺にしておけ。個人情報の詮索は禁止だ」


「むぐっ」

 飛び掛かってこようとしたステラの顔を押さえる。



 ジジジジジ ジジジジジジ



『こんにちは。私はAIのポロです』

 花音の目の前に手のひらサイズのアンドロイド、ポロが現れた。

 ポロを引っ掻こうとする、ステラを抱える。


「ポロ、いつもお疲れ様」

『移行後の魔法少女の肉体に異変が無いか確認させていただいております』


 ポロが指を動かすとモニターが現れた。

 花音の体をスキャンして、画面に何かを打ち込んでいく。


『魔力、体力、知力、大幅な変更なし。引継ぎ元と99%変わらないことを確認。次は属性、能力値について・・・』

「ねぇ、ポロ」

 花音が親しげにポロに声をかける。


『なんでしょうか?』

「配信はしてもいいんだよね?」

『もちろんです。配信を通し、魔法少女の存在を広めることも、『ロンの槍』の意志でもありますから』


「そうなのか?」

『はい。電子世界を上手く活用することは、とても良いことです』

 ポロが淡々と話していた。


 魔法少女の存在を広める?

 今まで魔法少女戦争は、見えない存在として、隠れた世界で行われてきた。

 国同士の争いの陰には魔法少女がいたが、魔法少女戦争に関わる者以外は、魔法少女の存在すら知らない。


 どうして今更、そんなことを・・・・。




『カイト、ちょっとこっち来て。緊急、緊急』

「ん?」

「カイト・・・・?」

 花音がステラを撫でながらこちらを見上げる。


「花音、待っててくれ」

『大丈夫、すぐ、返すよ。君のことはナナキから聞いた。他の魔法少女が君に攻撃仕掛けることはないし、ちょっと七陣魔導団ゲヘナのことで相談するだけだから』


「うん」


 ナナキのいる木の陰のほうへ歩いていく。


 花音が少し緊張しながら、ポロの話を聞いているのが見えた。

 ステラが花音の膝で小さく丸まっている。



「急にどうした? 話ってなんだ?」

 ナナキが呆然としながら木に寄りかかっていた。


「全部思い出したんだよ。俺も、抜けていた記憶を・・・」

 ナナキが呟く。


「思い出したって・・・?」

『カイト、ナナキはエジプト神アヌビスだよ。死者の神だ』


「は?」


 一瞬で、カマエルの言いたいことが分かった。


 いや、わかっていても、頭が追いついていかなかった。

 認めたくなかった。


 カマエルが聞き返す間も与えずに続ける。


『花音は三賢者の一人、マリアだ』


「・・・・・」


『覚えてるだろ? 三賢のマリアを・・・』

 カマエルが冷静に問う。


「覚えてる・・・鮮明にな。でも、ナナキ、本当なのか・・・? 花音は三賢者のマリアなのか?」

 ナナキが頷く。


 記憶を失った、名も無き神、魔法少女にならなければいけない魂、リリスとの再会・・・。

 否定できないほど、綺麗に糸が繋がっていた。

 鳥肌が立った。


「どおりで、記憶を失うはずだ・・・君のことは覚えているのに、自分が何の神だったかすっぽり抜けてたんだ」

 ナナキが頭を抱える。

 

「三賢のマリアと初めて契約した俺が、何度も冥界から連れてきていた」

「呪いのせいか?」

「そうだよ。マリア・・・花音は、魔法少女戦争を止めて、リリス、メイリアの呪いを解くために・・・・魔法少女戦争に向けて生まれ変わるよう魂が動くんだ。魔法少女になるためだけに、生き返ってしまうんだよ」

 遠くを見つめながら言う。


「リリスの前で、死ぬようにさ。俺、神なのに、このループから抜けられないんだ」

「・・・聖杯もロンの槍も、クソだな・・・」

 吐き捨てるように言う。


『神の記憶すら奪う呪いだ。三賢者が受けた呪いは凄まじいね』

 カマエルが顔をしかめた。


「・・・・・・」

 花音のほうに視線を向ける。

 こちらは特に気にせず、ステラを抱えたまま無邪気にポロと話していた。 

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