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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第四章 『RAID5』から

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58 魔法少女実験被験者1129

 イルアーニャは見た目の可愛らしさから、いきなり20人もいるアイドルグループのセンターに抜擢されたらしい。

 アイカとフウカも同じアイドルグループにいたが、目立たない存在だったという。


 プロデューサーの力が強く、仕事のためなら手段を択ばなかったようだ。


 表には出ない嫌な思いもたくさんしてきたらしい。


 精神的に崩壊寸前の状態だったイルアーニャを救ったのが配信だった。

 同時期にアイカとフウカも、グループを脱退している。


「配信のほうがファンとの距離が近いからいいと思ったんだって。ゲームは物怖じしないプレイスタイルが人気だったみたい」

 ファナがモニターに書かれていることを要約して話す。


『アイカとフウカはイルアーニャが羨ましくても、大好きだったんだ。人間の感情は複雑だから、イルアーニャに伝わらなかったんだろ』

「じゃなきゃ、魔法少女になってまで追いかけないもんな」


『14歳あたりは一番精神の揺らぐ時期・・・魔法少女にとっては適齢期だ。こうゆうすれ違いも、人間の美しさだね』

「・・・・・」

 カマエルが草原で片膝を立てながら言う。


『羨ましい気持ちは、嫉妬だけじゃない。憧れもあるのにね。イルアーニャには届かなかったみたいだけど』


「アイドルって大変なのね。ネットに書いてることも、どこまで本当かわからないけど。みんな好き放題書くのね」

 ファナが息をつく。


「この時代に馴染んでないのに、よくそこまで調べたな」

「私、物覚えがいいの」

「十分わかってるって」


 自慢げな顔をしていた。


 少し触っただけなのにもうネットを使いこなせるとは・・・。

 前回の魔法少女戦争で勝ち抜いただけあるな。


「それに、みんなを待ってる間、暇だったし、本読んでるとカマエルがうるさいんだもん。モニターの操作も、ネットの検索方法も全部覚えちゃった」 

 ファナが岩に座り直す。


『だって、エリンちゃんより上位なんてありえないでしょ。どんな手を使って1位をキープしてるのか気になってさ』

「粘着質なファンって、配信者から嫌われるぞ」


『マジで!?』

 カマエルががばっと起きて、口に手を当てる。


『でも、これは粘着質じゃなくて情報収集だから許容範囲なはず・・・・元々エリンちゃんと仲良かったし、今度配信あったら見に行くってメッセージも送ったし』

 早口でぶつぶつ言う。


「送ったのかよ。ファナ・・・・」

「しょうがないでしょ」

 ファナと同時にため息をついた。



「なぁ、星の女神アステリア見なかったか?」

『あぁ、アステリアなら空へ飛んでいったよ。星の出る時間が近づいてるからって』

 カマエルが指を天に向ける。


「・・・じゃあ、どうするんだよ。アレ」


 ステラが白い尻尾を丸めて、イルアーニャのいなくなった場所にうずくまっていた。


『放っておいたら?』


「俺はそうしたいんだけどな・・・」

 頭を搔く。



 案の定、美憂がステラに駆け寄っていっていた。

 こちらをちらっと見て何かを話している。

 絶対、仲間に誘ってるよな・・・。


 美憂は昔から困っている子を見ると、放っておけない。


「カイト!」

 ティナとアクアが走って来た。


「七陣魔導団ゲヘナ全員、『RAID6』に来れたこと確認できたよ」

「ステータス異常も感じられない。見た感じもセレーヌ城と変わらないから、『RAID5』と『RAID6』の差がわからないのよね」

 ティナがセレーヌ城のほうを見ながら言う。


「あえていうなら、モニターの切り替わる速度が速くなった?」

「僕には変わらないように見えるけど」


 少し離れた場所では、魔法少女や戦士たちが固まって互いに抱き合っていた。

 緊張の糸が切れたように泣いている者もいた。


「今回の戦闘では死者はゼロ! 途中でAIのポロが現れたから中断したこともあるかもしれないけど、すごいよ。大健闘ね」

 ティナが珍しく表情を明るくしていた。


「強気なこと言ってたけど、やっぱり少し怖かったから」

 髪を耳にかけながら言う。


「移行のときはびっくりしたよ。僕の魔法陣が切れたと思ったら、いきなり変な部屋に転移させられるんだもん」

「私も転びそうになっちゃった」


「みんな、同じ部屋に転移させられたのか?」

「・・・そうね・・・聞く限り違うのは・・・・」

「?」

 ティナとアクアが顔を見合わせ言いよどむ。

 カマエルが起き上がって、リンゴを齧りながらこちらを見ていた。






「ノア・・・・」

 セレーヌ城近くの木の上に、ノアが足を伸ばして座っていた。

 こちらに気づいていたが、ぼうっとしたままだ。


 ふわっと飛んで、ノアの隣に座る。


「あ、カイト、浮遊魔法できるようになったんだ。いつからだった?」

「ノア、どうしたんだよ」

「どうもしてないよ。ただ・・・私が入った部屋がみんなと違った部屋で・・・」

「・・・・・」

 ティナの言う通り、明らかに様子がおかしかった。


「カイトには・・・言わなきゃいけないよね」

 ノアが髪を押さえて、視線を逸らす。


「みんながAIのポロしかいなかったって話していた移行の部屋には、私の両親がいたんだ」


「両親?」

 木の枝を握り締めながら続ける。


「私は被験者番号1299、魔法少女の研究機関で育てられた魔法少女実験の一人。魔法少女になった、唯一の成功例」

「は・・・・・?」


「他の子たちは魔法少女になる前に死んじゃった。人工的な魔力を創り出すために、たくさんの薬を打つから、身体がもたないの」

 足をぶらぶらさせる。


「神と契約しなきゃ魔法は使えないはずだ」

「私の両親のいる研究機関は魔法と魔法少女戦争について長年調べてきた。魔法を使えるまで・・・辿り着いちゃったんだよ」

 俯きながら深呼吸をしていた。


「神も作り出せると、信じて疑わなかった。両親と会うときは、いつも研究室の冷たいベッドの上だった」

 木々がさらさらと揺れる。


「研究機関が架空の魔神を創り出して、契約させたの。願うことは許可された。これで自由になれるって、魔法少女になりたくて仕方なかった・・・」

「・・・・・・・」

「私の願いは、研究機関から出ることだった。願いが叶うと同時に、電子世界に引き込まれて、魔法少女戦争が始まった」


 腕を組む。

 神を人工的に創った・・・か。

 

 いつかは現れると思ってたけどな。


「それでね・・・」

 ノアの表情がどんどん暗くなっていく。


「私の体にはチップが埋め込まれてる。戦闘時は研究機関によって監視されているの。被験者1129として・・・人工的に創った魔法少女が、魔法少女戦争にどこまで通用するのか・・・」

「どこまでって・・・」


「七陣魔導団ゲヘナの7人の魔法少女に選ばれたのは、ベルナス司祭と父が繋がってたから・・・魔神に選ばれたわけじゃない」

 ノアの声は震えていた。


「・・・・・・・」

「魔法少女戦争が始まったときの記憶が、全部書き換えられてた。私が一番最初に七陣魔導団ゲヘナに入って、みんなが来るのを待ってた」

 首の後ろを触りながら言う。


「ノア・・・・・・・」

「でも、思い出しちゃった。お父さんとお母さんが、1129としてよくやってるって現れて、褒めてくれた・・・私の名前はノアじゃなくて1129だよ・・・」


「もういい」

 ノアの言葉を遮った。


「ノアはノアだ」

「ううん、ううん。違うよ。いつ体が停止するかもわからないし、見つかればどこまで被害が及ぶかわからない。こんなんじゃ、みんなと行動できないよ。迷惑かけちゃうかもしれない、もう迷惑かけてるかもしれない」


「落ち着け!」


「っ・・・・」

 両手で目を擦りながら首を振った。


「カイト、私、七陣魔導団ゲヘナを・・・」

「抜けなくていい。このことは誰にも話すな。いいな」

 赤い目でこちらを見る。


「ノアはここにいたいんだろ?」

「いたいけど・・・でも・・・」

「じゃあ、このままいてくれ。七陣魔導団ゲヘナにはノアが必要だ」


「うぅ・・・・・」

 頭を撫でる。

 小さく頷いて、しゃくりを上げて泣き始めた。


 サアァァアアア


『・・・・・・・・・』

 木から少し離れた場所で、カマエルがこちらの会話を聞いているのがわかった。

 ノアが泣いていると、音を立てずに去っていった。 

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