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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第四章 『RAID5』から

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57 死と星の誕生

「あ・・・・・・」

 魔法少女イルアーニャは言葉を発した瞬間、死んだ。 


 きゃあぁぁああああああ


 魔法少女たちの悲鳴が上がる。

 光りの粒になって消えていくイルアーニャの体から、ひとつの毛玉が出てきた。

 

 しゅうぅううう


 手のひらほどの毛玉は、煙を上げて急速に成長していった。


「・・・・・・」

「・・・・・・・」

 周りにいる人全員が絶句していた。


 イルアーニャが妊娠していたこと。

 死んでしまったこと。

 中から得体のしれない何かが出てきたことで、固まるしかなかったのだろう。


 星の女神アステリアが微笑ましく見守っていた。


 シュウウウウウウ

 

 真っ白な毛玉は、1分も経たないうちに7歳くらいの女の子になった。

 ふさふさの尻尾と、大きな耳、手は猫にも似ている。


「うっ・・・・」

 アイカが口を押えて、吐き気を堪えていた。


「これが・・・イルアーニャの子なの?」


「どうゆうこと? 何があったの?」

 ティナが駆け寄ってきて、顔色を悪くしていた。

 美憂がティナに簡単に状況を説明している。



『やぁ、えっと・・・ステラ。君の名前はステラだって、君の母親がつけた名前だ。魔法少女の子のお腹にいて、今死んだから出てきたんだよ』

「ふむ・・・悪くないな」


 ステラがふさふさの尻尾を振りながら言う。


「え・・・・ちょっと待って」


『なんだ?』

 美憂が星の女神アステリアに近づく。


「か・・・神様なら、イルアーニャが自分の子と会う時間くらい与えてもいいんじゃない? お母さんって大事な存在よ。それなのに、死んでから生まれてくるなんて、それに、それに・・・」

 美憂が顔を真っ赤にして言葉を選んでいた。


『時間は契約に無かったから、仕方ないかな』

「アステリア、この者は何者だ?」


『そっか。人間って赤ちゃんの状態があるんだもんね。でも、この子は人間じゃないんだ』

 星の女神アステリアが、生まれたばかりのステラを持ち上げる。


『ステラ、君は奇跡の子であり、禁忌の子だよ。魔法少女の腹の中で育った』


「わかってるよ。人間の腹の中は、色んな感情を感じるのだな。我は母が憎しみを必死に隠ししていたことも知っている。母が自分の周りに怯えていたことも知っている」

 ステラが周りの者を睨みつける。


『なるほど。イルアーニャの腹の中にいられるのは、君だけだったんだよ? 人間も、妖精も、神もみんな駄目。選ぶのが大変だったんだ』

 星の女神アステリアがステラを降ろした。


「ふむ・・・母か。人間は面白いな」

 ふさふさの耳をぴんとさせながら言う。


『せっかく生まれたんだから、人間を満喫しなよ』

 星の女神アステリアが金のベールを被る。


 獣人と人間のハーフか?

 かなり高い魔力と攻撃力を感じた。



「いやあぁぁあああ」

 アイカが剣を出して、ステラを刺そうとした。

 ステラが瞬時に尻尾で弾く。


「なんだ? 我が不満か?」

「ひどいひどいひどい!」

 アイカが悲痛な声で叫ぶ。


「イルは、きっと普通の子供が欲しかった。アイドルだった分苦労して、苦労して、Vtuberになって配信ランキング1位をキープし続けた。みんなに愛される魔法少女になった!」

「アイカ、落ち着いて」


「落ち着けない! こんな、こんな・・・何者かもわからない者を、イルが産むなんて! 人間? 獣人? ここまで頑張って来たのに、あっさり死ぬなんて・・・」


「・・・・・」

 ステラを罵倒していたが、何も気にしていないようだった。

 ぶるっと毛を振っている。


『私は精一杯願いを叶えただけなんだけどね。イルアーニャの肉体は脆くて子供を宿せない。だから、心臓を魔法石に変えたんだ。いい案でしょ?』

「もっと人間のこと学習しろよ」


『うーん、サマエルは難しいことを言うね』

 アステリアが何度も首を傾げていた。


「ふむ、おかげで居心地はよかったな」

 ステラが手で耳を搔いていた。


『私は契約を果たしただけだよ。どうしてそんなに悲しそうな顔をする? 生まれた子が純粋な人間じゃないから? 仕方ないよ。禁忌を犯してるんだから』

「・・・そうじゃないって」


 星の女神アステリアは何もわかっていない。

 何の悪気も無く、願いを叶えたようだった。


 ステラは綺麗だった。

 真っ白な毛に覆われて、澄んだ瞳は吸い込まれそうなほどだった。

 種族を越えた、神聖な美を兼ね備えていた。


 闇の中に一番星が輝くとしたら、ステラのような者のことを言うのだろう。


「なぁ」

「え・・・?」

「母は強い魔法少女だったらしいな。強かったのか?」

 ステラが泣きじゃくるアイカに声をかける。


「イル様は、すごく強い魔法少女だった」

 アイカの隣にいた魔法少女が口を挟む。


「そう・・・ね。イルは強かった」

「ふむふむ。やはり、我と似てるのか?」


「・・・・似てない・・・かな? イルはいるだけで空気が変わるほどのアイドルだった。どこにいても、人気者になれる・・・力を持っていた」

 アイカがぽつりぽつりと話す。


「みんな母が好きだったのか・・・?」

「もちろん!」


「でも、母は人間が嫌いだった」

 

 ステラが声を低くする。


「!?」

「強いリーダーを演じ続けなければならなかった。『星空の魔女ウィッカ』弱いからだ。誰からも愛される自分でなければいけなかった」


「イルのこと・・・知ったように言わないで」

「我の母だ」


「・・・・・・」

 ステラがアイカたち、生き残った『星空の魔女ウィッカ』を睨みつけながら言う。


『願いを叶えられてよかった。じゃあ、私は旅立つよ』

「星の女神アステリア」

『なぁに? どうしてサマエルがそんなに怒ってるのか不思議だよ』


「怒ってない。呆れてるんだ」


 アステリアが金色のベールをふわっとさせながら視線を合わせる。

 

 イルアーニャの気持ちはわからない。

 闇をすくうような残酷な目と、アイドルのように輝く目と持つ少女だった。


 おそらく、本当の望みを言えなったのだろう・・・。


「いや、お前に何言ったって無駄だな」


『サマエルだって似たようなものでしょ?』

「一緒にするな。つか、その名で呼ぶな。今は如月カイトだ」


『へぇ・・・』

 金色のベールを流して、背を向ける。


『神が感情的になっちゃ駄目だよ。あと、ステラは記憶を失った星の欠片だ。獣のような姿にして、禁忌をカモフラージュしている』


「!?」

 すれ違う時に、耳元でささやいた。


『そうゆうこと。バレないようにね。あと、ステラは何も知らない。教えてやってくれ』


「は? なんで、俺が」


『ステラは『星空の魔女ウィッカ』にはいれないから・・・』



 ゴオオォオオオオオ


「我の母を孤独にして、責任感を負わせて、いいように使い倒した。全ては、自分たちの安全を確保するため」

「そんなことない! イルは私たちの大切な仲間で・・・」


「母の名を呼ぶな!」

 ステラが毛を逆立てる。


「っ・・・・」

 アイカたちが下がっていった。


「『星空の魔女ウィッカ』はここで解散だ。早く我の目の前から姿を消せ。母に執着して追い詰めた者、利用しようとした者、全てを殺してやる」

 ステラの目は復讐に満ちている。

 魔力が急激に高まっていくのを感じた。


「カイト、みんな転移して来てるみたいだけどどうする?」

「できるだけ、この場から離れるように伝えてくれ。巻き込まれるぞ」

「うん!」

 ティナが軽く飛んで、『RAID6』に来たものたちの元へ向かっていった。


「アイカ様・・・」

「私はここに居る。みんな逃げて」

 アイカが諦めたように、肩を落とした。


「で・・・では・・・・・」



 ザッ


 『星空の魔女ウィッカ』の者たちが、アイカを見て、おそるおそる一目散に逃げていった。


 土壇場で本性が露になる。

 みんな自分の身が大事だからな。



「どうして残った? 我が情けでもかけると思ったのか?」

 ステラが鋭い爪をアイカに向ける。


「連れて行ってほしいと思った。イルとフウカはアイドル時代から、苦楽を共にした仲なの」

 アイカが髪を耳にかけて、力なく笑う。


「イルとは圧倒的な差がついちゃったけどね」

「今更・・・・」


「2人のところに行きたい。イルの子供に殺されるなら、いけるかな?」

 涙を浮かべながら言う。


「母はお前が母に嫉妬していたことも知っていた。母を苦しめた。皮膚を引っ掻き、頭蓋骨をかみ砕き、あらゆる恐怖を味わわせた後、すぐに死なせるのはもったいな・・・」



 シュンッ


「っ!!」

 剣を出して、アイカの胸を後ろから突き刺す。

 アイカの心臓が止まり、身体が光の粒になって消えていった。


「何をする!?」

 ステラが声を荒げる。


「我の獲物だ!」

「イルアーニャの友達だ。何やってるんだよ」


「敵だ! 母はアイカとフウカの前でも演じ続けて苦しんでいた!」

 目つきを鋭くする。


「演じ続けたのは、2人に友達でいてほしかったからだろう?」

「っ・・・・・」

「無下にするな。黄泉の世界に行った、イルアーニャが悲しむ」


「フン・・・・」

 ステラが尻尾を降ろして丸める。

 しばらくイルアーニャの消えた場所をうろうろしていた。    

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