57 死と星の誕生
「あ・・・・・・」
魔法少女イルアーニャは言葉を発した瞬間、死んだ。
きゃあぁぁああああああ
魔法少女たちの悲鳴が上がる。
光りの粒になって消えていくイルアーニャの体から、ひとつの毛玉が出てきた。
しゅうぅううう
手のひらほどの毛玉は、煙を上げて急速に成長していった。
「・・・・・・」
「・・・・・・・」
周りにいる人全員が絶句していた。
イルアーニャが妊娠していたこと。
死んでしまったこと。
中から得体のしれない何かが出てきたことで、固まるしかなかったのだろう。
星の女神アステリアが微笑ましく見守っていた。
シュウウウウウウ
真っ白な毛玉は、1分も経たないうちに7歳くらいの女の子になった。
ふさふさの尻尾と、大きな耳、手は猫にも似ている。
「うっ・・・・」
アイカが口を押えて、吐き気を堪えていた。
「これが・・・イルアーニャの子なの?」
「どうゆうこと? 何があったの?」
ティナが駆け寄ってきて、顔色を悪くしていた。
美憂がティナに簡単に状況を説明している。
『やぁ、えっと・・・ステラ。君の名前はステラだって、君の母親がつけた名前だ。魔法少女の子のお腹にいて、今死んだから出てきたんだよ』
「ふむ・・・悪くないな」
ステラがふさふさの尻尾を振りながら言う。
「え・・・・ちょっと待って」
『なんだ?』
美憂が星の女神アステリアに近づく。
「か・・・神様なら、イルアーニャが自分の子と会う時間くらい与えてもいいんじゃない? お母さんって大事な存在よ。それなのに、死んでから生まれてくるなんて、それに、それに・・・」
美憂が顔を真っ赤にして言葉を選んでいた。
『時間は契約に無かったから、仕方ないかな』
「アステリア、この者は何者だ?」
『そっか。人間って赤ちゃんの状態があるんだもんね。でも、この子は人間じゃないんだ』
星の女神アステリアが、生まれたばかりのステラを持ち上げる。
『ステラ、君は奇跡の子であり、禁忌の子だよ。魔法少女の腹の中で育った』
「わかってるよ。人間の腹の中は、色んな感情を感じるのだな。我は母が憎しみを必死に隠ししていたことも知っている。母が自分の周りに怯えていたことも知っている」
ステラが周りの者を睨みつける。
『なるほど。イルアーニャの腹の中にいられるのは、君だけだったんだよ? 人間も、妖精も、神もみんな駄目。選ぶのが大変だったんだ』
星の女神アステリアがステラを降ろした。
「ふむ・・・母か。人間は面白いな」
ふさふさの耳をぴんとさせながら言う。
『せっかく生まれたんだから、人間を満喫しなよ』
星の女神アステリアが金のベールを被る。
獣人と人間のハーフか?
かなり高い魔力と攻撃力を感じた。
「いやあぁぁあああ」
アイカが剣を出して、ステラを刺そうとした。
ステラが瞬時に尻尾で弾く。
「なんだ? 我が不満か?」
「ひどいひどいひどい!」
アイカが悲痛な声で叫ぶ。
「イルは、きっと普通の子供が欲しかった。アイドルだった分苦労して、苦労して、Vtuberになって配信ランキング1位をキープし続けた。みんなに愛される魔法少女になった!」
「アイカ、落ち着いて」
「落ち着けない! こんな、こんな・・・何者かもわからない者を、イルが産むなんて! 人間? 獣人? ここまで頑張って来たのに、あっさり死ぬなんて・・・」
「・・・・・」
ステラを罵倒していたが、何も気にしていないようだった。
ぶるっと毛を振っている。
『私は精一杯願いを叶えただけなんだけどね。イルアーニャの肉体は脆くて子供を宿せない。だから、心臓を魔法石に変えたんだ。いい案でしょ?』
「もっと人間のこと学習しろよ」
『うーん、サマエルは難しいことを言うね』
アステリアが何度も首を傾げていた。
「ふむ、おかげで居心地はよかったな」
ステラが手で耳を搔いていた。
『私は契約を果たしただけだよ。どうしてそんなに悲しそうな顔をする? 生まれた子が純粋な人間じゃないから? 仕方ないよ。禁忌を犯してるんだから』
「・・・そうじゃないって」
星の女神アステリアは何もわかっていない。
何の悪気も無く、願いを叶えたようだった。
ステラは綺麗だった。
真っ白な毛に覆われて、澄んだ瞳は吸い込まれそうなほどだった。
種族を越えた、神聖な美を兼ね備えていた。
闇の中に一番星が輝くとしたら、ステラのような者のことを言うのだろう。
「なぁ」
「え・・・?」
「母は強い魔法少女だったらしいな。強かったのか?」
ステラが泣きじゃくるアイカに声をかける。
「イル様は、すごく強い魔法少女だった」
アイカの隣にいた魔法少女が口を挟む。
「そう・・・ね。イルは強かった」
「ふむふむ。やはり、我と似てるのか?」
「・・・・似てない・・・かな? イルはいるだけで空気が変わるほどのアイドルだった。どこにいても、人気者になれる・・・力を持っていた」
アイカがぽつりぽつりと話す。
「みんな母が好きだったのか・・・?」
「もちろん!」
「でも、母は人間が嫌いだった」
ステラが声を低くする。
「!?」
「強いリーダーを演じ続けなければならなかった。『星空の魔女』弱いからだ。誰からも愛される自分でなければいけなかった」
「イルのこと・・・知ったように言わないで」
「我の母だ」
「・・・・・・」
ステラがアイカたち、生き残った『星空の魔女』を睨みつけながら言う。
『願いを叶えられてよかった。じゃあ、私は旅立つよ』
「星の女神アステリア」
『なぁに? どうしてサマエルがそんなに怒ってるのか不思議だよ』
「怒ってない。呆れてるんだ」
アステリアが金色のベールをふわっとさせながら視線を合わせる。
イルアーニャの気持ちはわからない。
闇をすくうような残酷な目と、アイドルのように輝く目と持つ少女だった。
おそらく、本当の望みを言えなったのだろう・・・。
「いや、お前に何言ったって無駄だな」
『サマエルだって似たようなものでしょ?』
「一緒にするな。つか、その名で呼ぶな。今は如月カイトだ」
『へぇ・・・』
金色のベールを流して、背を向ける。
『神が感情的になっちゃ駄目だよ。あと、ステラは記憶を失った星の欠片だ。獣のような姿にして、禁忌をカモフラージュしている』
「!?」
すれ違う時に、耳元でささやいた。
『そうゆうこと。バレないようにね。あと、ステラは何も知らない。教えてやってくれ』
「は? なんで、俺が」
『ステラは『星空の魔女』にはいれないから・・・』
ゴオオォオオオオオ
「我の母を孤独にして、責任感を負わせて、いいように使い倒した。全ては、自分たちの安全を確保するため」
「そんなことない! イルは私たちの大切な仲間で・・・」
「母の名を呼ぶな!」
ステラが毛を逆立てる。
「っ・・・・」
アイカたちが下がっていった。
「『星空の魔女』はここで解散だ。早く我の目の前から姿を消せ。母に執着して追い詰めた者、利用しようとした者、全てを殺してやる」
ステラの目は復讐に満ちている。
魔力が急激に高まっていくのを感じた。
「カイト、みんな転移して来てるみたいだけどどうする?」
「できるだけ、この場から離れるように伝えてくれ。巻き込まれるぞ」
「うん!」
ティナが軽く飛んで、『RAID6』に来たものたちの元へ向かっていった。
「アイカ様・・・」
「私はここに居る。みんな逃げて」
アイカが諦めたように、肩を落とした。
「で・・・では・・・・・」
ザッ
『星空の魔女』の者たちが、アイカを見て、おそるおそる一目散に逃げていった。
土壇場で本性が露になる。
みんな自分の身が大事だからな。
「どうして残った? 我が情けでもかけると思ったのか?」
ステラが鋭い爪をアイカに向ける。
「連れて行ってほしいと思った。イルとフウカはアイドル時代から、苦楽を共にした仲なの」
アイカが髪を耳にかけて、力なく笑う。
「イルとは圧倒的な差がついちゃったけどね」
「今更・・・・」
「2人のところに行きたい。イルの子供に殺されるなら、いけるかな?」
涙を浮かべながら言う。
「母はお前が母に嫉妬していたことも知っていた。母を苦しめた。皮膚を引っ掻き、頭蓋骨をかみ砕き、あらゆる恐怖を味わわせた後、すぐに死なせるのはもったいな・・・」
シュンッ
「っ!!」
剣を出して、アイカの胸を後ろから突き刺す。
アイカの心臓が止まり、身体が光の粒になって消えていった。
「何をする!?」
ステラが声を荒げる。
「我の獲物だ!」
「イルアーニャの友達だ。何やってるんだよ」
「敵だ! 母はアイカとフウカの前でも演じ続けて苦しんでいた!」
目つきを鋭くする。
「演じ続けたのは、2人に友達でいてほしかったからだろう?」
「っ・・・・・」
「無下にするな。黄泉の世界に行った、イルアーニャが悲しむ」
「フン・・・・」
ステラが尻尾を降ろして丸める。
しばらくイルアーニャの消えた場所をうろうろしていた。




