56 『RAID6』へ移行完了できた者
バツン
「!?」
突然、辺りが暗くなり、一面ガラス張りのような場所に移った。
中央の柱が青白く光っていた。
NOW LOADING・・・
正面のモニターが文字を表示している。
ゲームの待機場所のような作りだ。
「美憂・・・?」
剣を解いて、周囲を見渡す。
『戦闘中に失礼いたしました。移行は一人一人別々の対応となります。安全を配慮してのことなのでご安心を』
「・・・・・・」
『移行前に確認させていただきます。『RAID6』に入るには、プレイヤーとは別の認証が必要となっておりますので』
ポロが柱のくぼみにちょこんと座りながら、モニターを操作していた。
部屋には俺とAIのポロしかいない。
「他の奴らは無事なんだろうな?」
『当然です。『RAID6』よりも安全なシステムなんてありえませんから』
「・・・・・・・・」
腕を組んで、周りを見る。
何かの罠にかけられている感覚は無いな。
ポロの言う通り、『RAID6』への移行をしているだけのようだ。
『如月カイト、魔法少女ファナ、ティナ、美憂の主としてエントリーされてますね。このまま受け付けま・・・』
「は? リリスはどうした!?」
『魔法少女リリスは現在、別の主が登録されています』
「別の主って・・・誰だよ!」
『個人情報を開示することはできません。ご了承ください』
「・・・クソッ・・・」
如月タツキにやられたのか。
あいつ・・・。
『移行、50%完了しております。壁に変化が現れますが、問題なく進行しているのでご安心ください』
ポロが淡々と説明していた。
壁が七色に光り出す。
『あと、如月カイトは魔神としての属性もお持ちですね?』
「・・・・だからなんだ?」
ポロを睨みつける。
『我々が管理するのは主と魔法少女。神々は管轄外なので、ご自由に。あと、外部とのやり取りについても我々の監視下にあります』
「・・・・」
『貴方はこのゲームを知っているでしょう?』
「まぁな」
『数人はAIが創り出した『RAID5』という未リリースのゲームの中だという事実に辿りついています。やはり、魔法少女の主は頭がいい。魔法少女戦争が電子世界で行われるのも納得ですね』
ポロとの雑談は、人間を無理やり落ち着かせようとしているよな違和感があった。
葛城さんとのやり取りも見られていたか。
ここは『RAID5』というゲームの中だ。
当然のことだろうな。
「何か罰則でもあるのか?」
『何の問題ございません。外部の情報を上手く使って、魔法少女戦争をお楽しみください。魔法少女戦争は電子世界で行われておりますので、発想も戦争方法も自由です』
ポロが貼り付けたような笑みを浮かべた。
「この電子世界の外には出られないのか」
『ん?』
ポロが首を傾げる。
『出たいのですか?』
「出れるのか?」
『ルールによると・・・』
ポロがこめかみを押さえながら目を瞑る。
『主は、一度だけ出ることができますよ。でも、出たら元には戻れません。『プレイヤー』として入る、または画面越しに魔法少女とコミュニケーションを取ることくらいしかできなくなりますけどね』
無表情のまま続ける。
『魔法少女は当然、出られません。人間としての肉体を持っていませんから』
「っ・・・・・」
奥歯を噛む。
『今回は魔法少女のエントリーが過去最多となっております。『RAID6』に移れる魔法少女は、全員ではありません。もうすぐ、移行が完了します。何か私に聞きたいことはありますか?』
「誰がこのゲームを創った?」
『誰・・・・そうですね』
ポロが少し固まって、俺の目を見る。
『ロンの槍の意志が、我々AIを動かします。今は、これ以上話すことはできません。では、ようこそ『RAID6』へ』
深々と頭を下げた。
モニターのロード画面が消える。
パッ
突然、満月の光りが差し込んできた。
「おにい!」
美憂が駆け寄って来て、座り込む。
「大丈夫だったか?」
「うん。びっくりしたけど、ティナたちも無事みたい・・・でも・・・・」
言葉を詰まらせる。
少し離れたところで、イルアーニャが倒れていた。
周りにアイカ、『星空の魔女』の魔法少女たちが集まってきたいる。
ただならぬ雰囲気に、ティナとノアも攻撃を止めていた。
「イル! イル! イル、起きて!」
アイカが目に涙を溜めて叫ぶ。
「フウカが死んじゃったよ。イルまで置いていかないで」
「イル様、イルアーニャ様!!」
魔法少女の一人が回復魔法のようなものを唱えていた。
勝負は七陣魔導団ゲヘナの圧勝だった。
『星空の魔女』や、戦士たちはほとんど消えている。
ゆっくり歩いて、イルアーニャのほうへ向かう。
美憂が後ろからついてきた。
「き・・・貴様!!」
弱そうな魔法少女2人が剣を構えていた。
「どけろ。イルアーニャと話したいだけだ」
「あ・・・アイカ様!!」
「いいわ。勝手にして」
「・・・・・・」
2人の魔法少女が渋々避けた。
「イル・・・・」
アイカがイルアーニャの頬を撫でていた。
「もう『星空の魔女』は終わりよ。あんたらが殺したのと、『RAID6』への移行で消されてしまった」
「消されたって・・・移行中に?」
美憂が隣でおそるおそる呟く。
「主が魔法少女の主であることを拒否したの。私たちは適当に主を見つけて契約してたから、主が契約したことも忘れてるってこともあるし、繰り返す戦闘で契約破棄する場合もある」
「ありえないだろ・・・」
「電子世界で魔法少女をするってそうゆうことでしょ? 主を引き込めなかった、魔法少女の力不足。七陣魔導団ゲヘナだってあるんじゃない? 絶対あるから・・・」
アイカがうわごとのように話していた。
「アイカ・・・・?」
「イル! イル!」
イルアーニャがアイカに手を伸ばした。
アイカが咄嗟に両手で、華奢な手を包み込む。
「イルが生きててくれてよかった・・・」
「ううん、私はもう死ぬ」
イルアーニャがこちらを見る。
「え?」
「如月カイト・・・AIにバレた。私は子供を取り出された後、すぐに死ぬの」
首から下げた魔法石のついた鍵にひびが入っていた。
「・・・・・」
「子供? どうゆうこと? イル、イル!」
「ごめんね。今までありがとう」
「待って、イル! イルってば、何も知らない!」
アイカがボロボロ涙を流しながらイルアーニャに問う。
「私はそうゆう契約をした。カイト」
イルアーニャが力を振り絞って、こちらを見る。
「空軍機が欲しかったのは、私が身ごもったのが星の子だから」
ゴーン ゴーン
どこからともなく、教会の鐘のような音が響いていた。
ふわっと金のベールを被った、女神が現れる。
『こんにちは』
星の女神ステリアだ。
『イルアーニャ、『星空の魔女』を守ってくれてありがとう』
イルアーニャをそっと見つめる。
美憂がびくっとして俺の後ろに隠れた。
ステリアは誰も叶えることのできない、尊い願いを叶えることができる。
行き場を失った魔女たちの、母のような存在だった。
「女神・・・様・・・・」
『何も言わなくて大丈夫。痛みはないから安心していいよ』
ステリアが屈んで、イルアーニャの鍵を取った。
「ステリア・・・・」
『ん? あぁ、サマエル。貴方も魔法少女戦争に参加してたんだものね。人間の体はどう? 慣れた?」
「イルアーニャをどうするつもりだ?」
『どうするって? 尊い願いを叶えるために、魔法少女にしただけだよ』
ティアラに着いた宝石が煌めいた。
星の女神ステリアは一番星のように眩く、美しい女神だ。
でも、いつも人と離れているからか、人間の感覚からかなりずれている。
『私は契約通り、イルアーニャの願いを叶えに来たんだよ』
ステリアが鍵に埋め込まれた宝石を撫でる。
イルアーニャの変身魔法が解けて、大きく膨らんだお腹が露になった。
「イル!?」
『星空の魔女』の者たちが一斉にどよめいていた。
七陣魔導団ゲヘナの者たちも集まってくる。
「ステリア、子供を宿す・・・って、わかってんのか? イルアーニャは人間だぞ!」
『願いを叶えた時点で魔法少女でしょ?』
「っ・・・・・」
ステリアが首を傾げた。
イルアーニャが息を切らしながら、手を伸ばす。
「星の女神様、最期にこの子に名前をつけていい?」
『もちろん。このこのママはイルアーニャだからね』
「イル!!」
魔法少女たちが叫ぶ。
イルアーニャの足は透明になりかかっていた。
イルアーニャの瞳には、星の女神しか映っていなかった。
「ふふ、この子はステラ。星を意味するの」
『素敵な名前だね。伝えておくよ』
ステリアがふっとほほ笑んで、両手を上げた。
イルアーニャの鍵を宙に浮かべて、パリンと割った。




