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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第四章 『RAID5』から

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55 子を宿す魔法少女

 剣に炎をまとわせて、美憂と交互に攻撃を繰り出す。

 イルアーニャが2本の剣を持って、攻撃を防いでいた。


 一瞬の隙を見て、美憂を狙う。

 先回りして、剣を止めた。


 キィンッ


 さすが、配信ランキングで1位を独占しているだけあって、電子世界での身のこなしはうまい。


「兄妹で戦うのは初めてじゃないの?」

「昔、よくゲームをしてたんだよ」


「ふうん。いいなぁ」

 

 シュンッ


 イルアーニャが展開した魔法陣を蹴り破った。


「わぁ、すごい」


 キィンッ


「っ・・・・」


「兄妹仲がいいって羨ましいね」

 美憂の攻撃を一瞬で止める。

 剣には電流が流れていたが、属性付与を無効化しているため、イルアーニャに全く効いていない。



「でも、本気で来なきゃ。このバトルフィールドを解除するには、私に致命的なダメージを与えなきゃ」

 イルアーニャが両手の剣をくるくる回しながら、下がった。

 ふと、顔を上げる。



「陸軍第1部隊は攻撃から怪我人を守りつつ、治癒に専念して」

 ティナが戦闘しながら、俺が話していたフォーメーションに陸軍を移動させようとしていた。


「陸軍第2部隊は引き続き後方支援を。絶対に誰も死なせない!」

 祈るように声を上げていた。


 四方八方で戦闘が繰り広げられている。

 火花が散るたびに、少女や青年たちの顔が照らされていた。


 まだどちらが優勢とも言い難いが、七陣魔導団ゲヘナのほうが押しているように見える。

 イルアーニャのバトルフィールドによるデバフとバフを、賢者たちが数回にわたって無効化を繰り返していた。


 『魔女のウィッカ』の者たちは思った成果が出ないことに焦りが出ていた。



「如月カイト」

 

 カンッ


 突然、イルアーニャが距離を詰めて、剣を振り下ろしてきた。

 片手でシールドを展開し、イルアーニャの剣を止める。


「あ! これって、悪魔のコードだよね?」

 イルアーニャがシールドのコードを読みながら言った。


「悪魔かどうかは知らないけどな」

「初めて見る。配信に戻ったら紹介していい?」


「駄目だ」

 シールドを解いて、剣で斬りかかる。


 カン カン カン キィンッ


「いいじゃん。私のリスナーは口が堅いから大丈夫。みんないい人だもん」

 イルアーニャが剣を弾いていた。

 空を斬るように避けられてしまう。


 イルアーニャには、何か、見えない力が働いているように、思えた。

 フィールドのバフやデバフではない、何か・・・。


「じゃあ、なんでアイドルを辞めてVtuberになったんだ?」

「私がアイドル辞めたことになんか興味あるんだ。簡単だよ。アイドルに飽きたから・・・」


 剣を激しくぶつけていきながら、イルアーニャの持つ何かを感じようとしていた。

 高く結んだツインテールが揺れる。



「おにい! 七陣魔導団ゲヘナが勝ってるよ! みんな強いよ!」

「美憂、戦闘中だ」

「でも、すごいの!」

 美憂が上空を見ながら興奮気味に叫んでいた。


「・・・・・」

 すっと、イルアーニャが抜けて、美憂に向かっていく。


 シュンッ


「!!」

「あ・・・・・」 

 美憂の胸にイルアーニャが剣を突きつけるのと、俺がイルアーニャの首に剣を向けるのは同時だった。

 美憂が額に汗を浮かべて硬直する。


「ほら、やっぱり手を抜いてた」

 イルアーニャが美憂に剣を向けたまま、にやりとする。


「私の何に探りを入れたかったのかわからないけど、そうゆうのすぐ気づいちゃうよ。相手の魔力、力と、剣の使い方が嚙み合ってないもん。探りを入れる時の戦い方でしょ?」


 戦っていて、ひとつ、気づいた。

 剣を持つ手を緩める。


「お前・・・妊娠してるのか?」



「!?」


 イルアーニャが顔面蒼白になって、剣を降ろした。

 唇を震わせながら、こちらを見上げる。


「ど・・・どうしてそれを・・・・」

「体の中に、もう一つの魂を感じる。強い心臓を持つ、もう一つの命だ」


「っ・・・・」

 イルアーニャがお腹を押さえる。

 咄嗟に周りに誰かいないか確認していた。


「内緒にしてるの?」

「あ、当たり前よ! 私はアイドル上がりのVtuberなんだから」

 美憂が剣の魔力を緩めて、隣に並んだ。


「言わないで。誰にも・・・お願い!」

 イルアーニャが涙目になりながら声を震わせる。



「よく、妊娠したまま戦えたな。まぁ、なんとしてでもバトルフィールドに持ち込みたい理由はわかったよ」

 息をつく。


「なんで魔法少女になんかなったんだ?」

「・・・・・・・」


「腹に子供がいながら、どうして魔法少女戦争になんか・・・」

「私の願いはたったひとつだった」


 腹の大きさは、おそらく変身魔法で隠していた。

 イルアーニャが剣を持ったまま続ける。


「子供が欲しいって星の女神にお願いした。私の、私だけの子供・・・」


「は?」


「母親になりたかった。でも、アイドル時代に嫌な思いをしてから男の人は嫌いで、女の子のほうが好きだった。大人になって、同性婚なんてできないし、女同士じゃ子供もできない。ただ、自分の子供が欲しかった・・・」


「・・・どうして?」


「自分でも、はっきりとはわからない。本当は、愛してもいい存在が欲しかったのかもしれない」

 魔法少女の鍵を握り締めながら言う。


 鍵に埋め込まれた赤いルビーのような魔法石が、おそらくイルアーニャの心臓だった。

 美しく緋色に輝いている。


「アイドルは、誰も信用しちゃいけない、愛してはいけない、常に何かを演じなきゃいけなかったから・・・・。本当の自分を忘れちゃったの」

「そんな・・・・」

 

 周囲で激しい激戦が繰り広げられている中、イルアーニャと俺たちだけ時間が止まったようだった。


「な・・・何言ってるの? お母さんになるって、そんな子供みたいな理由で・・・だって・・・」

 美憂が自分の両親を浮かべて、何か言いたいのだと思う。

 言葉を詰まらせていた。


 母親だけだった。

 俺たちは、父親についてほとんど知らない。


「奇跡を起こすには代償が必要だった。だって、あり得ないでしょ? 私一人で子供をつくるなんて、お金があったって無理な話」

「・・・・・・・」


「生身の体では難しいって言われた。だから心臓を魔法石に変えてもらって、肉体を変えて、お腹に子供を宿してもらった。同時に、強大な力を得て、『星の魔女ウィッカ』のトップに選ばれたの。この子のためなら、なんでもできる。どんなに残酷なこともできる」


 お腹を愛おしそうに触っている。


「イルアーニャ・・・自分が死ぬことわかってるのか? この極大魔法を使えるってことは・・・」

「おにい、どうゆうことなの?」

 美憂がこちらを見る。


「イルアーニャは心臓を魔法石に変えて契約しているんだ。力を得る代わりに、1年以内に死ぬ」

「すごいね。この短時間で、どこまで知ってるの?」

 自信なさそうにほほ笑む。


「死んでも、この子は守られる。女神様が守ってくださるって話してた・・・星の子よ・・・・私の希望の子になるの」 

 柔らかな表情で言う。


 イルアーニャの考えは理解できなかった。


 こいつと契約した、星の女神の考えも、な。

 心臓を魔法石に変えたってことは、イルアーニャの子供は実質、星の魔力で育っているということになる。


 イルアーニャを介して生まれてきたとしても、人間にはなれない。


「私・・・イルアーニャを殺せない。殺せないよ、おにい」

 美憂が首を振って、服をつまんだ。


「どうしたらいいのかわからない」

「美憂」


「じゃあ、私が殺してあげる・・・と言いたいけど、弱みを握られたままじゃ・・・」



 ジジジジ ジジジ


 ブオンッ


「なっ!!」

「え・・・?」


 突然、イルアーニャのバトルフィールドが解けて、夕暮れの空が露になる。


「イル様!!!」

 

『こんにちは。AIのポロです』

 美憂とイルアーニャの前に手のひらサイズのアンドロイド、ポロが現れた。

 他の魔法少女の前にも全く同じ、アンドロイドのポロが近づいている。


 一瞬で静まり返った。


『戦闘は一時的に切断させていただきました。無事満月の日を迎え、魔法少女のエントリーはここで締め切らせていただきます』

「!」

 動揺を隠しきれなかったが、ここはゲームの中だ。

 下手に動けなかった。


『現時点、主と契約ができなかった者は死亡となります。このセレーヌ城付近にいる魔法少女は主がいるため死にません』


 ポロがモニターを出して、眺めながら話した。

 どのポロも、全く同じ動きをしている。


『準備は整いました』


『これより、ゲームは『RAID5』から『RAID6』に移行します』

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