53 アイドルの強さの秘密
星空の魔女は暗闇の中の一つの光りを信仰する魔女の集まり。
世界に光を届けたい少女の祈り。
ロストグリモワールに星空の魔女の情報は2文しか書かれていなかった。
― 星はどこまで追いかけても、届かないよ。
届くとしたら闇を持つ魔神くらいかな ―
ふと、昔話を思い出す。
「・・・・・・」
「おにい、どうしたの?」
「考え事だ」
「ふうん」
美憂の鍵で転移して、セレーヌ城の門に立っていた。
空中に線を引いて、剣を出す。
美憂が空中に手を置いて、魔法陣を展開する。
― 魔知速力―
ブワッ
「!」
体中に力が漲っていくのがわかった。
「今のは・・・」
「バフをかけた。半日は持続するから安心して」
「・・・・」
奥歯を噛む。
溢れ出る魔力は、魔法少女の才能を開花させたことを表していた。
同時に、もう、普通の女の子には戻れないこともな。
運命から逃れられない・・・か。
「おにい、私がイルアーニャと2人の魔法少女を狙えばいいんだよね?」
「あぁ、作戦通りいく」
ザッ
イルアーニャと2人の魔法少女がゆっくり歩いてきた。
「あれが七陣魔導団ゲヘナの王、如月カイト・・・」
「如月美憂・・・2人を殺した憎き・・・・」
イルアーニャが2人の魔法少女に静かにするようジェスチャーをしていた。
「こんにちは。私は魔法少女のイルアーニャ。もちろん、私のことは知ってるよね? 何度もバズってるもの」
イルアーニャは近くで見るほど、人目を引く愛くるしい顔をしていた。
「私はアイカ」
「フウカよ。イルと同じ、Vtuber。イルほど有名じゃないけどね」
城の門の前まで来ると立ち止まった。
アイカが槍、フウカが杖を装備していた。
「っ・・・」
殺気を感じて踏み切ろうとした美憂を止める。
「この前、貴女が殺した魔法少女2人は私たちの仲間だった」
「絶対に許さないから!」
「リシュの仇は私たちがとる!」
アイカとフウカが、美憂を睨みつけて武器を構える。
2人も姉妹ではないが、似たような顔立ちをしていた。
「落ち着いて。焦らなくても大丈夫だから」
イルアーニャが穏やかな口調で、動き出そうとした2人を制止する。
「勝手に俺たちの敷地に入ったほうが悪いな」
「私には多くのファンがいるんだよ。あまり、大きな態度を取らないほうがいいかもね?」
あどけない顔で、残酷に、ほほ笑む。
「私、みんなが思ってるより残酷なんだぁ。そのほうがウケがいいし、アイドルやっていく上では、仕方なかったことだから」
「じゃあ、とっとと戦闘に入ったらどうだ? 用があるなら早く言え」
「交渉に来たの。私たちの仲間にならない?」
両手を広げながら言う。
「イル・・・・」
フウカは杖を下に向けて、明らかに不服そうな顔をしている。
「理由は?」
「空軍機持ってるんでしょ? 西のほうで見つけてね。ずっと、ほしいなって思ってた。仲間を連れて移動しやすいから」
「お前らと組んで、こっちに何のメリットがあるんだよ」
「安心を提供できるよ。私たち強いから」
― 剣―
剣を回す。
「呆れるな。寝ぼけたこと言うなよ」
「交渉決裂ってことでいいの? 後悔すると思うけど」
「当然、決裂だ。美憂」
「うん!」
美憂が一瞬で移動した。
「おにいに認めてもらうためにも負けるわけにはいかないの!」
シュンッ
風のように飛んで、力いっぱいアイカに剣を振り下ろす。
ガッ
― リヴァー・シールド ―
イルアーニャが手を広げると、シールドが現れた。
美憂の攻撃を弾く。
― カウンター
ゴオォオオオオ
「!?」
美憂の攻撃が何倍もの威力になって、こちらに降りかかろうとした。
― 無効化―
ザザザザザザアアアァァ
剣にコードを埋め込んで、勢いよく魔法を放つ。
イルアーニャが展開したカウンターの魔法を封じた。
「へぇ、私の魔法を瞬時に封じるとは・・・でも、これくらいしてもらわないと」
「アイカ! 気を抜かないで!」
フウカが叫ぶ。
「え?」
美憂がふわりと浮かんで、槍を構えた魔法少女を剣で突きさそうとした。
ガンッ
アイカが槍を伸ばして、美憂の攻撃の軌道をずらした。
息を整えながら、美憂を睨みつけつける。
「言っておくけど、リシュのこと許すつもりは無い。血の果てまでも追いかけて、殺してやる」
「話を聞いててずっと不思議だったんだけど」
美憂がすぐに切り返して、アイカの胸に剣を突き刺す。
「え・・・・」
「どうして、私に勝てると思ってるの?」
美憂が冷たく言う。
アイカは足元から光の粒になり始めていた。
「その言葉、そのままお返しするよ。これならどう?」
イルアーニャが拳銃を出して美憂に向けた。
「アイカ!!」
「フウ・・・カ・・・・」
フウカが、倒れていくアイカに手を伸ばそうとしていた。
― 安定の手―
地面に剣を突き刺して魔法陣を展開する。
無数に現れた黒い手がイルアーニャとフウカを縛り上げた。
きゃああぁあああああ
フウカが悲鳴を上げる。
イルアーニャが指を動かして、アイカの傷を瞬時に癒した。
「ふぅ・・・フウカ、アイカ、焦らないで。これくらいなんでもないんだから」
「イル・・・・」
黒い手には魔法を封じる力があるにもかかわらず、イルアーニャは提唱無しにアイカの傷を癒していた。
イルアーニャにだけ、ステータス異常無効化の魔法が付与されているな?
「ごほっ・・・ごほっ・・・」
アイカが胸を押さえたまま、手に力を入れて体を起こす。
「あ・・・・」
カラン カラン・・・
フウカの力がどんどん抜けて、杖を落としていた。
額に冷や汗を浮かべている。
「おにい、いいの?」
「まぁ、想定内だな。『星空の魔女』はタフなんだよ」
「そう・・・・」
美憂が剣を握り直した。
「力を吸う手ってすごいね。この手で魔法少女をたくさん殺してきたの?」
イルアーニャが手足を固定されているにもかかわらず、生き生きした目でこちらを見下ろす。
「やっぱり、私、君に興味があるかも」
「俺は妹に攻撃を仕掛けるような奴に興味はない」
「ううん。私たちの強さがわかれば、君も私に興味を持つ。だって、似た者を感じるもの。本当は戦闘が好きでしょ?」
「・・・・・・・・」
「見せてあげるよ。全力で戦わないと、戦いって意味がないもんね。私の全部を見せてあげる」
的をついてくるな。
アイドルらしい笑顔の裏には、俺と似た残酷さを感じた。
「おにいを貴女と一緒にしないで!」
美憂が声を張り上げた。
「何も知らないくせに勝手なこと言わないで。おにいは、いつでも私を守ってくれた。世界一優しいお兄ちゃんなんだから!」
「美憂・・・」
「へぇ、妹ちゃんは騙せてるんだ。いつまでも騙せないと思うけどね」
イルアーニャが目を細めて、自信満々に話していた。
「イル、そろそろ」
「んー・・・・わかってるってば。もうちょっと遊びたかったんだけどな・・・」
面倒くさそうに言う。
少し俯いて何かを唱えると、イルアーニャの体が光り出した。
「!!」
黒い手がするすると解けていく。
「アイカ・・・大丈夫・・・?」
フウカが地面に着くとふらふらしながら、アイカに駆け寄っていった。
アイカを抱きしめて、涙を浮かべている。
タン・・・
地面に足がついても、イルアーニャは詠唱を止めなかった。
美憂を後ろにやって、剣に防御用のコードを刻んでいく。
「詠唱、止めなくていいの?」
「今近づくと、火傷するぞ」
「え・・・・」
「あの魔法を使える魔法少女は少ない」
イルアーニャが唱えていたのは、自分の心臓を魔法石に変えた魔法少女が使える言葉。
強制的な極大魔法陣展開の詠唱だった。
詠唱中に近づけば、真っ先に死ぬ。
アイカとフウカはともかく、イルアーニャは魔神寄りの強さを持っているだろう。
昔、使っていた魔法少女は、1年も経たずに死んだ。
イルアーニャもおそらく1年以内に・・・。




