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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第四章 『RAID5』から

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75/87

52 死なせないんだよ

『魔法少女イルアーニャ、ゲーム名明かさず、容赦ない戦闘方法と高い魔力、統率力により幅広い層からの支持。1か月前から配信を始め、配信者ランキング1位に上り詰める』

 シロナがイルアーニャのPVを流しながら、淡々と説明する。

 ルビーのような瞳を持ち、赤い髪を2つに結んだ14歳くらいの小柄な少女の姿が映っていた。

 2次絵と本人をうまく使い分けている。


「気に食わないな。この子よりえりえりのほうがいいじゃん」

『1位と2位の差はスパチャ、視聴者数、再生回数、どれをとっても二倍の差があります』

「フン、人間って見る目無いな」

 カマエルが鼻息荒くして、文句を言っていた。


「魔力は?」

『星の魔力・・・と記載がありますね』

「あ、この紋章・・・」

 イルアーニャの服の襟に描かれた紋章を見て、口に手を当てる。


「『星空の魔女ウィッカ』の紋章ね」

 ファナがモニターに近づく。


「前回の魔法少女戦争にもいた。星の神々と契約した魔法少女のこと。今回はこの子がリーダーなのね。前のリーダーの子とよく似てる」

「え・・・この子、見たことがある!」

 アクアが間に入り込んだ。


「有名なのか?」

「ほら、つい最近までトップアイドルだった子だよ。カイト、知らない?」

「んー、見たことあるような、無いような」

 美憂が動画を見ていた気がした。


 あまり、興味がないから記憶が薄いが・・・。

 花音なら詳しそうだな。

 

「電撃引退してVtuberになったって噂は聞いてたけど。まさか、魔法少女になっていたなんて」

「確かに可愛い。こっちの二次元絵にそっくり」

 リルムが呟く。


『カイトー、どうしたらいい?』

 フィオーレが画面を切り替えて自分たちを映した。


『せめて敵がどれくらいいるのかは把握したいよね?』

『私たちで叩きますか?』

 ルナリアーナが杖を出して魔法少女たちを見つめる。


『数を把握するくらいはいけると思います』

「いや、2人は戻ってこい。状況はわかった」


「私一人で十分よ」

 ファナが鍵を出す。


「一人でって・・・今の話聞いてた?」

「敵はどれくらいいるかわからないんだ。あの魔法少女の強さも」


「『星空の魔女ウィッカ』との戦闘は経験ある。それに、私死なないの。呪いがあるから」


「駄目だ」


「!!」

 ファナの手首を掴む。


「どうしたんだよ。らしくないな」

「らしくって・・・・離して!」

 ファナが手を振りほどいた。

 手首を押さえながら俯く。


「何があった? 『星の魔女ウィッカ』について、何か思うところでもあるのか?」

「カイトが、また戦場に出るの・・・・?」


「ん?」

「私は死なないからいいの。どんな戦闘にも出れる。もう・・・誰かに置いていかれるのは嫌!」

 急に感情的になって、こめかみを両手で抑えた。


「魔法少女戦争の勝者になった。『ロンの槍』を手に入れて、兄の願いに沿って世界が平和になっていたかもしれない。でも、私はずっと一人。14歳のまま取り残されて、兄が老いて死ぬのも・・・大切な人が亡くなるのを、全部、全部、見なきゃいけなかった」

「ファナ・・・・」

「あの時リリスに負けていればよかった! 負けていれば、あんな苦しみを抱えずに死ねたのに・・・リリスが・・・今回、カイトが死んだら、私はどうしたらいいの?」

 目を赤くしてこちらを見る。


「また・・・」

「大丈夫・・・」

 リルムがファナの言葉を遮って、正面から抱きしめた。


「リルム?」

「あたしもミルムを失ってる。だから、失うことは怖い。もう、誰も失いたくない」

「・・・・・」

「でも、カイトは死なないよ。あたしたちの王だから。死なせないんだよ。私たちもいるから大丈夫。ひとりで背負わないで」


「あ・・・・・・・」

 ファナが堰を切ったように泣いていた。

 

 死なせないか・・・。


 一瞬、カマエルと目が合った。

 何か言おうとしたが、「言うな」と口止めをする。


 シュンッ


「っと、着いた」

「あの塔、見晴らしはいいけど、ちょっと寒かったよね」

「ルナリアーナは露出が高いから・・・・って」

 フィオーレとルナリアーナが転移魔方陣で戻ってきていた。

 こちらを見て、硬直する。


「ど、どうしたの?」

「いや、なんでもない。戦闘準備に入る。ファナ・・・」

 立ち上がってファナの頭を撫でる。


「迷惑かけて悪かったよ。リリスの・・・お前の呪いを解くためにも、もう、死ぬつもりは無い。今回は休んでろ」

「でも、戦力が・・・」


「私たちでいく。ファナ、さっきはごめん。私、仲間のためって言いながら、自分のことしか考えてなかった。ファナの言う通り・・・多くの仲間の死に直面して、魔法少女戦争から逃げたいって思ってたの」

 ティナが凛とした目つきで、モニターを見つめる。


「もう大丈夫。今回は任せて。絶対に勝つから」

「・・・・うん」

 リルムがファナの涙を拭っていた。

 

 ビービービービー


 警報が鳴る。


『動きがありました。3人の魔法少女がセレーヌ城下町に侵入しました!』

「今すぐ陸、空軍と繋げてくれ」

「了解」

 レベッカがモニターに5人の賢者たちを映した。


「カイト、今回も出るの?」

 カマエルがふわふわ浮きながら少し離れる。


「向こうの姫が出てるなら、こっちも王が出なきゃ駄目だろ?」

「戦闘が好きだねぇ」

「元が破壊神だからな」

 笑いながら言う。

 戦場に立つ高揚感を思い出していた。

 

 過去だろうが電子世界だろうが、元々持つ性質は変わらないな。


「いいなぁ、俺も戦いたいな。見ているだけの魔神なんて、退屈過ぎる」

 カマエルがあくびをしながら、ソファーに寝転がった。


「人間が禁忌を犯しそうになったら言ってよ。俺も参戦するから」

「あったらな」

「あーあ、俺も人間に生まれ変わって、エリンちゃんと契約したかったな」

 えりえりの画像をじっと見つめていた。


 ジジジ ジジジジ


『こちら、陸軍第1部隊賢者ガストンだ』

『陸軍第2部隊賢者カオリ』

『空軍第2部隊賢者ゴートン』

『空軍第3部隊バリン』

『空軍第4部隊賢者グリフトです』

 五台のモニターに賢者たちが映る。


「今から、魔法少女の侵入者、バックについてる奴らを囲い込んで攻撃開始する。相手は『星の魔女ウィッカ』というらしい。七陣魔導団ゲヘナに入ったこと、後悔させてやる」


 ザッ


「・・・・・・」

 ティナたちが後ろに整列した。

 賢者たちにセレーヌ城の地図を見せながら、待機位置を指示していく。

 真っ暗な画面越しに、ファナが両手を組んで祈るようにしている姿が見えた。




「おにい!」

 指令室を出ると美憂が駆け寄ってきた。

 ラインハルトがゆっくりと後ろを歩いてくる。


「美憂、ちょうど呼びに行こうと思ってたんだ」

「さっき聞いた話だけど・・・」


「あぁ、純潔の魔法少女の血を感じるよ。美味しそうだな、早く食べたいな」

 ラインハルトが突然、もだえるように言う。


「すぐに飛び掛かれないのが残念。でも、絶望した魔法少女の血を吸うためには仕方のないこと」

「ほら、ラインハルトはこっち」


「おおっと、ハーブティーで口を中を清めてからいこう。美味しい血の前にはハーブティーがいい・・・」

「・・・・・・」

 血を吸うと、性格まで変わったようになるんだな。

 恍惚な笑みを浮かべてふらふらしていた。 


「で、いいんだよね? ねぇ・・・本当に2人で行くの?」

 フィオーレがラインハルトを引っ張りながら不安そうな表情を浮かべる。


「やっぱり、僕も行こうか?」

 アクアが廊下に出てくる。


「僕ならバフもデバフも一通り使えるし、補佐もできる」

「いや、6人は合図を出すまで待っててくれ。モニターに俺たちが映るようにしてあるんだから、そんなに心配するな」


「だって・・・」

 フィオーレとアクアが顔を見合わせる。


 ルナリアーナとティナは武器と装備品を変更して、ステータスを調整しながら待機していた。

 リルムはティナに寄り添って、ノアはお菓子を食べている。


「美憂、いいか? 3人の魔法少女は俺たちで迎えるぞ」

「おにい、2人でゲームやったときのことを思い出して、徹底的にいこうね」


「あのときは、美憂はすぐ負けてたよな。何度俺が生き返らせたか・・・」

「言っておくけど、おにいに花を持たせてあげただけだからね」


「はいはい。こうしてる間も魔法少女たちが迫ってる。急ぐぞ」

「うん!」

 美憂が満足げに頷いて、剣を握り直していた。

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