52 死なせないんだよ
『魔法少女イルアーニャ、ゲーム名明かさず、容赦ない戦闘方法と高い魔力、統率力により幅広い層からの支持。1か月前から配信を始め、配信者ランキング1位に上り詰める』
シロナがイルアーニャのPVを流しながら、淡々と説明する。
ルビーのような瞳を持ち、赤い髪を2つに結んだ14歳くらいの小柄な少女の姿が映っていた。
2次絵と本人をうまく使い分けている。
「気に食わないな。この子よりえりえりのほうがいいじゃん」
『1位と2位の差はスパチャ、視聴者数、再生回数、どれをとっても二倍の差があります』
「フン、人間って見る目無いな」
カマエルが鼻息荒くして、文句を言っていた。
「魔力は?」
『星の魔力・・・と記載がありますね』
「あ、この紋章・・・」
イルアーニャの服の襟に描かれた紋章を見て、口に手を当てる。
「『星空の魔女』の紋章ね」
ファナがモニターに近づく。
「前回の魔法少女戦争にもいた。星の神々と契約した魔法少女のこと。今回はこの子がリーダーなのね。前のリーダーの子とよく似てる」
「え・・・この子、見たことがある!」
アクアが間に入り込んだ。
「有名なのか?」
「ほら、つい最近までトップアイドルだった子だよ。カイト、知らない?」
「んー、見たことあるような、無いような」
美憂が動画を見ていた気がした。
あまり、興味がないから記憶が薄いが・・・。
花音なら詳しそうだな。
「電撃引退してVtuberになったって噂は聞いてたけど。まさか、魔法少女になっていたなんて」
「確かに可愛い。こっちの二次元絵にそっくり」
リルムが呟く。
『カイトー、どうしたらいい?』
フィオーレが画面を切り替えて自分たちを映した。
『せめて敵がどれくらいいるのかは把握したいよね?』
『私たちで叩きますか?』
ルナリアーナが杖を出して魔法少女たちを見つめる。
『数を把握するくらいはいけると思います』
「いや、2人は戻ってこい。状況はわかった」
「私一人で十分よ」
ファナが鍵を出す。
「一人でって・・・今の話聞いてた?」
「敵はどれくらいいるかわからないんだ。あの魔法少女の強さも」
「『星空の魔女』との戦闘は経験ある。それに、私死なないの。呪いがあるから」
「駄目だ」
「!!」
ファナの手首を掴む。
「どうしたんだよ。らしくないな」
「らしくって・・・・離して!」
ファナが手を振りほどいた。
手首を押さえながら俯く。
「何があった? 『星の魔女』について、何か思うところでもあるのか?」
「カイトが、また戦場に出るの・・・・?」
「ん?」
「私は死なないからいいの。どんな戦闘にも出れる。もう・・・誰かに置いていかれるのは嫌!」
急に感情的になって、こめかみを両手で抑えた。
「魔法少女戦争の勝者になった。『ロンの槍』を手に入れて、兄の願いに沿って世界が平和になっていたかもしれない。でも、私はずっと一人。14歳のまま取り残されて、兄が老いて死ぬのも・・・大切な人が亡くなるのを、全部、全部、見なきゃいけなかった」
「ファナ・・・・」
「あの時リリスに負けていればよかった! 負けていれば、あんな苦しみを抱えずに死ねたのに・・・リリスが・・・今回、カイトが死んだら、私はどうしたらいいの?」
目を赤くしてこちらを見る。
「また・・・」
「大丈夫・・・」
リルムがファナの言葉を遮って、正面から抱きしめた。
「リルム?」
「あたしもミルムを失ってる。だから、失うことは怖い。もう、誰も失いたくない」
「・・・・・」
「でも、カイトは死なないよ。あたしたちの王だから。死なせないんだよ。私たちもいるから大丈夫。ひとりで背負わないで」
「あ・・・・・・・」
ファナが堰を切ったように泣いていた。
死なせないか・・・。
一瞬、カマエルと目が合った。
何か言おうとしたが、「言うな」と口止めをする。
シュンッ
「っと、着いた」
「あの塔、見晴らしはいいけど、ちょっと寒かったよね」
「ルナリアーナは露出が高いから・・・・って」
フィオーレとルナリアーナが転移魔方陣で戻ってきていた。
こちらを見て、硬直する。
「ど、どうしたの?」
「いや、なんでもない。戦闘準備に入る。ファナ・・・」
立ち上がってファナの頭を撫でる。
「迷惑かけて悪かったよ。リリスの・・・お前の呪いを解くためにも、もう、死ぬつもりは無い。今回は休んでろ」
「でも、戦力が・・・」
「私たちでいく。ファナ、さっきはごめん。私、仲間のためって言いながら、自分のことしか考えてなかった。ファナの言う通り・・・多くの仲間の死に直面して、魔法少女戦争から逃げたいって思ってたの」
ティナが凛とした目つきで、モニターを見つめる。
「もう大丈夫。今回は任せて。絶対に勝つから」
「・・・・うん」
リルムがファナの涙を拭っていた。
ビービービービー
警報が鳴る。
『動きがありました。3人の魔法少女がセレーヌ城下町に侵入しました!』
「今すぐ陸、空軍と繋げてくれ」
「了解」
レベッカがモニターに5人の賢者たちを映した。
「カイト、今回も出るの?」
カマエルがふわふわ浮きながら少し離れる。
「向こうの姫が出てるなら、こっちも王が出なきゃ駄目だろ?」
「戦闘が好きだねぇ」
「元が破壊神だからな」
笑いながら言う。
戦場に立つ高揚感を思い出していた。
過去だろうが電子世界だろうが、元々持つ性質は変わらないな。
「いいなぁ、俺も戦いたいな。見ているだけの魔神なんて、退屈過ぎる」
カマエルがあくびをしながら、ソファーに寝転がった。
「人間が禁忌を犯しそうになったら言ってよ。俺も参戦するから」
「あったらな」
「あーあ、俺も人間に生まれ変わって、エリンちゃんと契約したかったな」
えりえりの画像をじっと見つめていた。
ジジジ ジジジジ
『こちら、陸軍第1部隊賢者ガストンだ』
『陸軍第2部隊賢者カオリ』
『空軍第2部隊賢者ゴートン』
『空軍第3部隊バリン』
『空軍第4部隊賢者グリフトです』
五台のモニターに賢者たちが映る。
「今から、魔法少女の侵入者、バックについてる奴らを囲い込んで攻撃開始する。相手は『星の魔女』というらしい。七陣魔導団ゲヘナに入ったこと、後悔させてやる」
ザッ
「・・・・・・」
ティナたちが後ろに整列した。
賢者たちにセレーヌ城の地図を見せながら、待機位置を指示していく。
真っ暗な画面越しに、ファナが両手を組んで祈るようにしている姿が見えた。
「おにい!」
指令室を出ると美憂が駆け寄ってきた。
ラインハルトがゆっくりと後ろを歩いてくる。
「美憂、ちょうど呼びに行こうと思ってたんだ」
「さっき聞いた話だけど・・・」
「あぁ、純潔の魔法少女の血を感じるよ。美味しそうだな、早く食べたいな」
ラインハルトが突然、もだえるように言う。
「すぐに飛び掛かれないのが残念。でも、絶望した魔法少女の血を吸うためには仕方のないこと」
「ほら、ラインハルトはこっち」
「おおっと、ハーブティーで口を中を清めてからいこう。美味しい血の前にはハーブティーがいい・・・」
「・・・・・・」
血を吸うと、性格まで変わったようになるんだな。
恍惚な笑みを浮かべてふらふらしていた。
「で、いいんだよね? ねぇ・・・本当に2人で行くの?」
フィオーレがラインハルトを引っ張りながら不安そうな表情を浮かべる。
「やっぱり、僕も行こうか?」
アクアが廊下に出てくる。
「僕ならバフもデバフも一通り使えるし、補佐もできる」
「いや、6人は合図を出すまで待っててくれ。モニターに俺たちが映るようにしてあるんだから、そんなに心配するな」
「だって・・・」
フィオーレとアクアが顔を見合わせる。
ルナリアーナとティナは武器と装備品を変更して、ステータスを調整しながら待機していた。
リルムはティナに寄り添って、ノアはお菓子を食べている。
「美憂、いいか? 3人の魔法少女は俺たちで迎えるぞ」
「おにい、2人でゲームやったときのことを思い出して、徹底的にいこうね」
「あのときは、美憂はすぐ負けてたよな。何度俺が生き返らせたか・・・」
「言っておくけど、おにいに花を持たせてあげただけだからね」
「はいはい。こうしてる間も魔法少女たちが迫ってる。急ぐぞ」
「うん!」
美憂が満足げに頷いて、剣を握り直していた。




