48 夢見の魔法少女ルピス
シロナがモニターを3台出して、流れていくコードを目で追っている。
「何かわかったか?」
『いえ、全てが暗号化されています。キーを自動生成しておりますが、どれも一致しません。発動条件に、生体認証が埋め込まれていた可能性があります』
「うわぁ、すごい処理能力・・・」
レベッカがシロナのモニターを覗き込む。
レベッカの転移魔法で、銀の『魔女』とリリスたちとの戦闘があった場所に来ていた。
空軍機は崩れたまま、砂埃を被っている。
窪んだ岩や、なぎ倒された木々が、戦闘の激しさを物語っていた。
『申し訳ありません』
シロナが動きを止める。
『銀の『魔女』の感染力については不明となります。残っている魔力を頼りにコードを解析しましたが、途中で途切れていて、これ以上の解析は不可能と判断しました』
「そうか。十分だ。ありがとな」
「ひどいね。魔法少女を『魔女』化させて、戦わせるなんて」
「・・・・・」
銀の『魔女』を操っていたのはリリスだ。
周りにいる魔法少女と主は、ファナたちよりも弱かった。
リリスがいる限り、他の魔法少女も銀の『魔女』にさせられる可能性がある。
リリスを助けたかったが、近づくにはリスクも伴うな。
「カイト、大丈夫?」
レベッカが心配そうにこちらを見上げた。
「疲れてる?」
「いや、少し考え事をしてただけだ」
『人間は遺体が残ると聞きますが、何も残らないんですね』
「ここは電子世界だからな」
『・・・・・』
シロナがモニターを消して俯く。
亡くなった戦士たちの亡骸は残らず、電子の粒となって消えていったという。
「ねぇ、あの空軍機ってどうするの?」
『損傷は激しく、元に戻すことはできません。通信機器については悪用される危険性があったため、すぐに回収しております。大きさも残存魔力もあるため完全に消滅させることは不可能かと思われます』
シロナが小さく呟く。
『空軍機はここに残さざるを得ません』
「そっか。私がいたゲームも、結構残酷な部分あったから、こうゆうの慣れてるんだ。人はいずれ死ぬし、物はいずれ壊れるもんね」
『レベッカ・・・』
「私、元が人工知能だし、みんなみたいに、悲しい気持ちにならない。人間みたいに涙が出てこないの。魔法少女サイトの仲間が死んだときもそうだった」
屈んで、砂地に触れる。
『ラナ・プロファイルⅡ』はストーリーが進むにつれて、プレイヤーはキャラを裏切る選択を迫られる。
レベッカは墜落していく国を見ていくことになるキャラだ。
デバッグしていても、印象に残るゲームだった。
「でも、今は婚約者のカイトと一緒だから、人間のことも学んでいかなきゃね」
「だから、婚約じゃないって」
「照れちゃってー」
レベッカが腕を組んでくっついてくる。
『婚約者とは、将来結婚することを約束した相手を指します。将来結婚することを約束した相手を指します』
「シロナ、どうして2回言うんだよ」
『大事なことは2回言うようにプログラムされていますので』
「・・・AIの学習って予測不可能だな・・・」
シロナが心なしか冷たい気がした。
自我がはっきりと芽生えてきているのを感じる。
『予測不可能・・・カイト様のおっしゃる通りですね。私は少々バグがあり、学習能力が劣っているのかもしれません。せっかく連れてきていただいたのに、収穫がないなんて』
「シロナ・・・?」
「んなこと思ってないって」
『多くの魔法少女が亡くなったのに何もできませんでした。申し訳ありません。情報分析、収集すらできない・・・魔法少女アンドロイドを名乗っていますが、役立たずですね』
「いいんだよ。元々、ここに来たのも調査が目的じゃない」
一歩前に出る。
「少し下がってろ」
「?」
― 黒煙の花束 ―
両手を上げて唱える。
紫色の花が地面いっぱいに広がっていき、空へと昇っていった。
『これは・・・・?』
「弔いの花だ。特にこれといった効力はない。かなり昔に聞いた、多くの人間たちを弔ったときの魔法だ」
「綺麗・・・」
レベッカが花を見上げて、息をつく。
『祈り、ですね。死者に向けた祈り・・・』
シロナが手を組み、膝をついていた。
レベッカがシロナを見て、真似するように手を合わせていた。
「わぁ・・・すごい・・・綺麗・・・」
「!!」
「誰?」
空軍機から魔法少女が出てきた。
天に昇っていく花を見つめている。
白銀の短い髪に赤いリボンをつけた、小柄な少女だった。
どこか神秘的で、女神にも似た容姿をしている。
「お前らはここに居ろ」
「カイト!」
地面を蹴って、剣を出した。
ザッ
ガタン
瞬時にコードを埋め込んで、少女に刃先を突きつけた。
ぐにゃりと曲がった手すりが、数メートル離れた地上まで落ちていった。
「ん?」
「お前は誰だ!? 七陣魔導団ゲヘナじゃない魔法少女が、どうしてこの機体の中から出てきた!?」
剣を突きつけられているのに、顔色一つ変えなかった。
他に魔法少女がいる気配は無いが・・・。
「移動中眠くなって、寝る場所を探しにこの機体の中に入った。ふかふかのベッドがあってちょうどよかったよ。七陣魔導団ゲヘナの王カイト・・・真名は魔神サマエル」
「は?」
「私は夢見の魔法少女。夢を見ることで未来予知ができるから、3人がここに来ることは知ってたよ」
目を擦りながら言う。
「『未来予知』なんか信じると思うか?」
「じゃあ、一つ未来を言い当ててあげる」
魔法少女の魔力が高まる。
瞳が、黒から青に変化した。
「今から魔法少女ティナから連絡が来る。内容は、セレーヌ城に2人の魔法少女が現れて戦闘が始まった。カイトが戻った頃には、決着がついている。勝者は魔法少女になったばかりの美憂」
「!?」
「美憂の圧勝だよ」
言い切ると、瞳の色は黒く戻っていった。
「美憂がって・・・」
「どう? さっき見たばかりだから、かなりリアルに覚えてる。美憂はカイトの妹なんだね。『おにい』って呼んでた」
腕を伸ばしてほほ笑んだ。
「・・・・・」
ロストグリモワールによると、魔法少女の中には人の心を読める者もいる。
本当に未来予知なのか、心を読んだだけなのか・・・。
「まだ信じてないの?」
「あぁ・・・・」
「随分警戒するね。まぁ、これだけ仲間が死ねば無理もないか」
後方が欠けた空軍機を見ながら言う。
あまりにも詳細まで知りすぎている。
作り話にしてはリアルだ。
ビーッ
ジジジ ジジジジ
モニターを表示される。
画面にはティナが映っていた。
『ごめん、カイト。魔法少女2人の侵入を許しちゃった。美憂の部屋から近くて、すぐ戦闘が始まったの。ファナとルナリアーナが援護に向かってる』
ティナが早口で言う。
「すぐ戻るよ」
『お願い』
ブチッ
通信が途切れて、モニターが消えた。
「ほらね。慌てなくても大丈夫。カイトが行く頃には、美憂の勝利が確定してるから」
魔法少女が指を左右に動かした。
「私の未来予知は今まで外したことないんだよ」
「七陣魔導団ゲヘナに入るつもりでいるのか?」
「うん。カイトは私を連れていくよ。今後、電子世界で起こる魔法少女戦争を勝ち抜いていくには、未来予知ができる魔法少女が必要になるから」
「・・・・・・・」
剣を消して、足元に散らばる機体の鉄を避けた。
こいつの能力が本物なら、手探りの魔法少女戦争の道しるべとなる。
マントを後ろにやった。
「・・・・名前は?」
「ルピス」
「ルピス?」
「そう、私の名前はルピスだよ。夢見の魔法少女ルピス。よろしくね」
リリスから貰った剣の名前と同じだった。
まぁ、考えすぎか。偶然だろう。
「ついてこい。レベッカに転移魔方陣を展開してもらう」
「りょうかーい」
まったりとした口調で言いながら、後をついてきた。




