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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第四章 『RAID5』から

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47 ごめん、魔法少女になっちゃった

「!?」

 目を覚ますと、セレーヌ城の医務室にいた。


 体を起こす。

 全身がだるく、頭がズキズキした。


 リリスが出した巨大な剣に貫かれて、死んだはずじゃ・・・。

 

「・・・俺・・・」

「目を覚ました。みーんな心配してたんだからね」

 ファナが本に栞を挟んで、テーブルに置く。


「どうして俺が生きてるんだ・・・? 確かに、刃に貫かれた・・・」

「そう。さすがに死んじゃったと思った」


「リリスはどうした!?」

「落ち着いて。カイトがやられた後、他の魔法少女が現れて、強制的に転移させられてた。結局逃がしちゃったの。でも、フィオーレたちは無事だから安心して」


「そうか・・・」

 刺された部分に触れながら、深く息を吐いた。


 リリスは『黄金の薔薇団』に洗脳でもされているのだろうか?


 フィオーレたちが戦っていた魔法少女を辿ることができれば・・。


「カイト・・・・」

「?」

「ううん、なんでもない」

 ファナが何かを言いかけて口をつぐんだ。



 サァァアア



「やっと、起きたんだ。1か月くらい寝てるのかと思ったよ」

 カマエルが医務室に入ってくる。

 ふわっと飛んで、窓の縁に座った。


「カマエル、どうして俺は生きてるんだ? リリスが使ったのは禁忌とされている神殺しの魔法だ。俺は確かに攻撃を受けて、呼吸が止まった」


「俺がサマエル・・・じゃなくて、カイトの魂が肉体から離れる前に、仮死状態にしたんだ」

「仮死状態って」

 カマエルが得意げに笑う。


「・・・カマエルがそんなことできるのか? だって、破壊神だろ?」


「そっか、俺のこと完全に思い出したんだ。一応、これでも魔法少女戦争をずっと見てきたから、昔の俺とは違うよ。人間を仮死状態にして魂を留めるくらいのことはできる」

 指をくるっと動かす。


「でも、蘇生はできないだろ? 魔神は破壊は得意だが、癒すことは苦手だ。できたとしても、かなりのダメージを喰らう。どうやって俺を生かしたんだ?」


「奇跡を起こす方法はあるじゃん。ほら・・・」


「?」

 医務室の入り口に視線を向ける。


「おにい・・・・・」


「え・・・?」


 美憂が心配そうに手を組んで立っていた。

 服は制服から、白いフリルのついた魔法少女のような服に変わっていた。

 胸に光る鍵には、高い魔力が込められている。


「美憂っ・・・」

 ファナやリリスにも匹敵する、魔力を感じた。


「俺が美憂と契約したんだ。美憂の願い・・・カイトを蘇生することを叶えて、魔法少女になった。美憂は元の能力値が高いから、俺の苦手な願いでも叶えられたよ」

 カマエルが指を回してリンゴを出す。


「七陣魔導団ゲヘナの魔法少女よりも断然強い魔法少女だ」

 ファナがちらっとカマエルのほうを見る。


「ファナにも匹敵するかもね」

「潜在能力はね」

 髪を後ろにやって、壁に寄りかかった。


「美憂・・・お前・・・」


「ごめんね、おにい。魔法少女になっちゃった。でも、誰も悪くないからね!」


 タッタッタ・・・


 美憂が慌てて、駆け寄ってくる。 


「私、魔法少女になりたかったの。やっぱり、みんなと同じ魔法少女になって戦いたい・・・おにいが私を守ってくれるように、私もおにいを守りたいの!」

「・・・・・・」


 俺が自分を責めると思ったのか、必死に話していた。


「美憂がそう思ってくれてるのは、わかってるよ」

「よかっ・・・・」


「でも、やっぱり・・・美憂だけは、魔法少女になってほしくなかったんだ・・・普通の女の子としての幸せを掴んでほしかった・・・」

 力ない声で呟いた。


「おにい・・・・」


 パンパン


 ファナが手を叩く。


「はい、ウジウジしない。せっかく、美憂がカイトを救ったのよ。まずは、ありがとうじゃない?」

「ファナ!」

「王とか兄とか関係ない。礼儀よ」

 腕を組んで口を尖らせた。


「・・・そうだな。悪い、ありがとな、美憂」

「ううん。これからは無茶しちゃ駄目だからね。戦闘になったら、ちゃんと私も連れて行ってね! 絶対力になれるから!」

「はいはい」


 適当に返事したものの、美憂は連れて行く気にはならなかった。

 美憂がほっとしたような顔をする。


「私たちも美憂に感謝してる。カイトがいなきゃ、七陣魔導団ゲヘナは潰れちゃうからね。美憂、カイトが起きたこと、ティナたちに伝えに行こう」

「そうね。急に起きたって言ったら、びっくりするかも」

 美憂が嬉しそうに口に手を当てた。


「言っておくけど、カイトが目覚めなかった2週間の間、どれだけ心配してたか想像できる? ティナは急に泣くし、ミーナエリスは泣きっぱなしだし、ノアとアクアは何を言っても上の空だし、フィオーレもリルムも落ち込んで部屋から出ないし、壊滅状態だったんだから」

 ファナが強い口調で言う。


「おにいがこんなに、人気者になるなんてなぁ。妹としては複雑だけどね」

「からかうなって」

「からかってないもん。本当のことだもん」

 美憂が部屋のドアを開けた。


「あと・・・・」

 ファナが背を向けたまま続ける。


「・・・・56人の魔法少女と、亡くなった戦士たちはちゃんと弔ったから」

「あぁ・・・ありがとう。俺もあとで祈りにいくよ」

「・・・うん・・・」


 2人が医務室から出ていった。


 空軍第一部隊は壊滅状態だ。

 一刻も早く、立て直しをしなければいけなかった。


 まずは状況を、ファナとラインハルトに聞かないとな。


「サマエル」

「今はカイトだ。あまり魔神の名前で呼ぶな。警戒されるだろ」


「りょーかい。ややこしいんだよね」

 カマエルがふらっと降りてきた。


「リリスの攻撃に触れたら、ちゃんとリリスの呪いも思い出したでしょ?」

「呪いだとは思ってないって」


「呪いだよ。サマエルは、魔界の王でありながら、何度も人間として生まれ変わっている。リリスの呪いを受けたからだ。魔法少女戦争に参加するのだって、何回目だよ」

 カマエルがリンゴの芯を燃やした。


「毎回、記憶を失って人間の子として生まれ変わるから、人間になりきろうとするんだよね。でも、難しいだろ? 元は魔界の王なんだから」


「・・・・美憂は、三賢のメイリアの妹、ユウミの生まれ変わりだな?」

「そうだよ」

 あっさりと言う。


「美憂の魂は『聖杯』を手に入れた純潔の乙女、ユウミと同じだ」


「美憂は俺の妹だ。救いだった。魔法少女になんかしたくなかったんだ」


 美憂だけは、絶対に魔法少女戦争に巻き込みたくなかった・・・。

 『ロンの槍』が美憂を求めているのか、『聖杯』が呼んでいるのか。


「無理だよ。運命だ。彼女は魔法少女にならなきゃいけない。はじまりに関わる者なんだから」

 カマエルが諭すように話した。



 ドッドッドッドッド・・・・


 バタン


「カイト!!!」

「カイト様!」

「ルナリアーナ!」

 ルナリアーナが手前のベッドを飛び越えて、抱きついてきた。


「あぁ・・・カイト様のぬくもり・・・」

「もう、王不在の間どれだけみんな心配したと思ってるの!!」

「あー! またルナリアーナくっついてる」


「離れて。カイトは目を覚ましたばかりなんだから」

「負担になっちゃうでしょ? もう一回倒れちゃったら大変よ」

 ノアとフィオーレがルナリアーナを引き剥がした。


「だって、カイト様が目を覚まさなかったらって思うと・・・心配で心配で心配で心配で」

 目をウルウルさせながら言う。


「心配って言い過ぎ」

「ねぇ、カイト。僕もお菓子作れるようになったんだ。食べる? 指令室に置いてあるよ」

「カイト様、私と一緒にお風呂に入りましょ? 私、カイト様となら・・・」

「だーめ!」

 ティナとリルムが同時に言った。


「相変わらずやかましいな・・・」

 頭を搔く。

 

「なんで、どこの時代にいってもサマエルばかりモテるんだよ。ったく」

 頭上からカマエルのぼやきが聞こえた。

 

 ドア付近では、美憂がファナの耳元で何か言って、笑っていた。

 絶対、俺のことだな。


 6人の魔法少女が医務室にも関わらず、しばらく騒いでいた。 

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