47 ごめん、魔法少女になっちゃった
「!?」
目を覚ますと、セレーヌ城の医務室にいた。
体を起こす。
全身がだるく、頭がズキズキした。
リリスが出した巨大な剣に貫かれて、死んだはずじゃ・・・。
「・・・俺・・・」
「目を覚ました。みーんな心配してたんだからね」
ファナが本に栞を挟んで、テーブルに置く。
「どうして俺が生きてるんだ・・・? 確かに、刃に貫かれた・・・」
「そう。さすがに死んじゃったと思った」
「リリスはどうした!?」
「落ち着いて。カイトがやられた後、他の魔法少女が現れて、強制的に転移させられてた。結局逃がしちゃったの。でも、フィオーレたちは無事だから安心して」
「そうか・・・」
刺された部分に触れながら、深く息を吐いた。
リリスは『黄金の薔薇団』に洗脳でもされているのだろうか?
フィオーレたちが戦っていた魔法少女を辿ることができれば・・。
「カイト・・・・」
「?」
「ううん、なんでもない」
ファナが何かを言いかけて口をつぐんだ。
サァァアア
「やっと、起きたんだ。1か月くらい寝てるのかと思ったよ」
カマエルが医務室に入ってくる。
ふわっと飛んで、窓の縁に座った。
「カマエル、どうして俺は生きてるんだ? リリスが使ったのは禁忌とされている神殺しの魔法だ。俺は確かに攻撃を受けて、呼吸が止まった」
「俺がサマエル・・・じゃなくて、カイトの魂が肉体から離れる前に、仮死状態にしたんだ」
「仮死状態って」
カマエルが得意げに笑う。
「・・・カマエルがそんなことできるのか? だって、破壊神だろ?」
「そっか、俺のこと完全に思い出したんだ。一応、これでも魔法少女戦争をずっと見てきたから、昔の俺とは違うよ。人間を仮死状態にして魂を留めるくらいのことはできる」
指をくるっと動かす。
「でも、蘇生はできないだろ? 魔神は破壊は得意だが、癒すことは苦手だ。できたとしても、かなりのダメージを喰らう。どうやって俺を生かしたんだ?」
「奇跡を起こす方法はあるじゃん。ほら・・・」
「?」
医務室の入り口に視線を向ける。
「おにい・・・・・」
「え・・・?」
美憂が心配そうに手を組んで立っていた。
服は制服から、白いフリルのついた魔法少女のような服に変わっていた。
胸に光る鍵には、高い魔力が込められている。
「美憂っ・・・」
ファナやリリスにも匹敵する、魔力を感じた。
「俺が美憂と契約したんだ。美憂の願い・・・カイトを蘇生することを叶えて、魔法少女になった。美憂は元の能力値が高いから、俺の苦手な願いでも叶えられたよ」
カマエルが指を回してリンゴを出す。
「七陣魔導団ゲヘナの魔法少女よりも断然強い魔法少女だ」
ファナがちらっとカマエルのほうを見る。
「ファナにも匹敵するかもね」
「潜在能力はね」
髪を後ろにやって、壁に寄りかかった。
「美憂・・・お前・・・」
「ごめんね、おにい。魔法少女になっちゃった。でも、誰も悪くないからね!」
タッタッタ・・・
美憂が慌てて、駆け寄ってくる。
「私、魔法少女になりたかったの。やっぱり、みんなと同じ魔法少女になって戦いたい・・・おにいが私を守ってくれるように、私もおにいを守りたいの!」
「・・・・・・」
俺が自分を責めると思ったのか、必死に話していた。
「美憂がそう思ってくれてるのは、わかってるよ」
「よかっ・・・・」
「でも、やっぱり・・・美憂だけは、魔法少女になってほしくなかったんだ・・・普通の女の子としての幸せを掴んでほしかった・・・」
力ない声で呟いた。
「おにい・・・・」
パンパン
ファナが手を叩く。
「はい、ウジウジしない。せっかく、美憂がカイトを救ったのよ。まずは、ありがとうじゃない?」
「ファナ!」
「王とか兄とか関係ない。礼儀よ」
腕を組んで口を尖らせた。
「・・・そうだな。悪い、ありがとな、美憂」
「ううん。これからは無茶しちゃ駄目だからね。戦闘になったら、ちゃんと私も連れて行ってね! 絶対力になれるから!」
「はいはい」
適当に返事したものの、美憂は連れて行く気にはならなかった。
美憂がほっとしたような顔をする。
「私たちも美憂に感謝してる。カイトがいなきゃ、七陣魔導団ゲヘナは潰れちゃうからね。美憂、カイトが起きたこと、ティナたちに伝えに行こう」
「そうね。急に起きたって言ったら、びっくりするかも」
美憂が嬉しそうに口に手を当てた。
「言っておくけど、カイトが目覚めなかった2週間の間、どれだけ心配してたか想像できる? ティナは急に泣くし、ミーナエリスは泣きっぱなしだし、ノアとアクアは何を言っても上の空だし、フィオーレもリルムも落ち込んで部屋から出ないし、壊滅状態だったんだから」
ファナが強い口調で言う。
「おにいがこんなに、人気者になるなんてなぁ。妹としては複雑だけどね」
「からかうなって」
「からかってないもん。本当のことだもん」
美憂が部屋のドアを開けた。
「あと・・・・」
ファナが背を向けたまま続ける。
「・・・・56人の魔法少女と、亡くなった戦士たちはちゃんと弔ったから」
「あぁ・・・ありがとう。俺もあとで祈りにいくよ」
「・・・うん・・・」
2人が医務室から出ていった。
空軍第一部隊は壊滅状態だ。
一刻も早く、立て直しをしなければいけなかった。
まずは状況を、ファナとラインハルトに聞かないとな。
「サマエル」
「今はカイトだ。あまり魔神の名前で呼ぶな。警戒されるだろ」
「りょーかい。ややこしいんだよね」
カマエルがふらっと降りてきた。
「リリスの攻撃に触れたら、ちゃんとリリスの呪いも思い出したでしょ?」
「呪いだとは思ってないって」
「呪いだよ。サマエルは、魔界の王でありながら、何度も人間として生まれ変わっている。リリスの呪いを受けたからだ。魔法少女戦争に参加するのだって、何回目だよ」
カマエルがリンゴの芯を燃やした。
「毎回、記憶を失って人間の子として生まれ変わるから、人間になりきろうとするんだよね。でも、難しいだろ? 元は魔界の王なんだから」
「・・・・美憂は、三賢のメイリアの妹、ユウミの生まれ変わりだな?」
「そうだよ」
あっさりと言う。
「美憂の魂は『聖杯』を手に入れた純潔の乙女、ユウミと同じだ」
「美憂は俺の妹だ。救いだった。魔法少女になんかしたくなかったんだ」
美憂だけは、絶対に魔法少女戦争に巻き込みたくなかった・・・。
『ロンの槍』が美憂を求めているのか、『聖杯』が呼んでいるのか。
「無理だよ。運命だ。彼女は魔法少女にならなきゃいけない。はじまりに関わる者なんだから」
カマエルが諭すように話した。
ドッドッドッドッド・・・・
バタン
「カイト!!!」
「カイト様!」
「ルナリアーナ!」
ルナリアーナが手前のベッドを飛び越えて、抱きついてきた。
「あぁ・・・カイト様のぬくもり・・・」
「もう、王不在の間どれだけみんな心配したと思ってるの!!」
「あー! またルナリアーナくっついてる」
「離れて。カイトは目を覚ましたばかりなんだから」
「負担になっちゃうでしょ? もう一回倒れちゃったら大変よ」
ノアとフィオーレがルナリアーナを引き剥がした。
「だって、カイト様が目を覚まさなかったらって思うと・・・心配で心配で心配で心配で」
目をウルウルさせながら言う。
「心配って言い過ぎ」
「ねぇ、カイト。僕もお菓子作れるようになったんだ。食べる? 指令室に置いてあるよ」
「カイト様、私と一緒にお風呂に入りましょ? 私、カイト様となら・・・」
「だーめ!」
ティナとリルムが同時に言った。
「相変わらずやかましいな・・・」
頭を搔く。
「なんで、どこの時代にいってもサマエルばかりモテるんだよ。ったく」
頭上からカマエルのぼやきが聞こえた。
ドア付近では、美憂がファナの耳元で何か言って、笑っていた。
絶対、俺のことだな。
6人の魔法少女が医務室にも関わらず、しばらく騒いでいた。




