19 三位一体の考え 聖霊=魔法少女
シュンッ
「着いたぁ」
リリスとマリアとメイリアが転移してきて、草むらに足を降ろした。
リリスが杖を両手で持って、転移魔方陣を消す。
「ふぅ・・・みんな、ありがとう」
髪をくるんと巻いたマリアが後ろを振り返る。
「お父様・・・国王も誇らしいって。本当に喜んでくれたわ」
「マリアが生きてたって、国中大騒ぎだったもんね。神様が生き返らせた奇跡の少女だって」
「大げさなのよ」
マリアが苦笑いする。
「授与式、すごく緊張したね。心臓飛び出るかと思った」
「リリス、足と手が同時に出てたよ」
「え!? 全然気づかなかった」
「そう言う、メイリアも階段踏み外しそうになってたじゃない」
「だってぇ、ルーリア家の親戚一同来たんだもん。びっくりして転びそうになっちゃったよ」
「私も自分の名前嚙んじゃった」
笑い声が響く。
3人はリシテア王国から世界を救った功績を讃えて、勲章を授与されていた。
城下町では三賢者の誕生を讃えて、盛大な祭りが開かれている。
「サマエル、見てみて。お揃いのワンピース、似合うでしょ?」
リリスがくるっと回って、紺色のワンピースをなびかせた。
「似合う似合う」
「なんか適当・・・」
「他にどういえばいいんだよ」
「うーん」
「・・・・・・」
マリアと目が合うと、淡いピンク色のワンピースをつまんでお辞儀していた。
「そういえば、今日はユウミは来ないのか?」
「ユウミはメイドと一緒に屋台を周りたいんだって」
「そうか・・・・」
本を閉じて、木から降りていく。
ザッ
「なるほど」
クロノスが現れて、分厚い紙の束を開いた。
深い緑のマントを羽織っていて、中性的な顔立ちしている。
「え? サマエルと同じ、神様?」
「時の神、クロノスだ」
「クロノス・・・?」
マリアが首を傾げる。
「すごい、顔立ちの整った神様ね。美青年? 美少年?」
「普段は老人の姿だよ。時の神が人間界に降りてくるときは、容姿が重要らしくてね」
「へぇ・・・・」
メイリアがクロノスを覗き込んでほほ笑んだ。
「リシテア王国の姫、マリア。ルーリア家の令嬢メイリア、魔神の花嫁リリスか・・・んー、『聖杯』が魔法を与えた・・・神々が混乱するのも無理ないか。サマエル、俺の認識合ってる?」
「あぁ、間違ってない」
「じゃあ、よかった」
ページをめくりながら言う。
「とりあえず、場所を移動するよ。サマエル、君も来るんだろ?」
「あぁ」
マントを羽織り直す。
「ど、どこにいくの?」
リリスが戸惑いながら杖を握り締めていた。
「時空に浮かぶ小さな部屋だよ」
「!?」
「俺の時計が、君らを要注意人物とみなした。話をしよう。一度、この時間軸から離れる」
バサッ
クロノスが紙束を投げて消す。
地面には時計の模様の魔法陣が展開されていた。
カチッ
「きゃっ」
一瞬で景色が切り替わる。
音も匂いも無い空間。
時空間に浮かぶ、小さな小屋だった。
「び、びっくりしたね」
「うん。あれ? メイリア・・・?」
やっぱりな・・・。
「メイリア!!!!」
メイリアは時空に浮かぶ小屋に来ると同時に、石化していた。
「どうして!? メイリア!」
「リリス、私たちの魔法の中に何かあるかもしれない! 焦らないで探してみようよ。奇跡だって起こしてきたじゃない」
「うん・・・」
リリスが杖を消して、メイリアの手に触れる。
「冷たい・・・」
「これは代償だ。どんな魔法を使っても、代償からは逃れられない」
石化したメイリアに語り掛けるように言う。
「そんな・・・」
「どうしてメイリアだけ? 私たちも同じ代償を受けるんじゃないの!? 一緒に魔法を使ってたんだから!」
「そうだね。メイリアが一番魔力を消耗していたから、先に代償を受けて、石化した」
クロノスが宙に砂時計を浮かべる。
「け・・・契約すれば、サマエル、神と契約すればいいって・・・」
「契約は収まりきらない力を制御できるようにするためだ。人間が魔法を授かった代償は避けられない。お前らは悪くないが、神々にも火種をもたらしたんだ」
声を低くする。
「時間は容赦ない。マリア、君は元々契約していたようだね」
「え・・・・契約?」
「記録に残っていた。契約した神の名は・・・まぁ、そのうち思い出すだろう。神々との契約に口を挟みたくない。ヒントを出すなら、永遠の輪廻と魔法少女戦争への参加、ってところか」
砂時計から真っ白な砂が落ちていく。
指を鳴らすと、砂時計の砂が止まった。
「どうゆうこと・・・なの?」
マリアが顔を真っ青にしていた。
「未来については細かく口出せないんだ。俺のせいで未来が変わったら、色んな神々から好き放題文句言われるからね。時の神というのも、損な役回りだよ」
クロノスが青い髪をかき上げる。
「メイリアは・・・もう、戻らないの?」
リリスがメイリアの石像に抱きつく。
「こんなに・・・今にも動き出しそうなのに。私、ユウミちゃんになんて言ったらいいか・・・・」
「リリス・・・」
「メイリアがいないと、私たち・・・三賢なの。三人で三賢なの・・・・せっかく、せっかくできた私の大切な友達なの」
マリアとリリスが寄り添って泣いていた。
「これからの未来を影響ない範囲で説明しておこう」
クロノスが椅子に座って足を組む。
青年にも少年にも見えるような顔立ちだった。
「これから君らには神と契約し、魔法少女とならなければいけない。『聖杯』と同時に現れた『ロンギヌスの槍』というものがある。神と契約し、人間の主を見つけて契約する」
「何それ・・・・・・」
「三位一体の考えだ。神と子と聖霊により、世界の秩序を守る仕組み」
「三位一体?」
「・・・わ、わからないわ。急にそんなこと言われても」
リリスもマリアも震えていた。
しゃがんで、リリスとマリアの頭を撫でる。
「お前らは三位一体であるところの聖霊・・・人間でも神でもない魔法少女として生きるという意味だ」
「魔法少女・・・って、あの・・・」
リリスが言いかけて言葉が続かなかった。
当然だ。
14歳の少女にこの運命は重すぎる。
この大陸の救世主となったのにな。
「魔法少女となれば、魔法少女戦争に関わる人間以外から、お前らの姿は見えなくなる」
「!?」
「『聖杯』が現れた次の新月から、魔法少女戦争の下地が揃う。『ロンギヌスの槍』・・・『ロンの槍』を手に入れた者を中心として世界が進むようになるんだ。君らには先に説明しておくよ。最初の魔法少女となる者だからね」
クロノスが指を動かしてカーテンを開ける。
外は時空の光りが流れ星のように流れていた。
「気の毒だとは思うよ。でも、これがこれから起こる世界。元の世界に戻れば、君らは、強制的に魔法少女戦争の最初の参加者となる」
「・・・・・・・」
「受け入れられるまで、ここで休んでいくといい。時間の流れがないから、好きなだけいていいよ。あ、ハーブティーを用意しよう」
クロノスが立ち上がって、キッチンに立っていた。
しばらくすると、ラベンダーの香りが広がった。
「あの魔法少女リリスが言っていた通り・・・あれはやっぱり私だったのね・・・・私が『聖杯』の水さえ飲まなければ、魔法少女アンドロイドと戦う必要なんてなかったのに」
「ううん。私たちが『聖杯』の水を飲まなきゃ、みんなを救えなかった」
「でも・・・・・」
「間違ってないよ・・・これしか選択肢がなかったんだから・・・・」
「受け入れられない・・・魔法少女だなんて」
リリスが手で顔を覆ってしゃくりをあげる。
「『ロンの槍』を手に入れれば、3人の受けた代償も解ける。辛いし怖いかもしれないけど、魔法少女戦争に参加するしか・・・」
「うぅっ・・・サマエル」
「うわぁーん」
「・・・・・」
リリスとマリアが同時に抱きついてきた。
頭を撫でる。
「・・・・・・・」
人目もはばからず大声で泣く2人を見て、クロノスが何も言わずにハーブティーを注いでいた。




