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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第三章 最初の罪

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16 ねぇ、④

「サマエル、今すぐメイリアとマリアのところに行くね」

 リリスがスカートをなびかせて、空を見上げる。


「待て、ユウミはどうした?」

「私が作った転移魔方陣で、メイリアたちのところに飛ばしたの」


「転移魔法って・・・・・」

 あり得ない。


 人間がすぐに転移魔方陣を展開できるなんて・・・。


「リリス、僕は貴女を許しません。よくも兄さんを、陥れましたね」


 ミハイルがよろけながら、何とかリリスの魔法を解いていた。

 力を使い切ったのか、かなり弱体化している。


「天使が・・・セフィロトの神々が許すことはないでしょう。ここで逃げられると思わないでくださいね」


「私は逃げられないし、運命から逃れられないってわかってる。魔法を使えるようになって、色んなことを理解した」

 リリスが凛とした口調で言う。


 足元に転移魔方陣を展開していた。



「じゃあ、後でね。サマエル。ゆっくり休んで」

「俺も連れて行け」

 岩を掴んで、リリスの隣に降りていく。


「でも、サマエル、まだ力が戻ってないでしょ?」

「俺を見くびるなよ。これくらいの傷、何でもない」


「・・・そっか。ありがとう」

 リリスが両手で杖を持って頷く。


「兄さん・・・・!」

 ミハイルが何かを言いかけたが無視した。


 詠唱無しに、魔法陣が輝く。



 シュンッ



「リリス、サマエル!」

「フン、やっと来たか」

 目を開けると、ヘカテーの結界の中に入っていた。


 結界の外では、数体の魔法少女アンドロイドたちがじっとこちらを見つめている。

 魔法少女リリスはどこにも見当たらなかった。


「気が抜けないんだよ、こいつら」

 カマエルが結界の前で、9つの剣を宙に浮かせていた。

 刃先を魔法少女アンドロイドたちに向けている。



「いや、いや、いや・・・こんなのってないよ・・・ユウミ・・・冗談止めてよ」

 メイリアが悲痛な声を上げる。

 ユウミがメイリアの腕の中で息絶えていた。


「ユウミ、ユウミ、起きて!!」

「ユウミちゃん・・・」

 リリスが駆け寄っていく。


「どうした? 何があった?」

「ユウミが『聖杯』を持って転移して来た。すぐにマリアが『聖杯』の水を飲んだんだ。数分後、ユウミが突然倒れて、息を引き取った」


「は・・・?」


「信じられないだろ? 何の前触れも無かった。呪いを受けたようにも見えない」

 ヘカテーが結界を強化し続けながら言う。


「『聖杯』の意志は私にもわからん。確かなのは、『聖杯』をマリアに渡し、再度受け取った後、ユウミが死んでしまったということだ」


「ちなみにマリアは魔法陣を展開して、リシテア王国に行ったよ。自分の国を守るって強引にね。魔法少女アンドロイドの攻撃は全て避けていったよ」

 カマエルが息をつく。


「俺たちでさえこんなに苦戦しているのに。その『聖杯』の水って、正直、かなりヤバいと思うよ」


「・・・・・・・」

 リリスが不安そうな顔をしていた。


 『聖杯』は何を始めようとしている?


 メイリアの足元に転がった『聖杯』を見つめる。

 素材は古い木だった。真ん中に百合の紋章が描かれている。


「魔法少女アンドロイドの攻撃は一時休戦か?」


「作戦でも練っているのかもな」

「最悪だよ。あいつら、マジで強いんだ。ずっと気を張ってなきゃいけない」

 カマエルが背を向けたまま、舌打ちした。


「こうやって、抑え込むのがやっとだ」


「リリス、魔法使えるようになったの?」

 メイリアが泣きはらした顔を上げる。


「うん」

「ユウミを生き返らせること、できないかな?」


「えっと・・・・」

 リリスがユウミの手に触れる。


「無理だ」

 メイリアとリリスの会話に口を挟んだ。


「蘇生は魂がここになきゃ、できない。ユウミはもう既に死んでるから、魂がここにないんだ」

「回復が得意な女神の力を以ても、不可能だな」

  

「そんな・・・」


 スウゥウウ


 地面に転がっていた『聖杯』が、突然浮き上がる。


「・・・・!」

 音もなく、メイリアの前で止まった。


 急に水が溢れ出す。


「なんだ!?」


「・・・『聖杯』の水を飲めば、私も魔法が使える。私が願うなら、ユウミを蘇らせることも可能だって言ってる・・・」

「え・・・私には何も聞こえないけど・・・」


「『聖杯』が私を選んでくれた。力を与えてくれる・・・・って」

 メイリアが泣きながら、聖杯を両手に持った。


「落ち着け」

 

 キィンッ


 メイリアに剣を向ける。


「あの・・・魔法少女のリリスに聞いただろ? メイリアが聖杯の水を飲んで、魔法を使えるようになれば石化する」

「私がどうにかできないかやってみるから! 少し時間を頂戴!」

 リリスが重ねるように言った。


「神としても、得体が知れないんだ。何かの罠かもしれない」

「普段はサマエルに同意することなどないが、今回は同意だ。『聖杯』とやらの声は、我々神々にも聞こえぬ。胡散臭いからな」

 ヘカテーが横目でメイリアを見る。


「でも、『聖杯』が私に言ってる。ユウミを生き返らせる力を与えるって」


「・・・・私には聞こえないよ」

「私にだけ語りかけてるのね」

 メイリアがユウミの髪を撫でる。


「私がしっかりしていなかったからいけないの・・・私のたった一人の妹・・・でも、もう大丈夫。私はどんな罪を負ってでも、この子を生き返らせたい」

 メイリアが『聖杯』の水を見つめる。


「この水を飲めば・・・」

「石化してもいいの!?」

 リリスが必死に言う。


「怖いって言ってたじゃない。私もメイリアが石化したら・・・」

「リリスだって絶対に失いたくない者、いるでしょ?」


「それは・・・・」

「私にとって、ユウミがそうゆう存在なの。ユウミはこんなダメダメな姉でも、お姉ちゃんって慕ってくれて・・・だから、今度は私がユウミを助ける番」

 メイリアがほほ笑んだ。


 『聖杯』の思う通りに、事が運んでいるようにしか思えない。

 ユウミの死さえも仕組まれたようだった。


 ドンッ


 魔法少女アンドロイドが槍を持って突っ込んできた。

 ヘカテーの結界を強引に破ろうとしている。


 ジジジジジジ ジジジジジジジ


「ったく、俺らより化け物じみてるよ」


 ザッ


 カマエルが結界を突き抜けて、3本ずつ剣を魔法少女アンドロイドに突き刺す。


「!!」

「こいつら死なないんだ」


『"119"負傷、性能に異常なし』

『"003"同じく異常なし』

 剣が刺さったまま、魔法少女アンドロイドが続ける。 


『メイリアが『聖杯』の水を飲むと、石化します。危険です』

『三賢のリリスの記憶です。未来永劫、石化したままの状態になります』

 魔法少女アンドロイドが剣が刺さったまま言う。 


「・・・ふうん、私が魔法使えるようになると、そっちの子たちにとっても都合悪いのね」

 メイリアが鼻で笑う。


「メイリア」

「リリス、私は大丈夫」


 ごく・・・


 メイリアが一気に『聖杯』の水を飲み干した。

 

「!?」


 サァァアアアアアア

 

 流れるように、メイリアの体に力が宿るのを感じた。


「だ、大丈夫!?」

「わかる。魔法が使える、魔法が流れてくる」


 目を閉じて、指を動かす。

 杖が現れた。


 ― 魂呼蘇生フェニックス


 シュウウウウ


 空から炎に包まれた鳥が飛んできて、ユウミの体を通過していった。

 ユウミがゆっくりと片目を開ける。


「お姉ちゃん・・・・?」

「ユウミ、よかった!」

 メイリアがユウミに抱きついた。


「ごめんね、ユウミ。心配ばかりかけて、お姉ちゃんの私がしっかりしなきゃいけないのに」

「お姉ちゃん、まさか魔法を使ったの? 『聖杯』の水を飲んだの?」

「そう、私魔法を使えるようになった」


「大丈夫・・・なの?」

「うん。大丈夫、今のところ石化するような感じもないし」

 メイリアが自分の腕を見ながら言う。


「あのリリスの話、嘘だったのかな?」

「お姉ちゃん、ありがとう!」


「もう、ユウミ、危ないことしちゃ駄目だからね」

「はーい」


「よかったー! ユウミちゃん! メイリア!」

「リリス、倒れるって」

「わ、リリスお姉ちゃん苦しいよ」

 リリスがユウミとメイリアを抱きしめていた。 


「・・・・・・」

 メイリアとユウミのやり取りを聞きながら、ヘカテーとカマエルと目が合った。


 おそらく考えていることは同じだ。 


 リリスの力も、メイリアの力も、人間が持つ力ではない。

 神と契約して制御しなければ、世界の理を脅かす力だ。

 

 早くしないと、代償を受けてしまうだろう。


 『聖杯』はいつの間にか消えていた。

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