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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第三章 最初の罪

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14 ねぇ、②

「このルルベの街を越えた、森の中心部に泉があるの。乙女の祈りにより、『聖杯』が現れるって書いてあった」

 ユウミが地上を指す。


「よくそんな詳細に覚えられたな」

「私、ルーリア家の天才って言われてるの。将来は学者になるの」

「はは、そうか」

 自慢げに話していた。


「空から見ると、地上の人って小指の先くらいしかないんだね。みんな、ちっちゃい」

 明るい声で言う。

 ユウミは今の状況でも混乱することなく、冷静に『聖杯』の位置を説明していた。


 『聖杯』がユウミを呼んでいるのかもしれない。



「・・・ユウミちゃん、地上の人たちを見て、怖くないの?」

 リリスが抱えられたまま、力の抜けたような声を出す。


「私、怖くて仕方ないよ。急にあんな魔法陣が現れて、魔法少女あんどろいど・・・人間を殺そうとする魔法少女も出てきて、この大陸を支配しようとしている」


「何もしないで、みんなが殺されるほうが怖い・・・かもしれない」


「・・・・・・」


「・・・私、わからないけど・・・いつどんな時も、ルーリア家の者として、恥じることが無いようにって、お父様に言われてるから」

 小さな体からは恐怖を押さえているのが伝わって来た。


「自分にできることは精一杯やりたい、やらなきゃいけないって思ってるの」 

「そ、そうだよね」


「2人とも、今は『聖杯』を見つけることに集中しろ。魔法少女が現れても、クリフォトの神々が守るだろう。一方的な虐殺にはならない」


「サマエル、クリフォトの樹って何?」

「まぁ・・・説明すると長くなる。あとでな。速度を上げるぞ」


「ふわっ」

 翼を斜めにして、加速していった。

 追いかけてくる魔法少女たちは、誰一人としていない。


 吸い寄せられるように、『聖杯』のある場所へと向かっていた。





「ここだな」

「うん」

 人が入らない、森の奥深くで地上に降りる。

 ユウミの言うように、小さな泉があり、清らかな水が湧き出ていた。


 ギルドの人間もこの地までは辿り着けなかったか。


 ちょうど魔法陣から外れた位置にあった。


「久しぶりに空を飛んだ気がする。やっぱり、空を飛ぶって楽しいね」

 リリスが神を耳にかけた。


「リリス、また少し太ったか?」

「えっ、最近食べ過ぎちゃってるから。痩せないと」

「ねぇねぇ」

 ユウミがリリスの服を引っ張る。


「リリスお姉ちゃんは魔法少女になったら何するの?」

「え・・・?」

 無邪気に聞いていた。


「魔法少女・・・私は・・・本当は魔法少女になりたくないかな。あんなふうに、なりたくない」

 作り笑いをしながら、空を見上げる。


「リリス・・・」

「でも、ちゃんと魔法少女になるよ。魔法陣を止められるかわからないけど・・・・・彼女は私だもんね。でも・・・」


 リリスが屈んだ。


「ユウミちゃん、もしね、私が魔法少女になって、あんなふうになったらどうする? もう、メイリアもユウミちゃんも、マリアも、友達になってくれないよね・・・」


「リリスお姉ちゃんは絶対にあんなふうにならないよ!」


「・・・・・・・」

「お姉ちゃんからよく聞いてたの。リリスはいつも料理をたくさん用意してくれて、天然で可愛らしくて、誰にでも優しいって」

 ユウミがリリスの手を握り締める。


「リリスお姉ちゃんは、優しいことのために、魔法を使うと思う」

「優しいこと・・・・」

「うん」

 リリスが目を潤ませて呟く。


「ユウミは達観してるな。年相応に見えないんだが」

「神様に褒められて光栄です」

「人生何周目だ?」

「私、天才だから」

 ふんぞり返っていた。


「ありがとう、ユウミちゃん」

 リリスの表情が和らいだ。


「ここで間違いないんだろうが、『聖杯』が現れる気配はないな」

 腕を組んで泉を見つめる。


「純潔な乙女の祈りが必要。私とリリスでお祈りすれば大丈夫!」

「え・・・あ、うん。そうだよね!」

「・・・・・・・」

 リリスが顔を赤くしながら、ユウミの話に合わせていた。


 まぁ、ユウミには気づかれるわけないか。

 純潔な乙女の祈りっていうのも曖昧だ。


 『聖杯』・・・か。 




「あれ、誰?」


「?」


 ユウミの視線の先に、透き通るような緑の瞳と、純白の翼を持つ神が現れる。

 手には太陽のような炎をまとう剣を持っていた。


 双子の弟ミハイルだ。


「・・・ミハイル」

「やぁ、セフィロトの樹の啓示がありました。クリフォトの神では手に負えなくなってしまったようですね。兄さん」

 中性的な顔立ちで柔らかに言う。


「兄さん? え・・・サマエルの弟って」

「確かに似てる。私とお姉ちゃんみたいにそっくり」


 リリスとユウミが俺とミハイルを交互に見ていた。


「まぁな、人間たちは神の予想をはるかに超える選択をする」

「兄さんはもうすぐ魔界の王になるんですよ。もっと自覚を持ってもらわないと」

「さぁ、俺はお前みたいに従順な神じゃないからな」

 笑いながら剣を出す。


「魔界の王なんかにならずに、気ままにのんびり過ごすよ」

「兄さんの自由さには呆れます。強大な力を持ちながら、ひけらかさないのは、弟として誇らしく思いますけどね」

 ミハイルが皮肉っぽく言う。


「セフィロトの神々も加勢に来ましたが、あの魔法少女たちには苦戦しているようです。『聖杯』は人間の手に渡ってはいけないものだと、よくわかります」

 リリスを見下ろす。


「はじめまして、リリス。あれは未来のリリスが創り出したものですね?」

「信じられないけど・・・たぶん、そう・・・」


「では、貴方が魔法少女になる前に、死んでもらいます」


「っ・・・・・」


 ゴッ

 

 ミハイルの剣を弾いた。

 火花が飛び散る。


「兄さん」

「ちゃんと学習しなかったのか? もう、ここまで来たら未来は変えられない。リリスは魔法少女になるしかないんだ」


「リリスを殺せば、得体のしれない魔法陣は消えるでしょう?」

「未来を補正する力が加わって、更なる混乱を招くだろうが」


「今は魔法少女が次々と降りて、人間を殺している異常事態です。先のことは、リリスを殺してから考えればいいこと・・・」


 ミハイルがリリスに飛び掛かる。

 

 キィン キィン キィン キィン


 前に立って、剣を止めた。

 剣と剣が激しくぶつかり合う。


 力は同等、体格差も無い。


「サマエル!」

 リリスに手を上げて、『こっちを気にするな』と合図をする。


「どうして兄さんはリリスにこだわるんですか?」

「深い意味はない。自分の大陸の人間を守るのは神として当然だろうが」

「確かにそうですが、僕には僕の正義があります。でも、兄さんと戦闘するのは久しぶりで、昔を思い出しますね」

 ミハイルが笑みを浮かべる。


「僕も力をつけてきたので、兄さんに見てもらいたいです。昔とは違いますよ」

 ミハイルが下がって魔法陣を展開した。

 同様に、魔法陣を展開して、剣をかざす。


 ― 聖なる光よ、魔を焼き払え ―


 ― 闇の慟哭よ、聖なる神に復讐しろ ―


 ゴオォオオオオオオオオ


「きゃっ」

 突風が巻き起こる。


 閃光と闇がとぐろを巻くようにして絡まり、消えていった。

 勝負がつかないな。


「ユウミちゃん、大丈夫!?」

「うん」

 背中越しにリリスの声を確認する。


 ミハイル(弟)相手だと、一瞬たりとも気が抜けない。


「っ・・・・・!」

 ミハイルがはっとしたような表情をする。


「兄さん・・・」

「なんだ?」

「攻撃が以前と違います・・・慈悲・・・いえ、これは愛です。まさか、人間と何かあったのですか・・・・?」

 剣を構えたまま、呆然としながら言う。


「特にない」

「僕に嘘はつけませんよ」


「そうか」

 剣を漆黒に染めて、ミハイルに振り下ろす。


 カンッ


 瞬時に剣を止められた。


「・・・・僕が兄さんの目を覚ましますよ。弟として!」

 ミハイルの体を金色の光が包み込む。

 決着はつかない。


 ドドドッドドドドドドドド・・・・


 激しく剣と魔法陣がぶつかり合う。

 互いに、譲らず、周辺の木々がなぎ倒されていった。

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