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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第三章 最初の罪

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7 花の女神リシテア

 リシテア王国は花の溢れた王国だった。

 花の女神、リシテアが守護している国だ。 


「大陸外に漏らしたら殺せって・・・相変わらず、クリフォトの樹の神は荒いね・・・」

「まぁな。マリアは確実に口止めするつもりだ」

 翼を伸ばした。


「殺したらリリスが悲しむもんね」

「そうだな」

「ん? なんか素直じゃない?」

 カマエルがこちらを見て首を傾げる。


「リシテア王国に入ったからだろ・・・平和な国は久しく来ていない。高度を落とすぞ。人間の様子も確認していきたい」

「了解」

 カマエルとリシテア王国の城下町のほうへ降りていった。

 




「リシテア王国は久しぶりだなぁ。この国、全然戦争とか起こらないから、俺の出番ないんだよね」

「魔神とは無縁の国だからな」

 城下町を歩く。


 リシテア王国は気候も良く作物の実りも早い。

 貿易に利用する宝石や鉄鉱石などの資源も豊富なため、民は余裕が見られた。



「そこのお姉さん、うちで食べていかない? 焼きたてのパンも美味しいよ」

「いらっしゃい。新作の本も並んでるよ!」

 城下町は活気に満ちている。

 めったに見られないような、海産物も並んでいた。


「お姉ちゃん、待ってってばー」

「早く早く。メリーおばさんのパイが売り切れちゃうよ!」

 子供たちが横を駆け抜けていく。


 行き交う人たちに貧富の差はなく、妬み嫉みの一つも聞こえてこない。



 噴水近くでは、妖精たちが小さな花に座って、楽しそうに談笑している。

 俺らには気づいてないらしい。


「・・・俺たち場違いじゃない?」

「電子世界の侵食を懸念していたんだけど、今のところ違和感はないな・・・・」

 口に手を当てる。


「どこをどう見ても、ただの平和な国だ。早くマリアって子のところに行こうよ」

「あぁ、リシテアが現れる前にマリアに話して撤退するか」


「まぁ・・・こんなに穏やかな国も久しぶりだし、このまま帰るのは勿体ないけどね。リシテアに会ったら怒られそうだし」

 カマエルが頭の後ろで手を組んだ。

 戦いや災害から無関係のようなところにある国だった。



 サアアァァアア


 突風が吹いて、噴水の水が外に飛び散った。


「リシテア・・・」

 花の女神リシテアが白いワンピースをなびかせて降りてきた。


 柔らかなピンクの髪に、花の冠を被っている。

 肩に小さな妖精を2人乗せていた。


「サマエル、カマエル、私の国に何の用?」

「何の用って・・・」

「この国に魔神2柱が来るようなことは無いと思うけど」

 地上に着くなり、いきなり睨みつけてきた。

 

「別に戦争や災害を起こそうとしてきたわけじゃないって」


「じゃあ何?」

「何って・・・そんなあからさまに嫌な顔しないでも・・・」


「私の国の民は何も悪いことしていないんだから。魔神に裁かれるようなことはないからね!」

「見りゃわかるよ」

 妙に攻撃的だった。

 カマエルがリシテアに圧倒されて、一歩下がっていた。


「リシテアもこの大陸が沈むことは知ってるだろ?」


「あ・・・・うん・・・」

 リシテアが俯いた。


「もちろん、ね。大好きなこの国が沈むのは悲しい・・・けど、大地の神カプリニクスが眠りにつくなら仕方ないと思ってる」


「未来の電子世界とやらが侵食してきている話は知ってるか?」


「!?」


 はっとしたような表情でこちらを見上げる。

 何か知っているみたいだな。


「未来の技術が流出する予言がなされた。大陸外にほんの少しでも流出しそうになったら、大地の神カプリニクスの寿命を待たずに、この世界は沈む」

「そんな・・・・・」

「リシテア王国の姫マリアが未来の技術を使っているのを見た。口止めに来たんだ。彼女はクリフォトの樹に要注意人物に指定された」


「・・・・・」

 一瞬、沈黙が降り落ちた。


「・・・・そう」

 リシテアが髪を耳にかけて、長い瞬きをした。


「・・・・マリアは貴方たちのこと見えるの?」

「俺はなぜか見えるらしい」

「俺は見えないよ」

 カマエルが手を振った。


「魔神が見えるなんて珍しいのね。マリアは隣国のスーラ王国に呼ばれて、今、この城にはいないの。巫女は妖精の声が聞こえるから、早急に伝えるようにする」

「マリアの命がかかってるんだ。俺が追いかける」


「2柱の魔神が移動するだけで、大気が震えるのよ。私の妖精が必ず伝えるから。リオネー、今の聞いてたでしょ? お願いできる?」


『りょーかい。任せて』

 リシテアの肩に座っていた妖精が羽を広げて飛んでいった。


「ここはリシテアに任せれば大丈夫だよ」

「・・・あぁ」

 不服だが、頷かざるを得ない。


 リシテア王国やスーラ王国のような、平和な国では特にな。


「サマエルが一人の少女の身を案じるなんて、珍しいのね」

「俺もそう思ったんだよ。サマエルって細かいことあまり気にしないじゃん。やっぱりリリスが関係あるよね?」


「リリス?」


「人間がサマエルに投げてよこした少女だよ。人身供養でね。マリアはリリスの親友なんだ」

「リリスは関係無い。俺が急いでるのはクリフォトの樹の予言があったからだ」

「ふうん」

 リシテアがにやにやしながらこちらを見上げる。


 女神は勘がよくて、苦手だ。

 すぐに何かを悟る。


「サマエルも人間とそうゆうことするんだ」

「・・・・・」


「えっ、どうゆうこと?」

「鈍いのね。交わったってこと。お熱いのね」


「!?」

 カマエルが大きく目を見開く。


「なっ・・・!? マジで? 確かに、おかしいとは思ったけどさ。まさか本当だったとは。じゃあ、俺より先にサマエルのほうが進展してるってこと? エリンちゃんと手を繋いだことも無いのに?」

 いきなり口調が早くなって、俺とリシテアを交互に見る。


「えー・・・なんかショックだ」

「なんでカマエルがショック受けるんだよ」


「なんとなく・・・」

 肩を落としていた。


「カマエルって、泉の女神エリンのこと、まだ好きだったの? 向こうはカマエルのことはなんとも思ってないと思うけど?」

「グサッとするようなこと言うな。これでも進展あったんだ。この前エリンちゃんのお祭りのとき、2人きりで周ったんだよね」

 饒舌に話し始めた。


「2人きりってことは、デートで間違いないよね。3時間くらいかなぁ・・・エリンちゃんはずっとにこにこしてたし、会話も弾んだし、これって脈アリじゃない?」

「2人きりになっても何もなかったんでしょ?」


「それは・・・」

「脈無しだと思う。好きになるのは自由だけど、エリンは人気だから難しいと思うよ? 他の神々からも言い寄られてる噂聞くし、可愛いもの、当然のことよ」

「えぇっ!?」


「誰かにとられて後悔するくらいなら、気持ちは早く伝えておくことね」


 容赦ないな。

 カマエルが魂の抜けたような顔で呆然としていた。


「それにしても・・・サマエルは恋愛とは無縁だと思ってたのに。まさか人間と・・・とはね」

 リシテアが自分の花の冠を取って、近くの木のベンチに置く。


「リシテア・・・」

「あまり一人の人間に熱を入れるのは駄目よ。私たちは神、人間の信仰によって力を得て、見守る存在。人間には、誰にでも公平じゃなきゃいけないんだから」

「・・・・わかってるよ」

 リシテアの警告はもっともだった。


 リリスといると、本来の自分を見失いそうになる。


 大陸が沈むことも、どこかで止められないかと考え始めていた。

 マリアとメイリアのことも・・・。


「わかってるならいいわ。ついてきて」


「ん?」

 リシテアが背を向けて一呼吸置く。


「電子世界のこと、少し知ってる。侵食してきている場所があるの。私が結界を張って堰き止めている場所があるの・・・サマエルとカマエルには言わなきゃね」

「え・・・・?」

「ここから遠くないところにあるから」

 くるんとした髪を後ろにやった。


「電子世界・・・・って、リシテアの力に異変はないの?」

「うん。今のところは変わらない。ほら・・・」

 指を回して、軽く風を起こす。


「電子世界・・・なんて、見たことなかったけど、明らかに違う場所ってわかる。幸い、今は一か所だけど、広がったらどうしようかって思ってたの・・・人間と接触したのかもわからない」

 自信なさげに言う。


「すぐに、案内してくれ」

「うん」

 ふわっと飛んでいくリシテアについていく。


 飛びながら、カプリニクスが話していた言葉を思い出していた。

 『未来から現れた少女、リリス』のことを・・・。

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