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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第三章 最初の罪

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6 私と堕落して

「やぁ、サマエルが人間と住んでるって聞いて驚いたよ。まさか、あの人間嫌いのサマエルが少女と過ごすとは」

「人身供養で捧げられた少女だ。別に俺が望んだわけじゃない」


「その割に楽しそうに見えたけど?」

「・・・・・・・」

 地上から離れると、タウミエルが腕を組んで待っていた。


 タウミエルは魔神の一柱で、普段は穏やかな青年のような姿をしていた。

 首には黄金の王冠をモチーフにしたネックレスをしている。


「で? あの少女の味はどうだい?」

「味? 俺はそもそもそうゆう話題に興味ない」


「勿体ないなぁ。俺だったら存分に味わい尽くすのに」

「お前と一緒にするな」

 タウミエルは疫病と治癒の役割を持つ神だ。

 人間を死に導く病とウイルスを扱っている。

 来るものを拒まないため、人間と神と妖精に恋人を作って遊んでいるようだ。


「時にはいいものだよ。別の大陸の神々の法律では固く禁じられているらしいけどね。特に、神と人間との交わりは」

「堕落するからだろ」

 冷めた口調で言う。


「止められなくなるからだよ。愛してしまうんだ。人間の美しさに、捕らわれて、ただ一人の女性を愛してしまう。あの快楽は言葉では表せないな」

「・・・・・・・」

「一度経験してみるといい。人間が前よりも理解できるようになる」

 タウミエルが熱弁していた。


「あまり固くなるなよ。俺たちは幸い禁止されていない。サマエルも・・・」

「んなことはどうでもいい。興味ないって」


「そーかぁ。雑談にちょうどいいと思ったんだけどな」

 赤い髪をなびかせながら言う。


「どうして魔神が招集されたんだ?」

「・・・・・」

 冷たい風が顔に吹き付ける。


「・・・・クリフォトの樹が啓示を出した。この大陸で魔神とされている俺とサマエル、オギエル、ゴラカブ、タゲリロンが招集されている」

 タウミエルが真っすぐ前を見つめなが、低いトーンで話す。


「理由はわからない。オギエル、コラカブはもう集まっている。タゲリロンは少し遅れてくるそうだ」

「・・・・クリフォトの樹の啓示は200年ぶりだな」

「面倒なことじゃないといいけど・・・・そうじゃないだろうね」

 上昇して、雲の上を飛んでいく。 

 神だけに見える、空に浮かぶクリフォトの樹がある場所が、魔神の招集場所だ。

 

 沈む大陸に、今更何も起こらないだろうがな。

 タウミエルがリリスのことを執拗に聞いてきたが、無視して飛んでいた。





「リリス!」

 家に戻るとすぐに周囲を見渡した。


「サマエル、どうしたの?」

 リリスが皿を洗っていた。


「マリアは帰ったのか?」

「ペムペムが王国に送っていったよ。帰る時間、間違ってたって慌ててた」

「・・・・・・」

 夕焼け空が夜に変わろうとしている。

 今からリシテア王国まで行くか。


「どうしたの? マリアに何か用事?」

「・・・あぁ、かなり重要な話だ」

「・・・・・」

 リシテア王国の姫マリアは神々の中で要注意人物とされていた。

 少しでも怪しい動きをすれば、殺せという意味だ。


 マリアに絶対に情報を漏らさないように、念を押すつもりでいた。


 魔神が集められたのは、未来に存在する電子世界の侵食が始まっている件についてだった。

 カプリニクスが眠りにつく前に、遠い未来の技術が広まる予言がなされた。

 ほんの少しでも大陸外に流出するようであれば、この大陸はカプリニクスの寿命を待つことなく沈めると決まった。


 

 同時に、神の子が死んだという啓示がなされていた。

 神の子が誰を指すのか、どうゆう意味なのかは、俺たちにはわからない。


 なぜか心がざわつく。 

 何かが大きく変わろうとしているような気がした。


「リシテア王国に行ってくる。何かあったら使い魔の黒猫に・・・」

「待って。マリア、今日は遅くまでダンスのレッスンがあるんだって。明日の夜、隣国のカナリア王国のパーティーに出席しなきゃいけなくて。バタバタして帰ったから、会話できないと思うよ」


「・・・そうか」

 リリスが手を拭いて、ソファーに座る。


「ねぇねぇ、サマエル。隣に座って」

「あぁ・・・・」

 慌てても仕方ないか・・・。


 神が冷静さを失えば、民に影響が出る。


「今日は3人で何話してたんだ? 冒険の話は進んだのか?」

「ねぇ、サマエルは私とマリアとメイリアなら、誰が好き?」


「は?」


「誰が好き?」

 リリスが食い気味に聞いてくる。


「2人に感化されたか。俺は神だ。人間にそうゆう感情は持たない」

 手をひらひらさせた。


「何か言われたのか?」

「言われてない・・・けど、マリアもメイリアもサマエルのこと好きになっちゃったらどうしようって・・・とられちゃうかな、って心配になったの」

「・・・呑気な奴らだ。恋バナってやつか」

 神々が未来から来た者のせいでバタバタしているにもかかわらず、恋愛話とは・・・。

 まぁ、リリスたちと同年代の子の話は、そうゆうものか。


「・・・・」

「!?」

 リリスが突然、不器用に唇を重ねてきた。


「え・・・・」

「・・・先手必勝」


 顔を赤らめながら上目遣いにこちらを見た。

 唐突のことで、固まってしまった。


「リリス・・・・」

「サマエル、好き。助けてくれたからじゃない。私、サマエルの全てが好き。一緒にいるうちにどんどん好きになっていく。このドキドキは好きなんだって、どうしようもないくらい大好き」

「いや、急にどうしたんだよ」


「ずっと言おうと思っていたこと・・・隠していたことなの。サマエルを困らせちゃいけないからって・・・でも、もう止められない」

 リリスの顔がみるみる赤くなっていく。


 使い魔の黒猫が何かを察してか、外に出ていった。


 何か催眠術のようなものに関わっている感覚はない。

 快楽を求めるような薬を飲んでいるわけではないようだ。


「ちゃんと伝えなきゃ後悔しちゃう・・・。私サマエルが世界で一番好き。誰よりも好きって自信があるの。こんなに好きで、私おかしくなっちゃいそうだよ」

 首に手を回して、抱きついてくる。

 幼げで華奢な体が少し震えていた。


「・・・・・・・」

「き、聞いたの。夫婦なら・・・当然でしょ?」

「だから、夫婦って・・・」

「私は魔神サマエルの花嫁だから、そうゆうのする権利がある・・・はず」


「神に向かって何言ってるんだよ・・・・」

「大好き、サマエル。貴方が何者であっても」

 リリスの髪を撫でる。

 びくっとしていた。


「好き、好き、好き。サマエルが私の体に触れるまで、何度も好きっていうから!」

 押し付けてきた体は柔らかく、温かかった。


「ひゃっ」

 ソファーが軋んだ。


「快楽か・・・。人間が堕ちる欲望の一つだ」

「サマエル」

「そういえば、前、食事を作ってもらった礼をしていなかったな。俺は神だ。お前の望みを一つ叶えてやる。なんだ?」

 リリスの瞳が潤む。


「サマエル・・・私と堕落して」

 リリスをさらうように抱く。

 人間は脆く儚く、美しい。


 リリスの体に穢れはなく、触れるほどに電流が走るような感覚になった。

 欲望に忠実で、純粋で、リリスを知れば知るほど、頭がくらくらした。


 夕焼けが溶けて、夜になっていた。

 熱い夜が更けていった。




 朝日が眩しかった。

 湖に波紋を立てて、鳥たちが飛んでいく。


「サマエル、なんか変わった?」

 外に出るとカマエルが怪訝な表情をこちらに向けてきた。


「別に」

「なんかおかしい。ねえ、黒猫、サマエルに何かあった?」

『・・・・サマエル様に口止めされてますので』

「ほら、なんかあったじゃん!」

 カマエルの追及を流して、使い魔のカラスと黒猫にリリスを守るよう伝えていた。

 何か起こればすぐに俺に連絡するように、と。


「いつも見送りに来るリリスが出てこない・・・って喧嘩ではないよな。絶対・・・リリスはサマエルに逆らうと思えないし」

「目的地はリシテア王国だ。急ぐぞ」


「えーっ、ちょっと待って。まさか・・・いや、サマエルはそんなことしないよな・・・・」

 カマエルがぶつぶつ言いながらついてくる。


 窓から覗いていたリリスと目が合ったが、はっとして逸らされた。

 朝になって恥ずかしくなったらしく、まともに会話が続かなくなってしまった。

 目を逸らしたまま手を振っている。


 人間の快楽は恐ろしいな。

 まだ体にリリスの感覚を残って、ほわほわしていた。

 あれだけ、クリフォトの樹の啓示と、大地の神カプリニクスのことで根詰めていたが、今はぼんやりしている。


 カマエルの関心を逸らしながら、飛んでいった。

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