5 女子会トーク
「リリス!」
「メイリア、マリア」
メイリアとマリアが湖の小さな家に遊びに来ていた。
『あたちが連れてきたんだ。感謝しろよ』
「いつもありがとう。ペムペム」
『むぅ・・・・』
リリスがペムペムに抱きついた。
まんざらでもない顔をしている。
ペムペムは転移魔法でいたずらする悪魔に近い妖精だ。
尖った耳と腫れぼったい鼻、小柄な体で、背中に羽根が生えていた。
なぜかリリスに懐いてる。
「いい匂い・・・焼きたての香りだね」
「みんなが来るからたくさんお菓子を作ってたの。メイリアに教えてもらったレシピで作ったのよ」
「こんなにすぐ作れるなんて・・・」
メイリアが驚いていた。
『あたちの分は?』
「もちろんあるよ。たくさん作ったから食べていってね」
『ふ・・・ふん、そうまで言うなら仕方ないから食べていってやる。別にあたちから食べたいと言っていないからな』
「はいはい」
「わぁ、美味しそう」
リリスがテーブルを整えて、朝から作っていたお菓子を並べていた。
「・・・・・・」
ソファーで本を読みながら3人を見ていた。
マリアは地図に見たい人を表示すること以外、特別な力はないと話していた。
誰かから聞いたわけではなく、城の倉庫でたまたま見つけただけだという。
「ペムペム、3人にいたずらするなよ」
『わかってる。サマエル様の命令は絶対』
ペムペムは俺やカマエルには逆らえない。
使い魔の黒猫もペムペムを見張っていた。
「ハーブティーでいい?」
「うん! ありがとう」
リリスがカモミールの葉を瓶から出していた。
「マリアは昨日何してた?」
「勉強とかお客様への挨拶とか・・・かな。みんなと会わない1週間は退屈なことばかり。こんな本みたいなことが起こるなんて思わなかったから」
「私も学校に入ると思っていた時期が伸びたの。学校側.の受け入れ態勢が整っていないことが発覚して、お父様が激怒して保留になっちゃった」
メイリアがルビーのピアスに触れながら話していた。
「よかったね。しばらくこうやって3人で会えるね」
「うん」
「はい、3人とも、今日は来てくれてありがとう」
ハーブティーを並べていく。
カモミールの香りが部屋に広がっていた。
「3人?」
『ふむふむ、あたちを忘れなかったな。えらいぞ』
「ふふ、そうね。ペムペムがいなきゃ私たち会えないもんね」
マリアがペムペムを撫でる。
『そうそう。もっと感謝するのだ』
しれっとペムペムまで混ざっていた。
使い魔の黒猫がすっと飛んで俺の隣に来る。
「すごく美味しい。このしっとしりたお菓子」
「よかった。こっちはね、フルーツでジャムを作ってみたの。ちょっと酸味があるから、少しつけて食べてみて」
「これ、お城のシェフが作る料理より美味しいよ」
「言い過ぎだよ、マリア」
リリスが笑いながら照れていた。
「リリスはなんでも一人でできて凄いね」
「え?私? そ、そんなことないよ。みんながやってる勉強とかは全然だし」
リリスが手を振りながら椅子に座った。
「ううん。私、初めて会ったときから、リリスが憧れなの。自由で、探求熱心で、強くて。はじめてのことにも、臆せず立ち向かうし」
「お祭りで踊ったのは失敗だったよ。今思い出しても恥ずかしい・・・」
「でも、リリスは綺麗だったよ」
マリアがリリスを見つめながら言う。
「リリスは私たちを外に出してくれた恩人だもの」
「そうそう。この家も、絵本の世界の家みたいで落ちつくの。まだ、夢の中にいるみたい」
メイリアがほほ笑む。
「違う違う、救われたのは私のほうで・・・でも・・・2人にそう言ってもらえるとなんだか嬉しいな。へへ・・・」
リリスが照れ笑いしていた。
3人で会わせるのはこれで3回目だったが、特に目立った会話はない。
俺がいないとき、使い魔に見張らせていたが、他愛もない話ばかりだったそうだ。
スプーンを落としただけで笑っていたと話していたな。
「今度3人で冒険に行ってみない?」
「冒険?」
「そう! 私がはまっているファンタジー小説のアリスって女の子は木の向こう側に行って、未知の世界を冒険してたんだって」
「マリアは本に影響されやすいね」
「もちろん。お城の本は読みつくしたんだから」
マリアがちょっと自慢気に言う。
「私、家の外にあまり出たことなくて・・・。冒険には憧れるけど、外の世界あまり知らないの。大丈夫かな?」
『やりたいことはやっておいたほうがいい。この大陸沈むから』
「!?」
ペムペムが木の実のクッキーを食べながら言う。
「ペムペム・・・」
頭を押さえる。
黒猫がため息をついていた。
『どうした? 知らなかったのか?』
「・・・サマエル、本当なの?」
リリスが驚いた表情のまま、こちらを見る。
「ったく、人間には言うなって言ってたのに」
『ペムペムは頭が弱いので仕方ないですね』
黒猫が毛づくろいしながら馬鹿にしていた。
「・・・サマエル、本当なの?」
リリスがこちらを見る。
「そうだ、沈むんだよ」
「絶対・・・・?」
「絶対だ。お前らが望むなら、別大陸に転移させてやる。大陸は海底に沈むが、俺たちは別の地に移動することになってるからな」
『あたちもね。3人は好き。協力する』
ペムペムが口をもぐもぐさせながら言う。
カーテンの隙間から日の光りが差し込んでいた。
「・・・・私はリシテア王国の姫だから、民と共にある。民がいるなら、私も一緒に」
「マリア・・・・」
「民のことは愛してるの。私はお父様・・・国王のようにはなれないけどね」
マリアの顔は真剣だった。
「私のいた街の・・・みんなも大陸と沈んでしまうんだよね?」
「そうだな。あいつらは大陸と共に生き、大陸と共に死ぬ」
「そんな・・・・」
リリスが膝の上で両手を握り締めていた。
自分を殺そうとした奴らにまで同情するか・・・。
「私は全員が助かる方法を探したい!」
「メイリア」
「リリスとマリアと出会えた大陸だよ。3人なら奇跡でもなんでも起こせるような気がしない?」
メイリアが強い口調で言う。
「・・・・・・・・」
大地の神カプリニクスが沈めると言っている以上、奇跡なんか起こるはずも無いんだけどな。
本のページをめくって、ひじ掛けに手を置く。
トントン
「ん?」
使い魔のカラスが窓を突く。
『サマエル様、タウミエル様がお呼びです』
「うわ、あいつか。いないってことにしておいて」
『緊急で魔神の招集がかかったと・・・』
「面倒だな・・・黒猫」
『かしこました。見張っておりますので問題ありません』
「ありがとう」
本を置いて立ち上がる。
「あれ? サマエル、どこかに行くの?」
「ちょっと用事があってな。夕暮れまでには戻ると思うが、ペムペム、遅くなったら2人を送ってやってくれ」
『承知。任せて』
ペムペムが尻尾をぴんと伸ばして合図をしていた。
「いってらっしゃい。サマエル」
リリスが声をかけてくる。
「ねぇ・・・サマエルってかっこいいよね。リリスとサマエルって恋人?」
「うーん、花嫁・・・だから夫婦? かな?」
「えっ!?」
「ごほっごほ・・・ごめん」
「大丈夫?」
メイリアがむせていた。
ハンカチを口に当てて深呼吸をする。
「夫婦ってことは、その・・・色々してるってこと?」
「色々。うーん、夫婦がするようなことはしてるかな?」
「ま、まさか、『済』・・・ってこと?」
「え? スミ? そんなに驚くことかな?」
リリスが首を傾げる。
「そ、そ、それは・・・・」
メイリアとマリアが顔を見合わせて、真っ赤になっていた。
「何もしてないって。マリア、メイリア、リリスの言うことを真に受けるなよ。リリスは知識が浅いんだ」
「花嫁は本当だもん。あとは・・・ちょっと勉強中なだけ」
「同年代より幼いと思ってくれ」
念を押してドアを引いて出ていく。
地面を蹴って飛んでいったが、家の中が騒がしくて、しばらく外まで声が聞こえていた。




