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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第三章 最初の罪

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1 魔神の花嫁

 遥か遠い昔、俺は混沌から生まれた神として、ある大陸で祀られていた。

 文明は栄えていたが、人間は魔法を使えない。

 豊富な資源があるため、度々この地を奪おうとする人間たちがいた。


 俺は戦艦が来れば、災害を起こし、他国から大陸を守っていた。

 何もしなければ、大陸はあっさりと敵国に乗っ取られていただろう。


 大陸であることもあり、平和ボケしているのか海沿いの住民の軍事力は皆無だった。



「退屈だな」

 高い木の上から、街を眺める。


 人間から俺の姿は見えない。

 街から少し離れた場所にある、大きな木の上でぼうっとしながら、人間たちの様子を眺めていた。


 港には大きな船が停まっていて、市場が活気づいているようだ。

 この街で作られる金属製品はかなり高度で、貿易船の商人たちは目の色を変えて購入していく。


「わっ」

 リリスが急に顔を出してくる。


「っと、驚かせるなよ。こんなに高いところまで上ってくるなって言ってるだろ。落ちたらどうするんだよ」

「だってサマエルがここにいるんだもん」

「・・俺は羽根があるし飛べる・・・」

「落ちそうになったら、サマエルが助けてくれるし」

 屈託のない笑顔を見せる。

 リリスはまだ14歳になったばかりの少女だった。

 

 この街には人身供養の風習があった。

 圧倒的な勢力を持つ軍事国家が攻めてきたとき、竜巻を起こし、大陸全体を守ったことがある。船は沈み、多くの敵国の戦士たちが死んでいった。


 自分の大陸の民を守ったつもりだったが・・・。

 人間は俺の力に怯えはじめ、怪物か何かのように崇めていた。


 怪物・・・って。


 ・・・・まぁ、あながち間違ってもいないが・・・。


 街の人々は感謝を込めて、14歳になったばかりのリリスを俺の花嫁にと、谷底に突き落とした。

 木の葉でクッションを作り受け止めたが、無ければ確実に死んでいた。


「ここから、街が良く見えるのね」

「マジで危ないからな」

「気をつけてるもん」

 リリスが木の枝を掴んで、前のめりになる。


 俺は人間を食うわけでもないし、花嫁など求めていない。


 リリスを哀れに思い、湖の近くの小さな家にかくまっていた。

 食料は十分にある。


 人間は浅はかな上に、脆いからな。

 リリスには絶対に、湖の外には出ないように言っていた。


「ん? サマエル?」

「白いパンツ、見えてるぞ」

「きゃっ・・・」

 リリスが顔を赤くして、木の枝に引っかかったスカートを直していた。


「・・・・サマエルってば、そんなに私の体が気になるの?」

「ガキが何言ってるんだよ」

「ガキじゃない! ちゃんと、街のみんなに認められたサマエルの花嫁だからね。私は可愛いんだから」

 むきになってめちゃくちゃなことを言う。


「はぁ・・・・」

 人間で俺の姿が見えるのはリリスだけだった。


「私はサマエルの花嫁だけど、花嫁って何するのかな?」

「別に何もしなくていい」

「そっか」

 当然、花嫁にした覚えはない。


「で? 何の用だ?」

「・・・・・・・」

「ここに上って来たってことは、何か話があるんだろ?」

 枯葉をつまんでくるくる回す。


「・・・ねぇ、今日は隣の街で祭りがあるらしいの」 

 リリスが表情を明るくする。


「行ってきていい?」

「駄目だ」

「えー」

 ふわっと飛んで木から降りる。


「行きたいよー! だって、年に一度の祭りだから、私行ったことがないの。部屋にある本は、全部読んじゃったし」

「んー、そうだな・・・」

「あ、私の街の人とかもいるかな。ね、サマエル、いいでしょ?」


「・・・・・」

 リリスは国に自分が捨てられたとは思っていない。

 顔がバレれば直に殺されるだろう。


「ついてこい。条件を守れるならいいよ」

「あ、待って・・・降りるのは怖いなぁ・・・」

「だから上るなって言ってるのに・・・」

 リリスがもたもたしながら、ゆっくりと木から降りてきた。




 リリスに黒いローブを着せて、顔を隠すように指示していた。

 元いた街の人と会っても、絶対に話さないように言ってある。


 何の疑いも無く頷いて、楽しそうに街のほうへ出ていった。

 念のため、リリスの様子は使い魔に見張らせていた。


「サマエル、久しぶり・・・ってあれ? さっきの女の子、ここを出てもいいの? サマエルの花嫁として捧げられた子でしょ?」

「街で祭りがあるらしいからな。使い魔に見張らせてるから何かあったら俺のところに来る」


「そうそう、祭りなんだよね! エリンちゃんのお祭りなんだよね。絶対可愛い服装でくるんだろうな」

 カマエルが純白の翼を伸ばして降りてくる。


 隣国の戦の神として祀られているのがカマエルだった。

 子供の姿で現れ、戦況を乱していくため、死の神と呼ばれることもあった。

 カマエルは俺とは違い、死が近い者には見えるらしい。


「エリンならまた露出してるだろ。なんで、この辺りの女神は肉体を見せたがるのか・・・」

「エリンちゃんはそんなことしないから!」


「はいはい。女神に入れ込むなよ。手玉に取られるぞ」

「エリンちゃんならいいと思ってるからね」

 カマエルはなぜか、泉の女神エリンに惚れている。

 柔らかな水色の髪を、女神の割に、幼げな表情が可愛いのだという。


「っていう、サマエルだってリリスって子に随分入れ込んでるじゃん。あのローブ、どんな仕掛けがあるの?」

 カマエルが瞼を重くして腕を組んでいた。


「あのローブは俺の羽根を差し込んだ布でできている。リリスから話しかけない限り、人間からはリリスだと気づかれない」

「人間に神の力を貸すのは危ないんじゃないの? 貿易で魔道具なんかで回ったら終わりだ」


「・・・固いこと言うな」

 木に寄りかかって伸びをする。


「リリスは悪いことに使わないよ。ただ、祭りを見たいだけなんだから」

「サマエルが人間に優しいの珍しいね。まさか、本当に花嫁にしちゃうつもりだったり?」

 カマエルが憎たらしい笑みを浮かべる。


「からかうなよ」

「あはは、まぁ、俺たち一応神だもんね。今は戦が無くて暇だけど・・・」

 穏やかな午後の日差しが差し込む。

 木漏れ日がキラキラと跳ねているように見えた。


「サマエルもリリスと一緒に祭りに行けばよかったのに?」

「ぞっとすること言うなよ。俺はそもそもカマエルと違って人間嫌いだ。人間の集まるところになんか行きたくない」


「そうかな? 人間好きなのかと思ってたよ」

「・・・・・・・」

 リリスを捨てたときから、人間たちに対して不信感を抱いていた。


 人間は未熟だ。

 そうゆうものだと、割り切ればいい話なんだけどな。

 

 ぶわっ


 風が吹いて湖の水が小さく波打つ。


「ねぇ、今日は私の生誕祭なのよ」

「エリン! な・・・その服装は・・・」

 泉の女神エリンが透き通るようなドレスを着て降りてくる。

 大きな瞳をパチパチさせていた。


「似合うでしょ?」

 ふわっと回って見せる。


「ろ・・・露出が高くない・・・?」

 カマエルがぼそぼそという。

 布は光が当たると透けて、豊満な胸が露になっていた。


「人間みたいなこと言うのね」

「そ、そうゆうわけじゃ・・・エリンは何を着ても似合うし・・・その・・・」

「ありがと、カマエル。ねぇ、2人はお祭りに来てくれないの?」


「カマエルは行くってさ。俺はここで待ってるよ」

「俺!?」


「もう、サマエルってば相変わらず冷たいんだから。今年が最後のお祭りだって知ってるでしょ?」

「手・・・!?」

「カマエルは捕まえたもん」

 泉の女神エリンがカマエルの手を握り締めて頬を膨らませる。


「・・・人ごみが苦手なんだって・・」

「カマエルも何か言ってよ。私が泉の上で踊るの、すごく綺麗なんだから」


「サマエル・・・・」

 カマエルは目のやり場に困っているのか、エリンにやられているのか、頬を赤くして視線を泳がせていた。


 泉の女神エリンの祭りは今日が最後になる。


 もうすぐこの大陸は沈むことになっていた。


「まぁ、気が向いたら行くよ」

 膝を立てて、遠くを見つめる。

 時折、人間には聞こえない地鳴りのようなものが聞こえている。

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