45 銀の『魔女』
魔法少女は全滅、彼女を守っていた戦士たちも瀕死の状態だ。
ノアもフィオーレもアクアも、この状況を見て戦えないだろう。
俺とラインハルトとファナで行くしかない。
剣を握り直す。
― ジフリート ―
パリンッ
「!?」
「やったわ!」
悲しむ時間も十分に与えず、魔法少女の一人が剣を立ててシールドを突き破ってきた。
一気に12人の魔法少女と主たちが動き出す。
「リオン、まずは七陣魔導団ゲヘナの7人の魔法少女から・・・」
ゴンッ
「ノア!」
ノアが剣を大きくしてシールドを突き破った魔法少女の剣を止める。
目にも止まらない速さだった。
「殺してやる、殺してやる、仲間をこんな目に合わせた奴を」
「!!」
「全員殺してやる!!!」
目を血走らせて、魔法少女に襲い掛かっていた。
「えっ」
素早く斬り返して、2人相手に圧倒していた。
― 氷蓮華 ―
アクアが巨大な魔法陣を展開して、氷の蓮をいくつも出した。
花びらは刃のように回りながら、魔法少女たちを追いかけていく。
「よくも僕らの仲間を殺してくれたな!」
「っ・・・・」
シュンッ
「きゃっ」
逃げようとする魔法少女に回り込んで、魔法陣を展開していた。
「死ね!」
― 破壊氷―
アクアが杖を振ると、魔法陣から鋭利な氷が何本も降り注いだ。
ドドドドドド
「!!」
魔法少女と、庇おうとした主、もろとも消滅していた。
ドンッ
「どうゆうことなの?」
「な・・・さっきの魔法少女と強さが全然違・・・」
フィオーレが真っすぐ飛んで、アクアを見ていた魔法少女の主に槍を突き刺す。
「ユウト!!!」
「ナナ、悪い。油断した、俺はここまでみたいだ・・・」
「大丈夫、すぐに治すから」
魔法少女が主の傷口を塞ぐ。
「俺はアバターだ。肉体に戻るだけで・・・君さえいれば何度でも・・・」
フィオーレが槍を回して、魔法少女に近づいていく。
「何甘いこと言ってるの?」
涙を流しながら笑っていた。
「私の仲間を・・・大切な仲間を何人も、何人も、何人も奪っておいて・・・簡単に死ねると思わないで」
「え・・・・?」
ザンッ
フィオーレが魔法少女の胸に槍を突き刺した。
すぐに隣にいたユウトの腹を貫く。
「ナナ! ユウト!」
「ふふふ、いい声だね。怯えてる、怯えてる」
「!?」
「僕は怯える魔法少女の血が欲しくて来てるから、楽しませてもらうよ」
ラインハルトがフィオーレの背後を狙ってきた魔法少女を捕まえていた。
「きゃあああぁぁぁぁ」
思いっきり首にかぶりついていた。
「レイラ!」
ラインハルトが首を噛んだまま、主らしき女剣士の攻撃を避ける。
魔法少女の皮膚が弱々しくなっていった。
「こっちは久しぶりの魔法少女の血だ。邪魔するな」
「っ・・・・」
「全身を余すことなく吸い尽くしてやる。他の魔法少女が倒してしまう前にね。あ、アバターには興味が無いんだ。邪魔しないでくれ」
ラインハルトが口から血を流しながら言う。
「レイラ―!!!!!」
女の主が叫んでいた。
「・・・・・・・」
ファナが何も言わずに、杖を向けてきた魔法少女のほうへ飛んでいく。
「魔法少女戦争の感覚戻ってきた?」
カマエルが軽い口調で近づいてきた。
「・・・あぁ。あいつらの覚悟を知らないのは俺だけか」
「まぁ、普通の女の子なんだから心が揺らぐのは当然。でも、力だけで言えば、七陣魔導団ゲヘナの7人の魔法少女は別格だ。俺も含めて、階級が上の魔神と契約できた魔法少女だからね」
フィオーレが血の付いた槍を持ち直して、次々に魔法少女を貫こうとしていた。
一切に迷いのない戦闘だった。
ノアが大剣で2人の魔法少女の胴体を裂いている。
魔法少女が最期の言葉も残せず、悲鳴も無く、消滅していた。
「魔神の力は大きすぎて、普通は耐えられないから契約できないんだよ。まさに、選ばれた者たちだ。フィオーレたちのことは必要以上に心配することないよ」
「そうだな・・・問題は・・・」
「そう。彼女だな」
ローブのフードを深々と被った、魔法少女だけが銀色の鎖を持ったまま動かなかった。
銀化された者たちはうめき声を上げながらとどまっている。
明らかに異質な雰囲気を漂わせていた。
「おそらく銀化の魔法をかけたのはあの鎖を持ってる魔法少女だな。あとの魔法少女は銀化するウイルスを撃ってこないし、特別な強さも感じない」
「・・・・・・・」
「カマエルは何かわかりそうか?」
「・・・・不思議と彼女からは何の魔力も感じないんだよ。本当にただの魔法少女なのか?」
カマエルが口に手を当てる。
「電子世界用に作られた、アンドロイド型の魔法少女なのかもな」
剣にコードを埋め込んでいく。
キィアアアアアアアァ
魔法少女が杖を回すと、コードのような文字に囲まれた。
鎖を離す。
「銀の『魔女』、あいつらを殺せ」
小さな声が聞こえた。
自分のフードを深くつまんで3体の『魔女』の鎖を解く。
ギアアァァァ
「っ!?」
空中に展開した魔法陣を渡るようにして、アクアのほうへ向かっていく。
「こっちは任せろ」
「う・・・うん」
アクアに届く前に、立ち塞がって剣を構えた。
― ルート・ゼロ ―
ゴオォォオオオ
剣で風を起こして、『魔女』に動きを鈍くするデバフの魔法をかけた。
『魔女』というより、女の形をした獣に近い。
シュン シュン シュン シュン
剣を持っているが、知性はなく、ただ振り回しているだけだった。
ふわっと飛んで攻撃を避けながら、アクアから引き離そうと誘導する。
AIで生成されたアンドロイドなのか、動きに歪さがあった。
顔と体だけ、魔法少女だった頃の面影が残っている。
― XXXX XXX XXXX ―
キィアアアアアアア
顔の見えない魔法少女が何か唱えると、3体の『魔女』が悲鳴を上げながら体を大きくした。
猛獣のように引っ掻いてくる。
ザッ ジジジジジジジ ジジジ
「!?」
空中が裂けて、エリアとは違う、電子世界の黒い部分が見えていた。
バグか?
ゲーム内が壊れそうになっているのか?
『魔女』が両手を振り回す。
周囲の空間に、電子空間が広がっていった。
電子空間に追いやろうとしているのか?
「こいつが七陣魔導団ゲヘナの王だ。こいつを殺せば七陣魔導団ゲヘナは終わる!」
「そうよ。単独行動している今がチャンスだ。あんなわけのわからない魔法少女に手柄を取られてたまるものですか!」
赤髪の魔法少女と主らしき男が突っ込んでくる。
キィンッ
ファナが剣で魔法少女の攻撃を止めた。
「うわっ!」
地面から黒い手を出して、主らしき男の動きを封じていた。
「ユナリア・・・彼女はファナだ。前回魔法少女戦争の勝者・・・一覧に載っていた」
「私の主を離せ!」
魔法少女がファナに剣を振り下ろす。
ファナが下がって、軽く流していた。
「他の魔法少女は私たちでいける。カイトはあの魔法少女に集中して」
「無理はするなよ」
「フン、私はこんな雑魚、余裕よ」
― 斬烈剣―
「・・・・・・!」
魔法少女が悲鳴を上げる間もなく、ファナが魔法少女と主を切り裂いた。
すぐに、他の魔法少女のほうへ走っていく。
キィアアアアア
『魔女』が金切声を上げて剣を振り回す。
避けて時間稼ぎをしながら、鎖を持ったままの『魔女』の動きを見ていた。
「早くあの魔法少女を片付けたほうがいいと思うよ」
カマエルが魔法少女を睨みつけていた。
「12人の魔法少女を殺しても、あいつだけが残っていたら意味がない」
「わかってるよ。でも・・・・」
「躊躇はするなよ。ファナ、アクア、フィオーレ、ノアが銀化の魔女になれば、七陣魔導団ゲヘナは勝てない」
「・・・・・・・」
「俺は手を出せないからな」
カマエルが意味深に残して、離れていった。
リリスと契約したときの指輪が疼いていた。
足に速度強化のバフを付与する。
次々に解き放たれた銀化の魔女の攻撃を避けながら、中央の魔法少女に近づいていく。
『魔女』の金切声がワンワンと頭に響いていた。




