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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第二章 電子世界

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44 56人全員死亡

 着いた瞬間、潰された空軍機と倒れる魔法少女と戦士たちが目についた。


 戦士たちはほとんど動かない。

 かろうじて動ける者が地を這いながら、回復魔法を唱えていた。

 

 ― 深淵の防壁ウォール


 ― 暗号化プロテクト


 ファナと俺が同時にドーム型のシールドを展開した。

 シールドの外には13人程度の魔法少女と、主らしき者たちが武器を持って飛んでいる。

 すぐに破ろうとしていたが、跳ね返されていた。


 しばらくして少し距離を置いていた。

 こちらを観察しているようだ。


「ファナ」

「美憂ちゃんにはティナがいるから大丈夫。一人でも戦力が多いほうがいいでしょ? それより、アレは何・・・?」

 ファナが呼吸を整えながら、真っすぐ前を指す。


「さぁ・・・ゲームに持ち込んだキャラか何かか?」

「なんだろう・・・何か不安になるの」

 鍵を握り締めながら言う。

 

 シールドの外には全身銀色の人形のような者たちが鎖につながれていた。

 見にくいが、鋭い牙や翼、長い爪、角のようなものを持った者たちがいて、攻撃性を感じられる。


 彼らに繋がれた鎖は、一人の魔法少女に集まっているように見えた。


「それに、ここに16人しか魔法少女がいないんなんて・・・どうゆうことなの?」

 ファナが珍しく冷静さを欠いていた。


「カイト様・・・・」

「待ってろ」


 ― ヒール ―


 近くにいた剣士の傷口を癒す。

 ほとんどが出血多量で死にそうになっていた。


「僕よりも・・・魔法少女を・・・・」

「エミリー、ハナ、サクラ!」

 ノアが倒れている魔法少女に駆け寄っていく。


「い・・・今、回復魔法を・・これは、どんな攻撃を受けたの? 何が起こって」

「ノア・・・ごめん・・・みんな、やられちゃったの」


「謝らないで」

 ハナがノアの手を握った。


「何があったんだ? 苦しいのか?」

「カイト様」

 エミリーに近づいて、腕に触れる。


「!?」

 肉体は弱っているのに、魔力が高まっている。

 指の先からじわじわと鉄のようになっていき、何かになろうとしていた。 


 まさか、あの魔法少女の周りにいる魔物は・・・。


「私たち、突然攻撃を受けて、回避できなかった」

「空軍機が爆破されて・・・外に逃げたところを・・・・」


「魔法少女は・・・みんな、あの姿になる毒を打ち込まれた。一瞬だった。私も・・・・」

 エミリーが息絶え絶えに言う。


「無理してしゃべらないで」


「あ・・・・あと少しで、みんな、あの銀色の魔物になってしまうの」

 別の魔法少女がよろよろしながら近づいてきた。

 頬が銀色になっていた。


「いや・・・いや・・・・そんな魔法ないよ。本に載ってなかったもん」

 ノアが首を振る。


「電子世界では・・・あるみたい・・・」


「カイト、何とかならないかな?」

 アクアが震えながら言う。


「何か方法があるよね? だって、まだ・・・・」


「いや・・・・」

「これは・・・かなり難しいね。初めて見る症状だ。鉄? 電子世界特有のものか?」

 ラインハルトが近くにいた少女の銀化した足を見ていた。


「私も初めて。カイトのシールドと私のシールドがかかっているのが幸いね。あいつら、身動き取れないみたい。もしこっちに来れたら、魔法少女の銀化の速度を速めていたはず」

「・・・・・・・」


 ウイルス感染か・・・?


 ワクチンを作るにも時間がかかる。

 どんなコードが組まれて異常をきたしているのかわからない。


 レベッカの処理能力があれば・・・・・。


 いや、レベッカはいない。頭を回転させろ。


 俺のせいで、また、たくさんの魔法少女が・・・。


「殺すしか方法は無いよ」

 カマエルが地面を蹴った。


「あの姿にされた魔法少女は死んでいる。体だけ魔物の形にされているんだ。魔女っていうのかな? 魂は天界にいってるよ」


「カマエル様・・・」

「魔神カマエル様なのですか・・・?」

 魔導士の男が顔を上げる。


「そうだよ。久しぶりだね」

「も・・・申し訳ございません。魔法少女だけがあの姿に・・・我々はやられるがまままで・・・ごほっ」

 血を吐いていた。


「今、回復魔法を」

 アクアが転げるように滑り込んで、回復魔法を唱えていた。

 心音が小さくなっている。おそらく手遅れだった。


「カマエル様、どうか私たちを・・・殺してくれませんか?」

「ごめんね。俺は魔法少女を殺す契約はしていない。契約以外のことはできないんだ」

 近くにいた魔法少女に声をかけていた。


「カイト様、私たちを殺してください・・・」


「嫌よ・・・本当に死ななきゃいけないの? そんな・・・みんなで頑張ってきたのに」

 フィオーレが涙を流しながら、その場に座り込む。


「あんまりだよ!」

「ねぇ、カイト! 嫌だ、いやだよ!」

 ノアがハナの手を握り締めながら、絶叫する。


「お願い、みんなで帰ろう。ここに居る子たちだけでも、ね、ね」


「・・・・・・」


「ううん。できない」

 ハナが砂埃のついた顔をこちらに向ける。


「カイト様、私たちを殺してください。私たち・・・このまま、あんな姿になって、みんなを傷つけたくないんです!」


 キィアアアアア


 銀色の魔物となった魔法少女たちが、シールドの外で吠えている。

 杖を持つ魔女のようにも見えた。


「お願い、お願いします! もう時間が無いんです」

「カイト様」


「ここに居る魔法少女を、全員、殺してください」 

 魔法少女たちの声が次々聞こえてくる。

 少女たちの身体は60%以上銀色になっていた。


「・・・・・」

「ねぇ」

 剣を持ったまま固まっていると、カマエルが隣に降りてくる。


「もうすぐその子たち、正気を失うよ」


「カイト様・・・・・・」

「俺は何もできないけど、神としては魔法少女のまま死なせてやりたい」

 半分ほど銀化した魔法少女が体を起こそうとしていた。


「・・・そうだな」

 剣にコードを埋め込んで、黒曜石のように漆黒に染める。


「カイト!」

「ラインハルト、ノアたちを移動させてくれ」


「・・・・わかった」


「カイト!!!」

「いやあぁああああ」

「辛いのはカイトも同じだ。誰かがやらなくちゃいけないんだよ」

 ラインハルトがノアとフィオーレとアクアを強引に掴んで、崩れた空軍機の傍に飛んでいく。


 

「戦士たちには効かない、魔法少女だけを殺すよう、コードを組んでる。これしかないんだろう? カマエル」

「あぁ、魔法少女が魔物にならないようにするにはね」


 あちらこちらからすすり泣く声が聞こえる。


「カイト様・・・」

 ふと、ハナと目が合った。

 涙を流して、ほほ笑む。


「すぐに楽になる。安心しろ」

「ありがとうございます。カイト様。王が貴方でよかった・・・」


「・・・・」

 地面にルピスを突き刺して、巨大な魔法陣を地面に展開する。


 ― 葬送炎 ―


 サアァァアァァァ


 黒い炎を放つ。

 銀化しそうになっていた魔法少女の肉体だけが、光の粒になって消えていった。

 炎の中にいた賢者が体を起こして、魔法少女の名を叫んでいた。



「いやあぁぁぁぁああああああ」

「行くな!!!!」

「うわぁぁぁああああああ」


 慟哭。


 あちらこちらから、叫び声が聞こえる。


 体を掻きむしり、声を絞る。

 獣に近い、人間の声だった。


「損な役回りね、カイト」

「俺がもっと早く異変に気付いていれば・・・クソッ・・・」

 剣を握り締めて片膝をつく。


「王失格だな・・・」

「魔法少女は生きるか死ぬかしかない。死に方を選べただけで、彼女たちは幸せよ」

 ファナが首から下げていた鍵を握り締めて、十字を切る。


「空軍第1部隊の魔法少女56人、全員死亡・・・ね」


「誰に祈ってるの?」

「魔法少女が安らかに眠るよう、魔法少女に祈ってるの」

「ふうん」

 カマエルが手を上げる。


「俺は戦の魔神だ。死者は必ず迷わず天界へ運ぶ」

 丸い光のシャボン玉のようなものがいくつも現れた。


「だから、心配するな」

 カマエルが近くの玉を突く。


 七芒星の光のような蒼い玉がふわふわとしながら、空に昇っていった。

 ファナが手を組んだまま、天を仰いでいる。

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