43 リリスの呪い
「リリスの呪いから、君を解き放つのは『黄金の薔薇団』に預けるのが得策だと思ったんだ」
「何の呪いだよ!」
カマエルの胸ぐらを掴む。
「適当なこと言うな!」
「君は覚えていないかもしれないけど、このやり取り、もう何十回もやってるんだよ。君が何度もリリスを好きになるのは呪われたからなんだ」
冷静に言う。
「は・・・・?」
「三賢のリリスは、さすがだよ。魔神サマエルに自分を好きになるように願ったんだ。魔神サマエルは願いを叶えるために、人間にならなければいけなかった。この話、誰からも聞いてないみたいだね」
「・・・・・」
「・・・・・」
手を緩める。
ラインハルトとファナが沈黙していた。
美憂はファナの服をぎゅっと握り締めている。
「君のリリスへの想いは全て呪いのせいだ。俺は『黄金の薔薇団』を否定しない。奴らがリリスを永遠に眠らせて良かったと思う。正直、このまま、魔法少女戦争から外れてもらいたい」
「七陣魔導団ゲヘナの魔神なのに、他の魔法少女を優先させるのか?」
「もちろん、七陣魔導団ゲヘナが勝てばいい。でも、リリスは悪女だ。君が思っているよりもずっと、ね」
カマエルが目を細める。
「俺は何度も見てる。君が・・・君ほどの権力を持つ魔神が、座につくことなく、人間に生まれ変わり、魔法少女戦争に巻き込まれるのを、何度も何度もね」
「・・・・・・」
「だから、あの司祭たちが『黄金の薔薇団』と連携を取りながら、リリスがさらわれるのを見ていた。俺の存在自体邪魔だったのか、司祭が『黄金の薔薇団』の力を借りて、俺を封じたときの喜び方は傑作だったよ」
ふわっと飛んで、魔法陣の周りを歩いていた。
「人間ってバカだけど、あそこまでバカだと清々しいね」
「・・・どうして、お前が俺のことを気にする?」
「旧友なんだ・・・。魔神サマエルと」
力なく笑った。
「旧友・・・・・・・・」
「そう。放っておけないよ。ま、君に何言ってもわからないと思うけどね」
遠い昔、どこかで、カマエルの顔を見たことがあるような気がした。
「・・・『黄金の薔薇団』への行き方を知ってるんだろ?」
「知ってるよ。でも・・・・」
「教えないなら自分で探す。このゲーム・・・『RAID5』内にはいないらしいが、どこかに『黄金の薔薇団』に続くゲートがあるんだろ」
カマエルに背を向けて歩く。
ラインハルトとファナが声をかけようとして、手を引っ込めた。
「お前らがリリスの何を知ってるのかわからない。俺は確かに呪われてるかもしれない。でも、リリスを助けたいのは確かだ」
「カイト・・・」
「何があっても、探し出す。絶対に・・・」
リリスから貰った金色の指輪の魔法陣が煌めいたような気がした。
バタン・・・
突然、勢いよく扉が開く。
「カイト! シロナの様子がおかしいの!」
ティナが息を切らしながら、入って来た。
「シロナが?」
「とにかく早く来て!」
「・・・あぁ」
カマエルのことも視界に入っていないようだった。
「同じ言葉ばかり繰り返すの。せっかく友達になれそうだったのに・・・」
「落ち着け。シロナはそんなに弱くない」
「うん」
ティナが今にも泣きそうな顔で、走っていく。
聖堂を出る時、美憂がこちらを気にしていたが、ファナに任せてティナの後をについていった。
「シロナ?」
『処理不能・・・ゲート、オン、リスク回避、回避回避回避、文字コード変換できません』
シロナがソファーに座って、どこか一点を見つめながらぶつぶつ話していた。
「落ち着いて、シロナ」
『不要、不要、非常事態につき、モード変更』
レベッカとノアがシロナに冷たいハーブティーを飲ませようとしていたが、シロナは無視して話し続けている。
『起動・・・・シャットダウン、起動・・・コマンド開きます』
「カイト、これはバグじゃないよね・・・?」
フィオーレが不安そうにシロナを見つめる。
「空軍第1部隊とのモニターもつかなくなったの。ついさっきまで更新していたのに」
「シロナに何か関係あるの?」
空軍第1部隊と繋いでいたモニターが真っ暗になっていた。
「違うな。シロナ、言葉に変換しなくていい。コードをそのまま俺に話してみろ」
『切り替え、オン。XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX・・・・・・・』
シロナが一気に話した。
処理速度を短くするために、動作と余計な言葉を省いていたようだ。
「い、今ので、カイト、わかるの?」
「わかるよ。概要はこうだ」
シロナが頷いて口を閉ざす。
シロナは空軍第1部隊が電子の壁にぶつかったことを話していた。
着陸先が行きどまりで、モニターからは更新ができなくなり、空軍機が直接コードを送って来たらしい。
魔法少女の戦闘は始まっていると説明しようとしていた。
S-JISコードに変換ができず、文字化けを起こしていたらしい。
向こうの魔法少女は、通信から10分後に転移魔方陣を展開すると話していた。
「えっ!?」
「要約すると、第1空軍機が危ないってことだ。メッセージを送ったときには応答できて問題ないことを確認している。1時間前か・・・その後だろうな」
モニターを確認したが、第2部隊と第3部隊は正常に動いているようだ。
指を動かして、接続モードに切り替える。
「ノア、アクア、転移魔方陣の展開の準備を頼む。繋がったな。第1部隊が電子の壁にぶつかった。エリアマップはかなり出来上がっている。第2部隊、第3部隊は周囲の情報を確認して着陸の用意を」
『かしこまりました』
なるべく、安全な場所まで戻り、留まるように指示する。
「ラインハルト、ノア、アクア、行くぞ」
「あ、僕ね。わぁ、嬉しいな。どんな血だろう」
ラインハルトが両腕を伸ばしていた。
「また私、留守番?」
「悪いな。シロナが元に戻ったら、ティナの負担は減らすから」
「・・・絶対だからね」
シロナを横に寝かせて、休ませる。
キャパがオーバーして熱くなっていた。
「カイト、私も行きたい! 戦闘になるなら魔法少女は多いほうがいいから。嫌な予感がするの」
フィオーレが鍵を握り締めて、珍しく焦っていた。
ルナリアーナは反対に戦闘のことを話さず、シロナの傍に座っていた。
「カイト様にとって大切な魔法少女・・・なら、私が絶対に守るから」
シロナの髪を撫でながら言う。
「ねぇ」
カマエルが指令室に入ってくる。
「あ・・・・黒い翼? 魔神・・・」
「そう、七陣魔導団ゲヘナの魔神カマエルだ。まぁ、全員の記憶が消されてたんだよ。思い出した?」
「えっと・・・そういえば・・・」
フィオーレが口に指を当てる。
「って、んなことどうでもいいんだ」
カマエルが腕を組む。
「急いだほうがいいよ。七陣魔導団ゲヘナの魔法少女死んでいってるから」
「え・・・・」
「命が消えていってる。早くしなきゃ、空軍第1部隊は全滅だ」
「!!!」
言葉を発するまでの数秒が長く感じられた。
電子機器が潰されていたが、シロナが話していたコードの通り魔法陣を展開するように言う。
アクアが手を滑らせながら鍵を出して、転移魔方陣を展開した。
「俺は先に見に行くよ」
シュンッ
カマエルが一瞬で消えていった。
黒い翼がふわふわと揺れて落ちてくる。




