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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第二章 電子世界

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41 夢を見ている間は

「婚約者!?」


「はい、レベッカといいます」

 レベッカが赤いリボンを結び直してお辞儀した。


 空軍機に戻って来ると、すぐにティナとノアとアクアとフィオーレに囲まれた。


「な・・・カイトたちが敵地に乗り込んだっていうから、すごく心配してたのに・・・まさか、婚約者とイチャイチャしてたってことなのの!?」

「見損なった」

「同感・・・こっちは怪我人の手当てと他の軍への連携で大変だったのよ」

 ティナとアクアとフィオーレが怒りに満ちた表情で言う。



「初対面だって」 

「それはない」

「は?」

 なぜか、レベッカが膨れて反論する。


「か・・・・カイト様に婚約者? 本当なんですか? 嘘ですよね? まさか・・・まさか・・・婚約者ってことはあんなこともこんなことも・・・初夜は私とだと思っていたのに・・・・」

 ルナリアーナがその場に崩れ落ちる。


「カイトって裏で女作るタイプだったのか」

 アクアが心底軽蔑した目を向ける。


 空軍機にいる魔法少女や戦士たちもこちらを見てざわついていた。


「だから何度も言ってるだろ? 勘違いだ!」


「リリスはどうしたの?」

「どうしたのって・・・そもそも初対面だって言ってるだろ?」


「どうかなぁ・・・?」

 ファナがにやけながら言う。


 知っていながら、煽っているな?


「カイトの言ってることは本当だと思うよ」

 リルムが間に入った。


「レベッカは魔法少女サイト・・・空軍機を襲った魔法少女の一人だよ。カイトの婚約者を名乗って、私たちを陥れようとしているのかもしれない」

「リルム・・・」

 ティナがはきはきと話すリルムを見て、目を丸くしていた。


「仲間は・・・魔法少女サイトのみんなは私を残して死んじゃった。神との契約違反を犯したの。でも、私は契約をした神が違うから、生き残れただけ」


「・・・・・・・」


「でも、そこで待っていれば絶対カイトは来ると思ったの。私たちの思い出の地だもんね?」

 レベッカがくるっと表情を変えて、近づいてくる。


「いや、そもそも俺は電子世界なんか行ったことな・・・」


 一瞬、アルバイトでゲームのデバッグをしていた時のことを思い出していた。


 魔法少女サイト・・・魔法少女育成ゲーム・・・。


 試験項目、魔女によって、背景が変わるエリア。


 ルート切り替え・・・姫・・・クエスト・・・。


「・・・まさか・・・『ラナ・プロファイルⅡ』ってゲームの話か?」

「そう!」

 レベッカが満面の笑みで頷く。


「マジか・・・・」


 『ラナ・プロファイルⅡ』はアクション系RPGだ。

 イベントの一つに、魔女の館に関するものがあった。


 プレイヤーは魔女に捕えられた人間たちを救い、英雄となる。


 魔女に傷つけられたラナ王国の姫と、友情を築く、別れる、婚約するの3つのルートがあった。

 全ルートが試験項目対象だったから、全てやって異常がないことを確認していた。


「如月カイトは私との婚約を選んでくれたの」


「違うって、あれはゲームをデバッグする試験項目で、全ルートやらなきゃ試験にならなくて・・・」

「違くない。ちゃんと私にプロポーズしたもの!」


「それは、最後にやった試験項目だからだ」

「んー」

 一歩下がった。

 レベッカがぐいぐい近づいてくる。

 

「関係ない。出会ってすぐに、『一目ぼれした。君と出会うためにここに来たんだ。レベッカを一生幸せにする』って言ってくれた」

 顔を赤らめて、頬に両手を当てながら言う。


「!!」

 一言一句ズレなく、ゲームの選択肢の言葉だ。


「一生!?」


「いや、だから、それはリリース前の試験項目に書いてあっただけで・・・」


「へぇ、いいこと聞いちゃった。リリスに会ったら教えてあげるよ」

「リリスは関係ないだろ」

 ファナが噴き出しそうなのを堪えているように見えた。


「間違いない。ゲームをデバッグしていた時の試験項目だって・・・ん? あのゲームにいるのは、ゲームのキャラだけだ」

 レベッカの瞳を見る。


「レベッカ・・・どうして・・・」

「私はね『ラナ・プロファイルⅡ』のキャラ、ラナ王国の姫レベッカ。魔法少女になって、願いを叶えてもらった。今はキャラじゃない、普通の女の子だよ」

 両手を伸ばしてくるっと回った。


「365度女の子」


「・・・・・・・」

 

 一瞬、沈黙が降り落ちた。


『問題ないかと思います。ここ数年のゲームキャラは人工知能が導入されており、私のように自我があります。レベッカもそうだったのでしょう』

 シロナがモニターを見ながら淡々と話す。


「そうゆうこと。ん? 貴女も人工知能なの?」

『はい。私は如月カイトがAIを使用して創り出した完全自立型アンドロイドの魔法少女です。NO2・・・ではなく、シロナといいます。ケルト神の女神由来とのことです』


「へぇ、シロナね。すごい、カイトが創ったの?」

『はい。七陣魔導団ゲヘナに関する情報は、事前にインプットされています』

 レベッカが目を輝かせてシロナと話していた。 



「ふぅ・・・よかった。ゲームの中の話ね・・・焦っちゃった」

 ルナリアーナが自分の頬をぺちんと叩いていた。


「本当のところはわからないわ。デレデレしてるみたいだし」

「ティナ、疑い深い女は嫌われるよ」


「べ、別に、カイトにどう思われようと関係ないわ。それより、ラインハルトと繋いで。セレーヌ城の状況を確認しなきゃ」

『かしこまりました』

 ティナがシロナの後ろにつく。


「み・・・・みんな・・・・」

 リルムが機内の中にいる者たちに声をかける。 


「ずっと、言おうと思っててなかなか話さなくてごめん。今までごめんね。あたしが戦えたら勝てた戦闘もあったのに・・・ずっと・・・ミルムのことを忘れられなくて」


「リルム・・・」


「あたしじゃなくて、ミルムがここに居ればって思ってたの。あたしはミルムになれない・・・ミルムみたいに明るくないし、ミルムほど強くない・・・あたしなんかがここに居ていいって思えなかった」

 目に涙を溜めながら必死に話す。


「でも、もう一度仲間になってくれませんか? みんなを守りたい・・・」


「当たり前だよ!」

 ノアがリルムに抱きついた。


「リルムは今までもこれからもずっと仲間だよ!」

「ノア・・・・」


「魔法少女戦争・・・これからも苦しいことたくさんあると思う。ここに居るメンバーが全員生きられる可能性なんてほとんどない」

 絞り出すように言う。


「だから、せめて支え合おう。七陣魔導団ゲヘナはね、魔法少女だけじゃなくて、他の多くの人たちも助けてくれるよ。辛いことも楽しいことも、一緒に分け合っていこう」

「・・・うん」

 2人を見て、魔法少女や賢者たちも泣いていた。


 ふと、ファナが外に出ていったのに気づく。

 ティナやフィオーレたちのすすり泣く声を聞きながら、静かにデッキへの階段を上っていった。




「カイトも来たんだ」

「あぁゆう、湿っぽい話が苦手なのか?」

 ファナがふと笑って、手すりを掴む。


「・・・・私にも昔、仲間がいて、そう思ってた時期があったなって懐かしくなってただけ」

「でも、これだけ人数もいれば裏切る者もいるよな」

 低い声で言う。


「気づいてたの?」

「・・・まぁな」

 ファナの隣に寄りかかって、デッキのほうを見つめた。


「リリスがさらわれたのは、『黄金の薔薇団』と繋がっている者が七陣魔導団ゲヘナにいるからだ。そろそろ警戒心も解けてきたし、炙り出してやる」

「せっかくリルムが入って6人の魔法少女が団結して、周りの戦士たちも気合が入ってるところに、水を差すようなことしちゃうの?」


「痛いところを突くな」

 頭を搔く。


「私、性格悪いから」

「本当にな」

「性格悪いから、前回の魔法少女戦争に勝てたんだよ」

 ファナが舌を出して、いたずらっぽく言った。


「優しすぎるのは仇になるの、カイト」

「できれば、他の魔法少女には明かさずに動きたい」


「難しいって。王の動きには敏感だもの」

「わかってるよ。バレたら仕方ない」


「カイトは止められないか。リリスのことだもんね」

「・・・あぁ。ファナ、ちゃんと俺の命令に従えよ」


「もちろん、主の命令は絶対だもの。カイトも、私のことは信じてね。契約した魔神も主もカイトだけなんだから・・・」

 ファナが目を細める。


「魔法少女の子たちが、夢を見ていられる間は、ちゃんとその夢に付き合うよ」

「・・・・頼むよ」


 空軍機の魔力が正常になり、分厚くなった結界を眺めながら息をついた。

 静かになると、魔法少女たちの明るい笑い声が聞こえてきた。

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