41 夢を見ている間は
「婚約者!?」
「はい、レベッカといいます」
レベッカが赤いリボンを結び直してお辞儀した。
空軍機に戻って来ると、すぐにティナとノアとアクアとフィオーレに囲まれた。
「な・・・カイトたちが敵地に乗り込んだっていうから、すごく心配してたのに・・・まさか、婚約者とイチャイチャしてたってことなのの!?」
「見損なった」
「同感・・・こっちは怪我人の手当てと他の軍への連携で大変だったのよ」
ティナとアクアとフィオーレが怒りに満ちた表情で言う。
「初対面だって」
「それはない」
「は?」
なぜか、レベッカが膨れて反論する。
「か・・・・カイト様に婚約者? 本当なんですか? 嘘ですよね? まさか・・・まさか・・・婚約者ってことはあんなこともこんなことも・・・初夜は私とだと思っていたのに・・・・」
ルナリアーナがその場に崩れ落ちる。
「カイトって裏で女作るタイプだったのか」
アクアが心底軽蔑した目を向ける。
空軍機にいる魔法少女や戦士たちもこちらを見てざわついていた。
「だから何度も言ってるだろ? 勘違いだ!」
「リリスはどうしたの?」
「どうしたのって・・・そもそも初対面だって言ってるだろ?」
「どうかなぁ・・・?」
ファナがにやけながら言う。
知っていながら、煽っているな?
「カイトの言ってることは本当だと思うよ」
リルムが間に入った。
「レベッカは魔法少女サイト・・・空軍機を襲った魔法少女の一人だよ。カイトの婚約者を名乗って、私たちを陥れようとしているのかもしれない」
「リルム・・・」
ティナがはきはきと話すリルムを見て、目を丸くしていた。
「仲間は・・・魔法少女サイトのみんなは私を残して死んじゃった。神との契約違反を犯したの。でも、私は契約をした神が違うから、生き残れただけ」
「・・・・・・・」
「でも、そこで待っていれば絶対カイトは来ると思ったの。私たちの思い出の地だもんね?」
レベッカがくるっと表情を変えて、近づいてくる。
「いや、そもそも俺は電子世界なんか行ったことな・・・」
一瞬、アルバイトでゲームのデバッグをしていた時のことを思い出していた。
魔法少女サイト・・・魔法少女育成ゲーム・・・。
試験項目、魔女によって、背景が変わるエリア。
ルート切り替え・・・姫・・・クエスト・・・。
「・・・まさか・・・『ラナ・プロファイルⅡ』ってゲームの話か?」
「そう!」
レベッカが満面の笑みで頷く。
「マジか・・・・」
『ラナ・プロファイルⅡ』はアクション系RPGだ。
イベントの一つに、魔女の館に関するものがあった。
プレイヤーは魔女に捕えられた人間たちを救い、英雄となる。
魔女に傷つけられたラナ王国の姫と、友情を築く、別れる、婚約するの3つのルートがあった。
全ルートが試験項目対象だったから、全てやって異常がないことを確認していた。
「如月カイトは私との婚約を選んでくれたの」
「違うって、あれはゲームをデバッグする試験項目で、全ルートやらなきゃ試験にならなくて・・・」
「違くない。ちゃんと私にプロポーズしたもの!」
「それは、最後にやった試験項目だからだ」
「んー」
一歩下がった。
レベッカがぐいぐい近づいてくる。
「関係ない。出会ってすぐに、『一目ぼれした。君と出会うためにここに来たんだ。レベッカを一生幸せにする』って言ってくれた」
顔を赤らめて、頬に両手を当てながら言う。
「!!」
一言一句ズレなく、ゲームの選択肢の言葉だ。
「一生!?」
「いや、だから、それはリリース前の試験項目に書いてあっただけで・・・」
「へぇ、いいこと聞いちゃった。リリスに会ったら教えてあげるよ」
「リリスは関係ないだろ」
ファナが噴き出しそうなのを堪えているように見えた。
「間違いない。ゲームをデバッグしていた時の試験項目だって・・・ん? あのゲームにいるのは、ゲームのキャラだけだ」
レベッカの瞳を見る。
「レベッカ・・・どうして・・・」
「私はね『ラナ・プロファイルⅡ』のキャラ、ラナ王国の姫レベッカ。魔法少女になって、願いを叶えてもらった。今はキャラじゃない、普通の女の子だよ」
両手を伸ばしてくるっと回った。
「365度女の子」
「・・・・・・・」
一瞬、沈黙が降り落ちた。
『問題ないかと思います。ここ数年のゲームキャラは人工知能が導入されており、私のように自我があります。レベッカもそうだったのでしょう』
シロナがモニターを見ながら淡々と話す。
「そうゆうこと。ん? 貴女も人工知能なの?」
『はい。私は如月カイトがAIを使用して創り出した完全自立型アンドロイドの魔法少女です。NO2・・・ではなく、シロナといいます。ケルト神の女神由来とのことです』
「へぇ、シロナね。すごい、カイトが創ったの?」
『はい。七陣魔導団ゲヘナに関する情報は、事前にインプットされています』
レベッカが目を輝かせてシロナと話していた。
「ふぅ・・・よかった。ゲームの中の話ね・・・焦っちゃった」
ルナリアーナが自分の頬をぺちんと叩いていた。
「本当のところはわからないわ。デレデレしてるみたいだし」
「ティナ、疑い深い女は嫌われるよ」
「べ、別に、カイトにどう思われようと関係ないわ。それより、ラインハルトと繋いで。セレーヌ城の状況を確認しなきゃ」
『かしこまりました』
ティナがシロナの後ろにつく。
「み・・・・みんな・・・・」
リルムが機内の中にいる者たちに声をかける。
「ずっと、言おうと思っててなかなか話さなくてごめん。今までごめんね。あたしが戦えたら勝てた戦闘もあったのに・・・ずっと・・・ミルムのことを忘れられなくて」
「リルム・・・」
「あたしじゃなくて、ミルムがここに居ればって思ってたの。あたしはミルムになれない・・・ミルムみたいに明るくないし、ミルムほど強くない・・・あたしなんかがここに居ていいって思えなかった」
目に涙を溜めながら必死に話す。
「でも、もう一度仲間になってくれませんか? みんなを守りたい・・・」
「当たり前だよ!」
ノアがリルムに抱きついた。
「リルムは今までもこれからもずっと仲間だよ!」
「ノア・・・・」
「魔法少女戦争・・・これからも苦しいことたくさんあると思う。ここに居るメンバーが全員生きられる可能性なんてほとんどない」
絞り出すように言う。
「だから、せめて支え合おう。七陣魔導団ゲヘナはね、魔法少女だけじゃなくて、他の多くの人たちも助けてくれるよ。辛いことも楽しいことも、一緒に分け合っていこう」
「・・・うん」
2人を見て、魔法少女や賢者たちも泣いていた。
ふと、ファナが外に出ていったのに気づく。
ティナやフィオーレたちのすすり泣く声を聞きながら、静かにデッキへの階段を上っていった。
「カイトも来たんだ」
「あぁゆう、湿っぽい話が苦手なのか?」
ファナがふと笑って、手すりを掴む。
「・・・・私にも昔、仲間がいて、そう思ってた時期があったなって懐かしくなってただけ」
「でも、これだけ人数もいれば裏切る者もいるよな」
低い声で言う。
「気づいてたの?」
「・・・まぁな」
ファナの隣に寄りかかって、デッキのほうを見つめた。
「リリスがさらわれたのは、『黄金の薔薇団』と繋がっている者が七陣魔導団ゲヘナにいるからだ。そろそろ警戒心も解けてきたし、炙り出してやる」
「せっかくリルムが入って6人の魔法少女が団結して、周りの戦士たちも気合が入ってるところに、水を差すようなことしちゃうの?」
「痛いところを突くな」
頭を搔く。
「私、性格悪いから」
「本当にな」
「性格悪いから、前回の魔法少女戦争に勝てたんだよ」
ファナが舌を出して、いたずらっぽく言った。
「優しすぎるのは仇になるの、カイト」
「できれば、他の魔法少女には明かさずに動きたい」
「難しいって。王の動きには敏感だもの」
「わかってるよ。バレたら仕方ない」
「カイトは止められないか。リリスのことだもんね」
「・・・あぁ。ファナ、ちゃんと俺の命令に従えよ」
「もちろん、主の命令は絶対だもの。カイトも、私のことは信じてね。契約した魔神も主もカイトだけなんだから・・・」
ファナが目を細める。
「魔法少女の子たちが、夢を見ていられる間は、ちゃんとその夢に付き合うよ」
「・・・・頼むよ」
空軍機の魔力が正常になり、分厚くなった結界を眺めながら息をついた。
静かになると、魔法少女たちの明るい笑い声が聞こえてきた。




