38 魔法少女サイト③
「ピュリアはナオの分も仇を取るんだから!」
「ふうん」
「な・・・何よ。ピュリアは負けない。みんながいるんだから!」
ピュリアはリルムの圧倒的な力に震えていた。
リルムが低い位置から剣を構えて、力強く地面を蹴った。
勝負は一瞬で決まった。
「え・・・・」
リルムの剣がピュリアの胸を貫く。
「あ・・・・・」
「さようなら。ごめんね」
消えていくピュリアに小さく呟いているのが聞こえた。
日差しにきらきらと反射しながら消滅していく。
「魔法少女に謝る必要なんかないのに。魔法少女になったときから、殺すか殺されるかの立場になるんだから、謝ってたらキリがない」
「普通はそんなに簡単に割り切れないだろ」
「・・・・そっか、でも、普通じゃ勝ち残れないんだけどね」
ファナがため息交じりに言う。
リルムが手を伸ばして、俺たちの前にある柵の魔法を解いた。
軽く飛んで戻ってくる。
「終わったよ」
「他の魔法少女と比べて違和感はあったか?」
「モニターが邪魔なことくらいかな」
リルムが剣を消して、自分の手を見つめていた。
「今回は何かされた感覚も無い」
「そうか」
「ねぇ、カイト、早く行かないと・・・」
ファナが街のほうを見つめていた。
「今の戦闘モニターに映ってたでしょ? きっと、あの魔法少女たちの仲間が集まってくる。谷間にある空軍機を狙ってくるかもしれない」
「空軍機のことは心配しなくていいよ。魔力さえあれば問題ない。魔神の力が宿ってる機体だからね」
「え・・・な・・・なるほど」
リルムが言うと、ファナがすんなり納得していた。
「じゃあ、空軍機の傍にいたほうがいいかな? 待つのは性に合わないけど」
「あ、カイト」
「行くぞ。魔法少女サイトの居場所はわかってる」
風に乗るようにして、街のほうへ飛んでいく。
攻め込んできた魔法少女を叩いても意味がない。
魔法少女サイトの拠点ごとぶち壊さなければ・・・。
「この場所であってるよね?」
「・・・あぁ、一応な」
3人で呆然と立ち止まる。
街は想像していた街と、大分違った。
「えっ・・・こんな街ありえるの?」
「AIが生成したゲームの世界だから・・・魔法少女の要望とか聞いてたらこうなったんだろ」
「う・・・悪趣味・・・」
街はどこかのテーマパークのような雰囲気だった。
お菓子で作られたような建物が並び、真ん中にはケーキの形のオブジェが置かれていた。
入った瞬間、甘い香りがした。
「女子ってこうゆうのが好きなんじゃないのか?」
ガラス張りの店には、ドレスや魔法少女の服を着たマネキンが置かれている。
なんか、ものすごく入りにくい街だ。
美憂は好きそうな場所だったけどな。
「私は無理、寒気がする」
「あたしも無理。でも、ルナリアーナとか好きそう・・・」
リルムが腕で鼻を押さえて、顔をしかめていた。
「へぇ、ルナリアーナねぇ」
「ノアは3日で飽きそう。ティナとアクアは絶対嫌がる。フィオーレは・・・まぁ、いたらなんとなく馴染みそう。お菓子作り好きだし」
「よく見てるな」
「・・・・ずっと一緒にいたし、別に、みんなのこと嫌いじゃないし」
視線を逸らして、照れながら口をもごもごさせていた。
『騎士集結だ!!』
突然、魔法陣が展開され、斧や槍、剣などの武器を持った鎧を着た者たちが13人集まって来た。
剣とモニターを同時に出す。
「これはプレイヤー?」
「みたいだな」
ファナが杖を構える。
モニターには魔法少女サイトを守る騎士と表示されていた。
「騎士って・・・」
『俺たちは魔法少女サイトを守る聖なる騎士だ。管理人βの招集で集まったんだ』
「は?」
「管理人βって・・・」
『マジか。会話できてる。本当にゲームの中に入ったみたいだ』
騎士の一人が、俺たちを無視して、興奮気味に話していた。
『ルベオ、駄目だよ。気を抜いちゃ』
『ごめんごめん。つい・・・』
『ピュリアたんとナオたんを殺したのはそこの魔法少女で間違いないよね?』
「そう。あたしだよ。見てたんでしょ?」
リルムが剣を出して、刃を赤く染めた。
『俺はピュリアたん推しだったんだ! 絶対に許せない! 今すぐ捕えて拷問するべきだ』
『そうだ。俺たちの魔法少女ピュリアたんとナオたんを!!』
「あんたたちの魔法少女? 気色悪い。魔法少女は誰かの人形じゃないんだから。勘違いしないで」
ファナが鼻で笑う。
『こいつ・・・・』
『まぁまぁ、2人とも可愛い魔法少女じゃん。ちょっと手荒なことをすれば服従するかもしれない』
『私は手荒なことは反対。魔法少女は大事にしなきゃ』
騎士の中には女もいるようだった。
「馬鹿ばっか」
ファナが呆れたような息をつく。
ザザザザザザザザザ
「!?」
騎士1人に対して、2つのモニターが現れた。
画面には、ファナとリルム、コメント欄が表示されている。
『ほら、この2人も美少女だから大人気。ピュリアたんとナオたんは可哀そうだったけど、2人が新たな魔法少女サイトの一員になればいい』
『私たちが守ってあげるわ。さぁ・・・』
騎士が手を伸ばしてきた。
「カイト、下がってて。ここは私がや・・・」
ガッ
剣を地面に突き立てる。
刃に刻まれたコードを地面に落として、巨大な魔法陣を展開する。
手のひらを天に向けた。
― 伯爵の槍―
ドドドドドッドドドッド
「!?」
地面から漆黒の槍が現れて、13人の騎士たちを一気に串刺しにした。
ファナとリルムが武器を持ったまま、固まる。
『こ・・・これは・・・』
『せっかく、ログインして来たのに・・・』
『安心しろって・・・管理人βは、このアバターは消滅するって言ってなかった・・・体勢を立て直して』
串刺しになったにもかかわらず、淡々と会話していた。
「消滅するように、コードを組んでるから無理だよ」
『え?』
パチンッ
ボウッ
指を鳴らした。
一瞬で燃え上がり、アバターは光の粒になって消滅していった。
剣に刻んだコードを戻していく。
「今のってリリスの魔法・・・だよね? カイトも使えたの?」
「元はロストグリモワールに書かれていた魔法だ」
「ロストグリモワール?」
「ただのファンタジー小説みたいなものだよ」
「?」
ファナが首を傾げていた。
消えていく寸前、モニターに書かれたコメントが見えた。
この状況さえ、楽しんでいるような書き込みだった。
視聴者は、ただ刺激を求めてるみたいだな。
サァ
冷たい風が吹く。
「久しぶり、リルム・・・だよね?」
「・・・・・・」
髪を三つ編みに結んだ魔法少女が、お菓子の家の屋根からこちらを見下ろしていた。
白い弓を持っている。
「!!」
リルムの表情が変わた。
「っ・・・・」
「待ちなさい!」
飛び掛かろうとするリルムを、ファナが腕を引っ張って止めた。
「離して!!!」
「罠かもしれないでしょ!?」
「ふふ、よくわかったね。もちろん罠だよ」
「あれ? 生き残ったのはミルムだっけ? リルムだっけ、わからないね」
「知り合い?」
「そうそう。双子の魔法少女の片割れ」
馬鹿にしたように言う。
魔法少女5人がお菓子の家の中から出てきた。
「っ・・・・お前・・・」
リルムの目が血走っていた。
こいつがミルムを殺した魔法少女か?
「ここに居るのは臆病者のリルムのほうだよ。双子の姉、ミルムを見捨てて逃げた魔法少女」
「んなわけない!!! よくも、よくもあたしの姉を!!!」
「馬鹿だよね。契約した神が違うんだから、敵対するに決まってるのに、仲間になろうなんて」
「あ、思い出した。リルムねリルム。泣き虫なリルム」
白いひらひらの服を着た魔法少女が、笑いながら言う。
「殺してやる!」
「リルム、落ち着きなさい! 怒りに身を任せると相手の思うツボでしょ」
「・・・行かせて、私が殺さなきゃ・・・」
「リルム・・・」
リルムが荒々しく呼吸していた。
こめかみには血管が浮き出ている。
ファナが冷静になるように促していたが、リルムの殺意は収まらなかった。
剣を回す。
― 安寧の手―
ゴオオォォォォオオ
「早く!」
「シールドが間に合わなっ」
「きゃっ・・・」
伯爵の槍を黒い手に変えて、魔法少女たちを縛り上げる。
「カイト・・・」
「・・・・・」
剣の周りは赤く光るコードに巻かれていた。
地面を蹴って、魔法少女たちに近づいていく。




