37 魔法少女サイト②
俺の中の俺が、あいつを殺せと言っている。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
神の名を汚す者を、殺せ。
「カイト?」
「・・・・クソが・・・・」
手で魔法少女の映るモニターに電流を流す。
バチンッ
火花を散らして消えていった。
「カイト!!」
リルムの声が遠く感じた。
黒く染まる剣に文字コードを刻み込んでいく。
頭に浮かんでくるコードを、剣は素早く具現化していた。
リリスが持っていた俺の剣は、俺の体の一部のようだ。
ジジッ
「カイト!?」
赤いコードが溢れ出して、テープのように自分の周りを取り巻いていた。
「ファナ! カイトを止めなきゃ!」
「え?」
「カイトは七陣魔導団ゲヘナの拠点で一度暴走したことがあるんだ。魔法少女たち全員が束になっても敵わなくて逃げた・・・死んだ魔法少女もたくさんいたんだ」
リルムが必死の形相で話していた。
「早く止めないと!! カイトを止められたのはリリスだけだった!」
俺のせいで死んだ魔法少女もいる。
でも、きっと俺は・・・。
「俺は正気だ、リルム」
「え・・・」
「奴らのところに行くぞ」
コードが大きな円を描いてから剣の中に納まっていく。
「ま・・・待って」
頭の中で、奴の痕跡とエリアマップを照らし合わせて、遠くに見える街を目指していた。
「ごほっ・・・ごほっ・・・・」
リルムが突然止まって、激しくせき込んでいた。
「ご・・・うっ・・・・」
「大丈夫? 少し毒が入り込んだみたい。カイト、毒抜きしなきゃ」
「ごほっごほ・・・」
「ゆっくり息を吸って」
ファナがリルムの背中に光を当てると、咳が収まっていた。
「わかった。あの木の陰で少し休憩を取ろう」
「うん」
「ごめん・・・」
リルムの腕を引っ張って背負う。
「気づかなくて悪かったな」
「・・・ううん・・・・」
顔色が悪くなっていた。
力を失い、抵抗することなく浅く息を吐いている。
魔法少女たちのいる街は目の前にある。
あの男の話だと、魔法少女サイトの舞台になっている場所だろう。
「これで、解毒完了」
「・・・ありがと」
「あの男が縛ってた縄に毒が入っていたのね。気づかなかった。これは・・・・昔からある毒、クコの樹から採取されるもので、前回の魔法少女戦争でもよく使われてた」
ファナが黒いシャボン玉のようなものを浮かせて、ぱちんと割った。
毒が中和されて、風になって消えていく。
「前回の魔法少女戦争で使われた魔法って、どこかに記録があるのか?」
「主が記録していればね。魔法少女は記録できない決まりなの」
さらっと話していた。
「カイト、魔法少女サイトについて調べてから行かなくてもいいの?」
「いい。奴らのいる場所はわかってるし、あんな映像見たくない。奴を二度と・・・二度とこの電子世界に入れなくしてやる」
「・・・・どうしてそんなに怒ってるの?」
リルムが胸を押さえて深呼吸してから、こちらを見上げる。
「あの魔法少女たちは、別にカイトに関係ないのに」
「本能だよ」
「・・・・?」
魔法少女のために怒っているわけじゃなかった。
捕らわれた魔法少女たちは、何かを想起させる。
― XXXX様、助けてくれてありがとう。
あの狭い部屋は息苦しかったから・・・ ―
誰かの言葉が頭に思い浮かんでいた。
ロストグリモワールには無い、誰かの言葉だ・・・。
サアァァァア
「次は負けません」
「負けるつもりはないもん」
2人の魔法少女がモニターを2台、自分の前に浮かせながら降りてきた。
ファナが杖を持ち直して立ち上がる。
「ピュリア、今までの成果を絶対発揮するから。ご主人様たちも絶対見ててね」
華やかなピンクの服を着た魔法少女ピュリアが、地面に足をつけて剣を構える。
魔法少女の動きに合わせて、モニターも移動している。
「ナオの活躍も見てほしいのです。応援ありがとう!」
2人とも、SNSでバズったアイドルのような服を着ている。
「そんなものくっつけて、よく戦闘できるわね。しかも服も派手だし、戦闘向きじゃなさそう」
「・・・・・・・」
リルムが剣を出して立ち上がった。
炎のような赤い剣だった。
「リルム、戦えるの?」
「毒は無くなったから問題ない。体の不調も無い。あたしだって七陣魔導団ゲヘナの7人の魔法少女の一人なんだから」
ファナよりも先に、リルムが前に出る。
― 柵―
ザザザザザザザザ
「!」
俺とファナの前に柵を出した。
「あたしにやらせて。2人は見てて」
「こうまでしなくてもいいじゃん」
「だって、すぐに手を出しちゃうでしょ」
リルムが軽く口角を上げて、2人の魔法少女に向かっていった。
ファナがつまらなそうに杖を回す。
「へぇ・・・すごい自信。え、みんなあの子も魔法少女サイトに入れたいの? 上手く捕まえられたらね。殺しちゃう可能性のほうが高いけど」
ピュリアが剣に魔力を込めていた。
「見ててくださいね。ナオファンのみんな!」
― 攻撃力防御力瞬発力上昇 ―
ナオが杖を振って、自分とピュリアにバフをかけていた。
リルムが勢いよく、ピュリアに突っ込んでいく。
キィンッ カン カン カン
炎のような剣は、刃にぶつかると火花を上げていた。
素早く斬り返し、ピュリアを追い込んでいく。
― 氷の刃 ―
ナオが巨大な氷を頭上に出現させる。
「いっちゃえー!!」
リルム目掛けて落ちてきたが、瞬時に剣で弾いた。
ドーン
「おー」
ファナが声を上げた。
氷が吹っ飛ばされていく。
しばらく経ってから遠くのほうで、氷の砕ける音が聞こえた。
「う・・嘘」
「フィジカルぶっ壊れてる?」
ピュリアがナオの傍に立ってて、呆気に取られていた。
リルムは冷静に剣を構えている。
「2人も騙されてるよ。魔法少女サイトで魔法少女を育成なんか、いいように使われてるだけ。逃げられないの?」
「そんなことない!」
「ナオたちは、ファンのみんなに力を貰ったのです」
モニターがナオを囲むように浮いている。
「あ・・・そ・・・・」
諦めたように剣の魔力を整えて、炎を強めていた。
リルムが出した柵越しに戦闘を眺めていた。
「へぇ、ちゃんと強いじゃん」
「7人の魔法少女の一人なんだから当然だろ。死のうとしてなくてよかったよ」
「この柵壊さなくてもよさそうね」
ファナが柵に手を置く。
「本当に、あのモニター邪魔。ぴったりくっついて気持ち悪いし」
4台のモニターがカメラのように3人の戦闘を追いかけていた。
ピュリアとナオは魔力はかなりあるが、電子世界にいることを上手く利用できていないようだ。
当然か。
外の人間が育成した魔法少女だから構えていたが、特に他の魔法少女と変わったところは見られなかった。
「でも・・・私がリルムの立場だったら、まともな魔法少女になれなかったかも」
ファナが目を細めながら言う。
「双子の姉が死んだのに、魔法少女でいなきゃいけないなんて耐えられないよね。私もお兄ちゃんを亡くしたとき辛かったから。容姿の変わらない私と反対に、老いていく兄を見るのも・・・」
「・・・・・・・」
「リルムに残酷なことしてるって、自覚はある。生きろだなんて、周りのエゴでしかないものね」
「そうだな」
リルムが飛び上がって、魔法陣を展開していた。
魔法陣を蹴ると、炎のドラゴンのように加速して、剣でナオの胸を貫いていた。
無言のまま光の粒になっていく。
ナオが消えると同時に、ナオの周りにあったモニターも消えていった。
「ナオー!!!!!」
ピュリアの悲痛な叫びが響き渡る。
リルムが剣を持ち直して、ピュリアに斬りかかる。
ピュリアが目を真っ赤にして、リルムの剣を止めていた。
「でも、リルムは七陣魔導団ゲヘナに必要だ。魔法少女たちにとって、な」
「ねぇ、カイトは大切な人を失ったことある?」
「あるよ。5年前に母親を亡くしてる。あとは・・・」
「あとは?」
「・・・・・・・・・」
「ふうん、リリスね・・・」
ファナが見透かしたようにこちらを見て、息をつく。
俺にとって、リリスは失ってはならない存在だった。
さらわれて、永遠の眠りについても、リリスが心の中にいなかったときはない。
おそらく、何度死んで生まれ変わっても、リリスと契約するだろう。
リリスは、もう、こんな日々を終わらせてしまいたいんだろうけどな。
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