36 魔法少女サイト①
『私もそっち行きたいのに!!』
「わかったって。今度はティナを連れてくから」
『どうせ、無理でしょ? 私がいないと、指示ができないもの』
画面を覗き込んだ瞬間、ティナが膨れていた。
「じゃあ、今度カイトにデートに連れて行ってもらったら?」
ファナが口に手を当てて、ティナに言う。
『はぁ!? そそそそそ、そんな、そうゆうのを望んでるわけじゃないから!』
『カイト様、私もデート行きたいです!』
『ルナリアーナ、割り込んでこないでって』
いつもと同じようなやり取りを、画面越しにやっていた。
ファナがくすくす笑っている。
『陸軍第1部隊の援軍、そっちに行った?』
ノアがルナリアーナとティナの間から顔を出す。
「あぁ、来てるよ。こっちの魔法少女や賢者たちは大分疲れて魔力が無いんだ。回復するまで空軍機を守ってもらえると助かる」
「わかった」
フィオーレとアクアが二手に分かれて、陸軍部隊を外に案内していた。
少数精鋭部隊の魔法少女たちは、籠いっぱいにシナモンの香りのする菓子パンを配っている。
混乱状態だった機内も徐々に片付いて、落ち着いてきていた。
「カイト、まさかここでずーっとゆっくりしてるわけじゃないよね」
ファナが白銀の髪を耳にかける。
「あぁ、向こうだってこのまま引き下がると思えないしな」
「そうじゃなくちゃ」
目をキラキラさせていた。
なんとなく、リリスと重なるな。
ライバルだったからか?
「フィオーレ、俺とファナは敵軍を探しに行く。何かあったら、連絡してくれ」
「うん・・・気をつけて」
フィオーレが陸軍を整列させながら手を振った。
「あたしも行く」
「リルム・・・また、何か・・・」
「魔法少女としていくよ」
赤い髪を一つに結び直していた。
ポニーテールが揺れる。
「7人の魔法少女の一人として。もちろん、死にたい気持ちはあるけど・・・」
小声で言いながら、フィオーレやアクアのほうに視線を向けていた。
「戻ったら、5人にちゃんと伝えたいことがあるから、生きて帰ってこなきゃ」
「そうか」
「そうゆうの、死亡フラグっていうんじゃないの? 大丈夫?」
ファナがリルムを見つめる。
「えっ・・・」
「”死亡フラグ”なんて言葉わかるのか?」
「古株扱いしないでよ。確かに前の魔法少女戦争は100年近く前だけど、私はずーっと生きてたんだから、思っている以上に知識も豊富なんだから」
七陣魔導団ゲヘナの全員がファナの存在を知っているわけじゃない。
「・・・・100年・・・」
こちらを見てなんとなく首を傾げている者もいた。
浮遊魔法で崖を上がって、空軍機を見下ろしていた。
陸軍の魔導士、魔法少女たちが中心となって、空軍機にシールドを張っている。
「どんな魔法少女出てくるかなー」
「俺たちも配信をやってみるか」
「えっ!?」
ファナが声を上げた。
飛びながらモニターを出して、自分のいる位置を確認する。
空軍機の割り出したマップは正確だ。
魔法少女の信号と重ねると、大体いる位置が分かった。
「外の情報が全くないのも不利なんだよな。リスナーから情報を貰えるのかもしれないし」
「ま、私はいいけど。可愛いし、アイドルみたいな? できれば積極的に出たいな」
「自分で言うのかよ」
「人気出てバズっちゃったらどうしよう」
ファナが頬に手を当てていた。
「あの丘を越えたところ・・・・見覚えがある」
リルムが冷静な口調で、遠くの草原を指していた。
うっすらだが、街のようなものも見える。
「誰かのバトルフィールドか?」
「違う・・・わからないけど・・・・」
リルムが言いよどむ。
エリアマップを見る限り、そこに魔法少女たちがいるようだな。
ジジジ ジジジ
「!」
何か魔力が違う。
電流の流れが変わった。
「2人とも、止まれ!!」
叫んだ。
― XXXXX ―
ファナが杖を前に出して、突然現れた黒い影のようなものを弾く。
しゅるしゅるしゅるしゅる
「い、いや・・・・・」
「リルム!」
「そっちの魔法少女は反応が早い。さすがだ。まぁ、想定内だよ」
黒いマントを羽織った男が、リルムを縄のようなもので縛り上げていた。
隣には銀色のドラゴンが飛んでいる。
「君も神秘的な魅力のある美少女だ。是非連れて行きたかったけど仕方がない」
「冗談じゃないわ!」
― ルピス ―
「う・・・動かない?」
剣を持ったまま、何かに固定されるように固まっていた。
「ロックをかけさせてもらったよ。君の剣には何か細工があるのかもしれないけど、強制ロックだ」
男がリルムを抱えたままドラゴンに跨る。
細い目に、色白の頬・・・。
空軍機を襲ってきたときに、先頭で指示していた奴だった。
― 業火―
ファナが辺り一面に炎を放った。
男とドラゴンは炎の中にいるにもかかわらず、何も影響を受けていない。
属性変更のできる、アバターなのか。
男が指を弾いた瞬間、消えていく。
「っ・・・・・」
「古の魔法は、電子世界では通用しないみたいだね? さっきみたいな力技でねじ伏せるような、極大魔法じゃないと」
「フン、強がりを・・・」
「・・・ぐ・・離せ・・・・」
リルムが苦しそうにもがしていた。
「リルム!!!」
「リルムっていうんだ。可愛いね、怒った顔も可愛い」
男がリルムに顔を近づけて笑った。
「僕のところには53人の魔法少女がいる。きっと君も喜ぶ。魔法少女サイトというのを立ち上げて、色んな人と話せるようになってるんだ。こんな電子世界に閉じ込められて、魔法少女だって不安だろ?」
「魔法少女サイト?」
「あぁ、僕は魔法少女サイトの管理人。ファンと魔法少女の仲介役みたいなものだ。もちろん、僕のところにいる魔法少女はみんな美少女だよ」
胸に手を当てて頭を下げる。
悪魔よりも悪魔みたいな奴だった。
― 絶対強制解除 ―
ザッ
剣のコードを変更して、男に剣を振り下ろす。
一瞬の離れた隙に、リルムを奪い返した。
ジジジジ ジジジジ
「っと、ここはゲームオーバーか?」
男が呟く。
ドラゴンが動くたびに電子音がした。
黒い目でこちらをみて尻尾を丸めると、天に向かって咆哮を上げる。
グアアアァァァァ
― 漆黒渦―
片手で剣を振って、魔法陣を展開する。
ドラゴンが吐いた炎を、目の前に出した黒い円の中に吸い込んでいった。
「カイト・・・」
「お前、プレイヤーか?」
縛られたままのリルムを抱え直す。
「どうしてわかったんだ?」
「AIならやらない行動だからな」
「なるほど。君もプレイヤー・・・には見えないけど、向こうの世界を知ってるってことか。七陣魔導団ゲヘナに君みたいなのがいたとは、強いはずだよ」
男が素早くモニターを出していた。
画面を大きくしていく。
「ファナ、リルムを頼む」
「うん」
ファナがリルムを浮かせたまま、縄を解こうとしていた。
「じゃあ、興味を持つかもしれないね。これが、魔法少女サイトだ」
「!?」
画面の中に魔法少女たちの生活が映っていた。
料理する者、魔法の練習をする者、談笑している者・・・。
七陣魔導団ゲヘナにいる魔法少女たちと変わらない。
決定的に違うのは・・・。
「こいつら・・・何やってるんだ?」
「サイテー」
ファナが吐き捨てるように言う。
魔法少女たちは四方八方にあるモニターに声をかけながら生活していた。
「魔法少女サイトは、魔法少女を育成するゲーム。彼女たちは推される側、ファンの要望によってあらゆるイベントが発生する」
「は?」
「行動パターンを読んで、魔法少女たちを育てるんだ。リアル魔法少女だよ。そっちの子は気に入ると思うんだけどな・・・」
リルムのほうを見ながら言う。
「さっきの勇敢な姿を見て、是非入れたいってファンからの要望が多くてね」
「!!」
男が嬉々として話していた。
リルムが顔を歪める。
「実際ここの魔法少女たちは強かっただろ? あの空軍機を追い込むほど・・・・」
ザッ
「黙れ、クソが・・・」
剣で裂いたが、全く手ごたえがなかった。
電子の粒になって、ドラゴンと男が消えていく。
「胸糞悪い」
男は死んだわけじゃない。
ただ、移動しただけだ。
リルムを連れて行けないとわかって、消えたのだろう。
『さっきの戦闘は負けちゃった。次こそ勝つよ、ねぇ、リーラン』
魔法少女が近くのモニターに向かって話す様子が映っている。
「コレ、わざと置いてったよね?」
「だろうな」
モニターだけが取り残されていた。
「あたしたち、人間のおもちゃみたいじゃん・・・さっき、捕まってたらあたしもこうゆうふうに・・・・」
縄の解けたリルムが、呆然と見ながら呟いた。
「・・・・・・」
ファナが短い溜息をついて、髪を後ろに流していた。
モニターに映った魔法少女たちの笑い声が不気味に響いている




